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【閑話】第二幕:約束のお肉、山ほど(後編)

「約束のお肉、山ほど(前編)」の続きです。

ゼッペルくんの設営指揮のもと、北の丘でいよいよ宴が幕を開けます。

前編から続けてお読みいただくと、より楽しめる内容になっています!

 第632環、瑠璃月るりづきの三巡目、火律かりつ

 港湾都市マーレンを囲む巨大な石造りの北門付近には、心地よい活気と、どことなく浮き足立った空気が漂っていた。


 陽4刻半ようよんこくはん

 約束の時刻に集まったのは、総勢十五名の冒険者たちだ。チヅル一行の三名に加え、『暁の盾』のゼッペルたち四名、エマ一行の四名、およびシービィ一行の四名。


 カルディアス大陸の瑠璃月は、暦の上では冬だが、その空気は驚くほどさわやかだ。海側から吹き抜ける穏やかな風には、微かな潮の香りと、乾いた草の匂いが混じっている。見上げる空は透き通った瑠璃色で、柔らかな日差しが冒険者たちを優しく照らしていた。


「ごきげんよう、みんな! 忘れ物はないかな?」


 チヅルの突き抜けるような明るい挨拶に、一同が「おう!」「準備万端ですわ!」と威勢よく応える。見渡せば、各自が抱えた荷物にそれぞれの個性が滲み出ていた。


 エマ一行のコレットは、香りの良いほおの葉で幾重にも包まれ、さらに頑丈な麻袋に収められた極太の腸詰ソーセージを、まるで聖遺物でも扱うかのような手つきで大事そうに抱えている。脇に控えるルカは、市場で仕入れたばかりの瑞々しい野菜が直接詰め込まれた、ずっしりと重い麻袋を黙って肩に担いでいた。


 一方、シービィ一行のセオンは、一人で八ケイグランはあろうかという巨大な肉の山を運んでいた。それらは全て一枚ずつ朴の葉で丁寧に包まれ、ずっしりと膨らんだ大きな麻袋にぎっしりと詰められている。セオンはその重量感のある袋を、逞しい両腕で正面からしっかりと抱きかかえ、決して手放さないという静かな、けれど凄まじい執念を全身から漂わせていた。


「皆さん、揃いましたね。では、北の丘まで出発しましょう!」


 ゼッペルの号令とともに、一行はなだらかな坂道を登り始めた。


***


「……坂、けっこうあるじゃん。……トレーニングするには、いい感じか」


 しばらく歩いたところで、ユイが首筋の汗を拭いながらポツリと漏らした。

 人通りのないのどかな小道を、十五人は思い思いの足取りで進んでいく。澄んだ空気が肺を満たし、ユイの隣ではセラムがおっとりとした歩調を刻んでいた。


「私たち、訓練で走って登っているので、暁の盾のメンバーは慣れているんですよ、この道」

「……走っては登っていません。歩いて登っています」


 ゼッペルがすかさず、真面目な顔で訂正を入れる。担ぎやすく分割された焚き火台の一部を背負っているが、その呼吸は一切乱れていない。


「あら、では先日も『特訓だ!』って叫びながら駆け上がっていたような……」

「……あれは特別な事情がありました」


 ゼッペルはバツが悪そうに視線を逸らした。その耳が、心持ち赤くなっているのをチヅルは見逃さなかった。


(……ゼッペルくん、カワイイ)


 チヅルは内心でクスクスと笑いながら、目の前に広がり始めた絶景に目を細めた。


 坂を登りきった先――そこには、見渡す限りの草地が広がっていた。

 南を振り返れば、マーレンの港と、そこから広がるカルディアス内海が一望できる。青い海面には白い船影が点々と浮かび、透き通った空気の向こうで陽光を反射している。そして北東には、ルミナス山脈の荒々しくも美しい稜線が、空との境界線をくっきりと描き出していた。


