転校生君と元お隣さんと図書委員君
色々あって遅れました。
しばらくは更新遅くなります。
「チッ……中山と新谷さんだったか」
「……」
開けたドアの先、教室の中。
何故か僕の席に座ってジッとこちらを見ている美山さんと、僕にまで聞こえるほど響く舌打ちをして、こちらを睨む多々良君。
僕、なにかしたかな……。
「あれ、美山さんと多々良君?」
「あの、僕の席……まあいいか。先にポスター貼るね」
「なんだかデジャヴュだね」
「既視感を覚えたくはないよ。まったく……」
どこか楽しそうに話す新谷さんに肩を竦めて見せる。
画鋲をいくつか教卓の中から取り出し、以前貼っていた手洗いポスターの隣に今日貰った保健委員長力作のポスターを貼り出す。みんなは見ないだろうけど……
「ねえねえ、中山君。多分だけど、多々良君は美山さんに用事があるだけだよ?」
「見ればわかるよ。美山さんに相手にされてないけど」
「そうみたいだね」
2人でこそこそ言い合いながら美山さんと多々良君を見る。
美山さんは僕を……いや、新谷さんもか。交互に見ながら何か難しい事を考えているように眉をひそめる。
多々良君は僕を射貫くような鋭い目つきで睨んでくるのでため息しか出ない。僕は美山さんといい関係になりたいと願っているように見える多々良君の味方なんだけどなあ?
「……」
「美山、もういいだろ?返事がほしいんだけど」
「……奏に許可を取って」
「なっ!?なんでアイツの許可がいるんだよ!?」
「……」
なんの許可か知らないけど、僕を巻き込まないでほしいな。
無意識に目のあたりに力が入り、僕の顔を見たらしい新谷さんに肘で脇腹をトントンとされて自覚した。
「うーん……。多々良君、よくわかんないけど良いよ」
多々良君が何を望んでいるかは知らないけど、多分美山さんに対して悪いようにはしないだろうという考えで口にする。
「「……は?」」
美山さんはぽかんと口を開けて、多々良君は目をしばたかせる。隣にいる新谷さんの反応はわからないけど、『ちゃんと聞いたほうがいいんじゃないかな、中山君』と小さく呟いてる。いや、大丈夫でしょ。きっと、多分。
「前から気になってたから言うが……中山、もう少し考えても良いんじゃないか?」
「え、多々良君は別に美山さんに対して危害を加えるわけでもないんでしょ。なら僕から言うことはないし、僕に許可を求めさせる美山さんの責任でしょう?」
「いや、それはそうだけどな。あー……もう、なんなんだよお前!」
頭をガシガシと掻いて苛立たしげにしている多々良君。
せっかくツンツンに固めてた髪崩していいの?勿体ない。なんて思っていると本当に困ったような声を出して呻いている多々良君。
「これで三度目だぞ……。意味がわからない……」
「僕はキミが敵対的な方が意味わからないんだけど……」
本当に困るのは僕の方なんだけどな?そういった意味を含めて多々良君と美山さんに目を向ける。
美山さん、そろそろその口を閉じたほうが良いよ。せっかくのかわいらしい雰囲気が台無しになるから。
「中山、本当に良いんだな?」
呆然としている美山さんをちらりと見た多々良君は少し顔を歪ませた後に、敵対的な表情から真剣な表情に変えて、僕の真意を探るように見てくる。
このよくわからない件に関しては、僕の本心も何もない。言った事が全てなのだ。だから頷いて笑顔を向ける。
多々良君が心配することは何もない。そういう意味をこめて、とびきりの笑みを。
「……美山、やっぱさっきのはナシだ。悪かった」
「……どうして?……中山君が許可したから、私から言った以上、約束は違えない」
「幸運が降って湧いたような状況には違いないんだけどな」
多々良君は僕の笑みを見て、美山さんに目を向けて頭を下げる。
美山さん的にはその行動もびっくり対象だったみたいだけど、僕を巻き込んで言った以上はと真剣な表情で話す。そういえば中山君と呼ぶ声は冷たい感じがして、美山さんの僕への態度は悪化しただろうけど、僕を巻き込んだ以上はキミに味方する意味もない。
多々良君はため息と自嘲するように曖昧に笑い、僕を見る。
「俺だけじゃないけど、何人かは美山の事を本気で好きなんだよ。本気で。だから偶然や幸運で付き合えるならそれでもいいと、付き合ってからでも好きになってもらえるとさっきまでは思っていたんだ……」
「もしかしてさっきの許可云々って……」
新谷さんが目尻をピクピクさせて引き気味な声色で確認を取る。
「そうだ。新谷さん達がドアをバンバン叩いている時に、俺は美山に告白の返事を聞いていたんだよ」
「う、うわあ……」
人と恋仲になるかどうかで、勇気を出して告白していた多々良君に対して、僕の許可が得られたら付き合うとか返事していたに等しい美山さん。
マジか。こいつマジか。という目をして美山さんを見て、全力で引いている新谷さん。僕も大体同じ気持ちだ。けど、ごめんね。その裏で僕らがしていた行動も他人に話すと多分引かれるよ。
「美山の中には中山がいる。それこそ自分の今後を左右させる選択を任せるくらいには大きい。それに対して中山は、イヤミな事も言った俺をなぜか信頼したり、手放しで了承したり……」
疲れたように眉間に寄ったシワを指で解して、また1つため息を吐く。幸せ逃げちゃうよ、多々良君。
「なんだか虚しくなってきてな……一旦気持ちを落ち着かせたいし、返事はナシだ。ただ、美山さん。俺は諦めないからな。中山より良いって思わせられるよう頑張るから、その時に改めて告白させてくれ。今度は……ちゃんと返事をくれよ」
曖昧に笑う多々良君に対して、美山さんは微妙な顔をしている。今どきの学生の恋愛事情ってこういうのなの……?
