転校生君と保健委員さんの考え
「覚悟してね、中山君!私達、仲良くなりたいって決めたらしつこいからね!」
彼女は動きをつけてそう言い放つ。ビシッ!と効果音が聴こえてきそうな程にキレのある動きで、人差し指を僕の心臓の辺りに向かって突きつけて。
「……」
多分今の僕は、ぽかんとして口が開いてるだろう。
口が渇くのも厭わずに、驚きを顕わにする姿は滑稽に映るだろう。
「なーに、その顔」
片方の手で口元を隠してクスクスと笑う新谷さん。そんな彼女を見て言葉を返せない。
どうしてそこまで、僕なんかに。
「私ね。こうして普通に話してるけど、本当に男の人って苦手で。いつもかおりがさ、間に入ってくれてたんだ」
「……赤羽君はともかく、僕には最初から普通だったと思うんだけど?」
「うん、そうだね。中山君はさ、なんというか警戒心が湧かないというか。男の子って感じがしないっていうか……?多分、かおりも同じことを言うと思うな」
うーん、複雑な心境。背が低いってのもあるだろうけど、なんだかなあ。そんな考えが見えたのか見えていないかはわからないけど、新谷さんは少し目を泳がせていた。
「でも、情報の時間に男の子達が見てたアレに顔を赤くしてたから……やっぱり中山君は男の子なんだなって。わ、私のもその後にジッと見てたよね……?」
「ぬぐっ……あ、あれは、その、ごめんなさい」
課外活動の班の人と昼食をとった自己紹介の日、あれは本当にたまたまなんだよ。普段は気をつけてるけど!
なんて言ったところで意味が無いので素直に謝る。母さんから言われていたはずなのに、ジロジロ見るなんて……
「ううん。普段から気をつけてくれているんだなってのはわかるよ。いつも話すときは目かちょっと逸らして別のところ見てるみたいだから」
「目をずっと合わせるのはしんどいから、遠くを見たりはしてるね」
「普通はチラチラと見るみたいだよ。例えば林道君とか多々良君の視線はよく感じるかな……」
「ええ……そういうのバレちゃうのか。女子ってすごいね」
もしかして林道君が時々教室でちみ姫さんに詰め寄られてるのって、そういう視線を自分以外に向けた嫉妬心からだったり……まあ流石にないか。流石に。
というか林道君も多々良君もバレバレなんだってさ。見るならバレないようにしなきゃ……新谷さんのは確かに目を引くんだけどさ。上村さんじゃないけど、おっきいよね、新谷さん。
「何か変な事を考えてない?」
「考えてないよ」
「食い気味に……怪しいけど、そういう事にしておくよ」
半目でジロッと見られる。顔には出てないはずだけど、反射的に答えたのはちょっとまずかったかな……
僕の様子に、ふうっと1つ息を吐いて仕切り直しにかかる。
「私、本当はみんなとこうしてお話したいんだ。女の子も男の子も関係なく。だから中山君と話せるのってすっごく嬉しいの」
「よくわかんないけど、お眼鏡に叶ったのかな」
「うーん、これ言うと怒られるか呆れられちゃうと思うけど」
唇に人差し指を当て、また視線が上向きになり何かを考えながら前置きをする新谷さん。
「中山君が初日にね、川瀬さんと津田君に言ってた知らない人や友達がいないっての。なんだか川瀬さん達が慌ててたのに、中山君がニコニコしながら言ってて、この人なんだろう。変わってるなって思ったんだよ。入学したばかりなのに、あんなに人気者な2人……美山さんも含めて3人だけど、その3人とは他の人が羨みそうな関係らしいのに笑顔で遠ざけてたから。そこからちょっと興味が湧いて、それで勇気を出して話しかけたんだ」
そんな事で?とも思ったし、なんなら初日からやらかしたなあなんて思ってもいたんだけど。もしかしてあの時の話がなければ、保健委員会の帰りに新谷さんと会話することも課外活動での班が一緒になることもなかったのかな。
「でもそれだけじゃなくてね?3人以上で集まると一歩引いたりしてるよね。バスの中は流石に離れられないけど、窓の外に目を向けてたり」