「まあ……素敵な場所ね」


 ラズベルが感嘆の声を漏らし、桃色の髪を風に遊ばせながら景色を見渡す。


「わぁ、すごくいいね! 見晴らしがとても良くて清々しいー」


 チヅルも大きく両手を広げて深呼吸をした。瑠璃色の空はどこまでも高く、澄み渡った空気には乾いた草の香りが混じっている。草地は一環いっかんの終わりに近づくにつれて緑が少しずつ薄くなり、柔らかな黄金色を帯びた葉が海風に吹かれてさらさらと心地よい音を立てていた。降り注ぐ陽光は肌に優しく、火照った頬をなでる風が最高に気持ちよかった。


「ここが……俺たちのとっておきの場所です」


 ゼッペルが、普段の生真面目な表情を少しだけ緩め、誇らしげに告げた。


***


 陽5刻を過ぎる頃には、陽は東の空から十分な高度に達し、世界を鮮やかに塗り替えるような力強い光を投げかけ始めていた。朝の柔らかな空気感から、万物を鮮明に映し出す活動的な輝きへと移ろい、瑠璃色の天蓋から注がれる眩いばかりの陽光が、北の丘の草地を隅々まで白々と照らし出している。


 ゼッペルのテキパキとした采配により、設営は瞬く間に進んでいった。手帳を開き、風向きと火の粉の飛び方を厳密に計算して焚き火台を配置するその姿は、まるで陣地を構築する軍師のようだ。


「火つけ、やります!」


 テューリが杖を掲げ、炭に魔法を放とうとしたが、気合が入りすぎたのか一瞬大きな炎が上がった。


「テューリ! 加減!」

「す、すみません……!」


 慌てて顔を赤くするテューリの隣に、ユイが音もなく歩み寄り、「落ち着けって。魔法は加減が命だぜ」と、テューリの肩を優しくポンと叩いた。

 不意に近づいたユイから漂う、凛とした空気とわずかな汗の匂い。彼女が首を傾げるたびに、揺れるポニーテールからハーブのようなふんわりと甘い香りがこぼれ、テューリの鼻腔をくすぐった。

 テューリがその芳しさにどぎまぎして固まっていると、ユイは手本を見せるように炭へ指先を向けた。


「ほら、見てな。……これでどうだ」


 ユイが指先をパチンと鳴らすと、極小の紫電が炭の隙間を縫うように走り、次の瞬間には芯から赤々と熱を帯び始める。非の打ち所がない、完璧な着火だった。


「わぁ、すごい! 一発で着火させるなんて……」


 間近で見たユイの横顔と、鮮やかすぎる魔力制御。テューリは憧れにも似た熱い感情が胸に込み上げるのを感じ、耳の端まで真っ赤にして俯いてしまった。


 そんなテューリをみて、ユイは「雷使いは火加減も得意なんだぜ」と言ってニヤリと笑った。

 根拠は謎だったが、その圧倒的な手際の良さが、テューリの心に消えない憧れを刻み込んでいた。


 火が安定したところで、いよいよお待ちかねの「食材披露大会」が始まった。


 まず進み出たのはエマだ。「バランスが大事ですので」と、色鮮やかな緑黄色野菜と大量の根菜を丁寧に並べていく。その隣で、コレットが麻袋から朴の葉で包まれた大きなソーセージを取り出して豪快に置き、テューリは林檎や梨といった果物の山を築いた。

 ルカが無言で置いた根菜の山を見て、エマが驚愕の声を上げる。


「あ、改めてみるとルカくん、根菜が一番多いように見えるけど、全部食べられる……かな?」

「……食えるだろ」


 ルカの淡々とした返答に、周囲からどっと笑いが起きた。


 続いてシービィ一行。セオンが宝物でも扱うように大切に抱えていた大きな麻袋をどさりと置き、朴の葉に包まれた塊肉を次々と取り出していく。ガウル、ジャイアントボア、ケロス、ベックス。各部位二ケイグランずつ、計八ケイグランの塊肉が並ぶ光景は圧巻の一言だ。