見てるこっちまで渋い顔になりそうな状況に逃げ出したくなる気持ちが湧いてくる。
「……中山」
「なに?」
「おまえは……いいのか?」
「相変わらずわからない言い方するけど、何が?」
「美山は多分最初から……」
そこまで言って口を閉じる多々良君。口にするのが嫌だという感じがするけど、僕の答えがわかっててそうするのはなんか違くない?
と思いつつ、口に出さないと相手には伝わらないよなあ、なんて。
「多々良君。別に僕がとやかく言うことでもないし、気にする必要もないから、良いよ?」
美山さんは僕の机に顔を伏せて腕で完全に見えなくしている。
眠くなったのかな?……なんてね。
「……おまえ、本当にわからない奴だな。普通なら美山と仲良くなりたいって思うし、近寄るやつに牽制の1つくらいするもんだけどな」
「うーん……初日から知ってるでしょ?僕はキミが言うところの普通じゃないんだよ」
「みたいだな。今までもそうだが……」
僕の返事に肩を竦めてもう睨むこともしない多々良君。次に口にする言葉を何か考えているようで……
キーンコーンカーンコーン
もうすっかり聞き馴染みのある鐘?の音が教室のスピーカーから流れる。完全下校の合図だ。放送部であろうどこか聞き覚えのある生徒の声が下校を促している。
「そろそろ帰らなきゃね。新谷さん、最後まで付き合わせてごめんね?」
僕が声をかけると、僕らを見ながらボーッとしていたらしい新谷さんがあたふたと慌てて手をブンブン振り始める。
「う、ううん、大丈夫だよ!私も帰るタイミング見失ってたから!」
「……ごめんな、新谷さん」
「多々良君も大丈夫だから!むしろ私達が邪魔をしてごめんなさい!」
「あの……新谷さん?席を占拠されてる僕はむしろ謝られる方かと思うんだけど」
「別に話しながらでもカバンは取れるよね?」
「いや、まあ……」
言われた通り話しながら、机の横に掛けた自分のスクールバッグを手に取る。机に伏せて腕で顔を隠していた美山さんが、モゾッと動いて僕をちらりと見る。…見た気がする。
「美山さん。みんな帰るよ?キミもはやく準備しなよ」
「……」
顔を上げて自分の荷物を持ち、僕を一睨みしたあとにスタスタと教室から出ていく──
バンッ!という音と共に教室の引き戸が閉まる。……力任せに思い切り閉めたせいで、反動から少し開いてしまっているけど。
「「「………」」」
3人で顔を見合わせた後に、多々良君が僕に目で何かを訴えてくる。多分、このタイミングだと『追いかけなくていいのか?』という意味だろうか。頭を横に振り、多々良君をむしろ促すように肩に手を置いて、『行ってらっしゃい』と呟いてあげる。
多々良君は少し迷った後に、僕の手を払い、美山さんを駆け足で追いかけていった。
「美山さん、怒ってたね」
「そうだね」
取り残されてなんとなく見送ってしまった僕と新谷さん。美山さんが怒っていたことについて、新谷さんは何かを考え込むようだったけれど、それも一瞬のことだった。
「中山君。美山さんの事だけど、もう少し考えてあげた方がいいと思うよ?」
「考えておくよ」
僕の返事に納得いってないのか、手に持っている重めのバッグでボスボスと僕の背中を叩く。そんな新谷さんに苦笑いが零れた。
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