「それはまあ……僕が話さなくてもみんなが勝手に話したりするからで」
「そこだよ!そこも気になるの!」
ズイッと顔を近づけてくる新谷さんに2歩くらい下がろうとして教室のドアにぶつかる。
中から何か聞こえた気もしたけど、もし誰かいるならホントごめんなさい。
「あの、新谷さん?」
「私達が話している時にもっと話に入って来ていいよ?」
「僕にそれは無理というか、上村さんみたいにズイズイ入っていけるわけないでしょ……」
「どうして?バスの中では、視線は逸してたけど普通に話せていたのに」
「あの時は特別というか、行事だったから。そりゃあいつもと違う……あの、そろそろ離れて」
限界とばかりに肩を持ち、新谷さんを押して後ろに下げる。
シャンプー?リンス?柔軟剤?多分香水ではない何かの甘い香りが鼻を擽るくらいには近い距離だったので、流石に僕には長時間は耐えられない。これでも健全な男子高生ですよ?警戒心無さすぎて逆に引く。
「もう、中山君ってば!」
新谷さんを遠ざけたのにまた次の瞬間には息が触れ合うくらいに近づいて、強くドアに手をついた訳ではないけど、まるで物語の強気王子様タイプが弱気少女な主人公にするような見事な壁ドン……いや、ドアドン?を見せてくる。
『配置逆じゃない?』とかふざけた事を思うくらいには冷静だけど、多分冷静じゃない僕。これでもかなり恥ずかしくて顔が熱い。
新谷さんの事を絶対に見ないようにしてもう一度、今度は強めに肩を後ろに押す。思っているよりは力が入ってしまったので、強くしすぎたかもと思って慌てて新谷さんを見るも倒れてる様子はない。何をされたのか分からずに『?』を浮かべている。
きょとんとした後に、眉を吊り上げて私怒ってますアピールをしてくる新谷さん。髪で見えにくいけど多分そう。
「私達に遠慮なんてしなくていいのに!」
「むしろキミたちが……新谷さんが遠慮してくれない?」
「え、なんで?」
「キミ、本当に男の人苦手?全くそうは思わないんだけど……」
意識されてないのかなんなのかわからない新谷さんに対して、顔が火照っているのに気づかれないようにオーバーリアクションでやれやれとしてみる。本当に、新谷さんは……?
「っ?」
一瞬だけ目が眩んでしまい、少しふらつく。
なんだろう、一瞬新谷さんが誰かと被って見えたような気がした。あれは……
僕のふらついてしまった状況を見て、少し慌てた様子で僕に近づこうとするので手で制する。『ドキドキして余計に調子が悪くなりそうだよ』と思いつつも、流石に失礼だったかなと新谷さんの様子を窺うとこちらを心配そうに見ているだけだった。
「えっと、体調悪いの?大丈夫?」
「多分」
「ごめんね、お話長かったよね」
「いや、そういうのじゃないけど……」
「けど?」
「ううん、なんでもない。でもまあ、早く終わらせて帰りたいかな」
ふらついた僕を心配してくれるのはありがたいけど、そろそろいい加減このおかしなやりとりを誰かに見られそうで、恥ずかしさから手に持ったポスターをチラつかせる。
「そうだね。……あのね、関係ない事も言ったけど、中山君と仲良くなりたいのはホントだから。1回話せたらお友達!なんて考えはないけど、課外活動でいってくれた修学旅行も私達と行くのが楽しみって言葉も忘れてないからね!」
新谷さんがうんと頷いたのを見て、切り替えて教室のドアを開ける。なんだか都合の良いように僕の話したことが解釈されてる気もしないではないけど、否定する意味が無いので聞いておくだけに止めた。
開けたドアの先、教室の中を見るとそこには2人のクラスメイトが残っていたらしい。先程の壁ドンならぬドアドンや話してる内容を聞かれたかもなあ。なんて考えていたけど、そんなことより。
あの、そこは僕の席なんですけど、お隣さ……美山さん。
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