「おい、これで十五人分いけるよな?」

「知らん! セオンがいるから、計算はしてねー」


 シービィの真顔での回答に、ドーレスが頭を押さえる。当のセオンは、すでに腕を組んで肉を凝視しており、その背後には見えない闘気が立ち上っているかのようだった。


 そして真打ち、チヅル一行の番だ。

 ラズベルがマジックバックパックから取り出したのは、分厚い塊肉の燻製――。


「「「………!?」」」


 一同が固唾を呑んで見守る中、ラズベルが口を開いた。


「ワイバーンのテール肉の燻製です」


「え、ワイバーン!?」

「ワイバーンのテール肉……!」


 シービィとコレットが、磁石に引き寄せられるように身を乗り出した。レッサーワイバーンは、Dランク冒険者が数人がかりでようやく仕留められる魔物だ。その肉は癖がなく濃厚な旨味を蓄えており、万人受けする食材として常に高い需要を誇る。なかでもテールは希少部位であり、煮込みやシチュー、あるいは燻製など、多彩な料理で愛されている。その独特の弾力と溢れ出す肉汁は、冒険者ならずとも誰もが垂涎するほどの大好物だ。


「燻製肉には、やっぱこれがなきゃ始まらねーよな!」


 ユイが、マジックバックパックから「竜殺しの琥珀」の小樽を取り出した。行きがけに冷えた状態で購入したため、マジックバックパックの経年劣化防止機能のおかげで、ほぼ購入した時の状態を保っている。


「すごい、小樽が冷えてる……」


「ねぇ、エマ。あれってマジックバックパックよね。Dランクって、あんなに装備が豪華なの?」


 驚くテューリに、エマが「……私たちがDランクに昇格したとしても、簡単には買えないわよ」と遠い目をして答えた。


***


「焼き加減はあたしに任せて。みんなは座って待っていてね」


 ラズベルが焼き網の前に立つと、異論を唱える者は誰もいなかった。彼女の料理が一級品であることを、ここにいる全員が身をもって知っているからだ。

 武骨なドーレスが、無言でラズベルの隣に立ち、助手として黙々と野菜を並べ始める。


「ドーレスさん、お手伝いありがとう」

「……慣れてる」


 短い一言。どうやら彼は、この手の作業が嫌いではないらしい。

 ジューッ、と肉の焼ける小気味よい音と、暴力的なまでに芳醇な香りが丘の上に広がり始めた。

 ちょうどその時、風に乗って遠くマーレンから「カラーン、カラーン」と天頂の鐘の音が届いた。陽7ようななこく。最高のランチタイムの始まりだ。


「さあ、焼けたわよ! ワイバーンのテール肉燻製は表面を軽くあぶる程度が一番美味しいわ」


 ラズベルの言葉に、ゼッペルが真剣な顔で頷き、手元の手帳に「燻製:火は弱め、香りを出す」とメモを取る。


「ゼッペルくん、食べ方までメモしてるの?」

「……今後の、参考にするだけです」


 チヅルのツッコミに、ゼッペルはまたしても耳を赤くして目を逸らした。


 その隣では、セオンによる「静かなる食の嵐」が巻き起こっていた。

 大きな麻袋の中身が、一枚ずつ丁寧に剥がされた朴の葉の山に変わっていく。セオンは焼き上がったガウルのロース肉を、一切の迷いなく、けれど味わうように次々と口へ運んでいく。


「おい、セオン! 少しは遠慮しろ。俺たちの分までなくなるだろうが!」

「……ん」


 セオンは一切動じない。凄まじい勢いで肉が消えていく光景に、パドが半べそをかきながら自分の取り分を必死に確保しようとするのを、ドーレスが黙って彼の肩を軽く叩いてなだめていた。


 ユイが「竜殺しの琥珀」の小樽と、それを載せるための専用台――ガントリーをラズベルのバックパックから取り出すと、それを見ていたシービィとゼッペルが同時に声を上げた。


「あ、ユイの姉御! その樽の設置、俺たちがやるぜ!」

「ええ。力仕事は我々にお任せください。しっかりと設置しますので!」


 前のめりな二人の提案に、ユイは「おっ、話がわかるじゃん。頼むぜ」とニヤリと笑って場所を譲った。シービィが勇んでずっしりと重い小樽を逞しい腕で抱え上げ、その傍らでゼッペルがユイからガントリーを受け取り、地面の水平を確かめて手際よく設置した。その上に、シービィが小樽を慎重に寝かせた。


蛇口タップは打ち込んであるな。いくぜ!」


 ジョッキを持って、シービィが勢いよくコックをひねったが、中身がチョロチョロとしか出てこない。


「あれ、おかしいな。故障か?」

「リーダー、何やってんだよ。空気穴の木栓を抜かないと、スムーズに出るわけねーだろ」


 パドが呆れたように樽の上部の栓を抜くと、ゴボッという音とともに、赤みがかった美しい琥珀色の液体が勢いよく流れ出した。


「うおぉ……いい香りだぜ……」


 シービィが珍しく静かになり、その香りに見惚れる。

 ゼッペルが希望者のジョッキに手際よく注いでいく。セオンは注がれた瞬間、無言で一気に飲み干し、即座に空のジョッキを差し出した。


「はやっ!」


 一方、お酒が苦手なメンバーにはテューリが特製ジュースを振る舞っていた。ルカが柑橘系のフルーツを素手でジョッキに握り潰し、一滴残らず絞り出す。


「……慣れてるんですね」


 引き気味のセラムに、フィズィが「わぁ、すごく新鮮!」と目を輝かせる。


 ラズベルは「アンブロシア・ミードは、度数が高いからゆっくりね」と注意しながら配っていった。


「もぐもぐ……ゴクゴク……ぷはーっ! 最高だねぇ!」


 チヅルが肉を両頬に詰め込んだままミードを飲み干し、幸せそうに声を上げる。


「……ち、チヅルちゃん、お行儀が悪いわよ」


 ラズベルの苦笑いさえも、この宴の良きスパイスとなっていた。


***


 宴が進む中、予期せぬ伏兵が全員の舌を制圧した。

 フィズィが控えめに差し出した、小さな薬草塩だ。


「これ、どこで買ったんだ? めちゃくちゃ肉に合うぞ」

「……自作です。罠の調合で余った薬草を組み合わせただけで……」


 ノーアの驚愕に、フィズィは照れくさそうに俯く。ワイバーンの肉にその塩を少しつけて食べたシービィが、「……うまい。マジで、なにこれ」と手を止めた。セオンに至っては、黙って薬草塩の小瓶を自分の手元へ引き寄せようとして、フィズィに「全員分なので……!」と必死に止められていた。


「フィズィちゃん、これ作り方を教えてもらえないかしら? ぜひあたしのレパートリーに加えたいわ」

「ほ、本当ですか……!? ラズベルさんに、そんな……!」


 尊敬する先輩からの頼みに、フィズィの瞳がこれまでにないほどキラキラと輝いた。


 少し離れた場所では、肉を片手にしたコレットがユイに詰め寄っていた。


「ユイさん……稽古の件、いつにしましょうか! 私、もう準備はできています!」

「今日は食う日だろ。……しゃーねーな、次巡の光律こうりつでどうだ? それでよければ、ギルドの訓練場を押さえとくぜ」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 喜びを爆発させるコレットの横で、パドがおずおずと手を挙げる。


「あの……俺も、混ぜてもらえますか?」

「あぁ、いいぜ。その代わり泣き言はなしだ。厳しくなるが、覚悟しとけよ」


 ユイのぶっきらぼうな、けれど拒絶しない物言いに、パドが小さくガッツポーズを作った。


***


 陽8ようはちこくを過ぎる頃。

 食事も一段落し、一行は思い思いの姿勢で草地に寛いでいた。

 炭火の残りがパチパチと小さな音を立て、穏やかな暖かさを提供している。


 ゼッペルがふと手帳を開いた。

 今日のためにびっしりと書き込まれた準備リスト。そのすべての項目の横に、小さな「✓」が入っている。

 彼は満足げに頷くと、余白に今日の日付と『北の丘・15名・快晴。約束を果たす。』とだけ書き添えた。


(……几帳面だなぁ)


 その様子を隣で見ていたチヅルは、何も言わずに微笑んだ。彼のような生真面目な男がいたからこそ、この完璧な一日が実現したのだ。


 ラズベルは、一人で北東の稜線をじっと見つめていた。


「……故郷、見えるか?」


 ユイが隣に腰を下ろし、低い声で尋ねる。


「さすがにそこまでは見えないけれど……。でも、あの稜線の向こうにみんながいると思うと、なんだか懐かしいわ」

「……そっか」


 ユイはそれ以上何も聞かず、ただ一緒に遠い山影を見つめた。


「姉御! 次のクエストも、絶対に一緒にやろうぜ!」


 不意にシービィが、ジョッキのエールを煽りながら宣言した。


「ん? 丁度良かった。手が足りなくていろいろと相談されてたんだよ。一応聞くけど、どんなにきつくても文句言わないよね?」

「えっ、もう何かあるのか? ……へへっ、望む所だぜ! 文句なんて言うわけねーだろ、当たり前だ!」


 チヅルの不敵な笑みに、シービィが勢いよく応じる。

 すると、ゼッペルが居住まいを正してチヅルを見た。


「……俺たち『暁の盾』も、ぜひご一緒させてください。まだ未熟ですが、盾としての役割は果たせると自負しています!」

「私たちも、是非、お供させてください。バランスの良い支援をお約束します!」


 エマも真剣な眼差しで続く。

 ユイとラズベルが顔を見合わせ、ニヤニヤと笑い始めた。


「よし、じゃあ早速段取りを決めておくね」


 チヅルは、頼もしい十二人の若き冒険者たちの顔を一人ひとり順番に見渡した。


(……なんだか、にぎやかな仲間が増えちゃったね)


 共に行動したEランクパーティーの面々。彼らはこれからも、別々の空の下で研鑽を積み、それぞれの冒険を刻んでいくだろう。時には抗いがたい困難に直面し、立ち止まる日があるかもしれない。だがその時、あの過酷な依頼で結ばれた絆が、再び彼らの背を押すはずだ。共に死線を越えた仲間がいるという事実は、何物にも代えがたい戦利品として、常に彼らの内側にあり、未来を切り拓くための消えない光となっている。


***


 陽9ようきゅうこく頃。

 日が傾き始め、瑠璃色の空がゆっくりと茜色を帯び始めた。


「そろそろ片付けましょうか」


 ゼッペルの言葉に、全員が自然と動き出した。十五人もいれば、片付けは驚くほど早い。ゴミ一つ、炭の一欠片も残さない徹底ぶりは、流石は冒険者といったところだ。


「ゼッペルくん、今日は本当にありがとう。最高に楽しかったよ」


 チヅルが最後に改めて礼を言うと、ゼッペルは一瞬言葉を詰まらせ、それから深く頭を下げた。


「……いえ、俺たちの方こそ、本当にありがとうございました。……また、よろしくお願いします」


 その言葉には、儀礼的な挨拶を超えた、戦友への深い敬意が込められていた。


「うん。よろしくね!」


 チヅルはニッコリと満面の笑みを返した。


 北の丘を後にし、ゆるやかな坂道を下りていく十五人の影。

 てんでばらばらに笑い合い、冗談を言い合いながら歩く背中は、一つの大きな家族のようにも見えた。


 チヅルは坂を下る直前、一度だけ立ち止まって振り返った。

 誰もいなくなった、清々しい北の丘の草地。そこにはまだ、先ほどまでの賑わいと、美味しいお肉の香りがかすかに残っているような気がした。


(……また、来よう)


 声には出さず、心の中で呟いた。

 チヅルは前を向き、みんなの後を追って歩き始める。


 『幸運の羅針盤』が指し示す次の冒険は、きっと、今日よりもさらに騒がしく、そして喜びに満ちたものになるはずだ。


閑話「約束のお肉、山ほど」、完結です。お付き合いいただきありがとうございました!

戦いの合間にあるこういうひとときを、チヅルたちと一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

賑やかな仲間たちと過ごす、なんでもない最高の一日。

チヅルたちにとって、こういう日常こそが大切な宝物なのかもしれません。

翌日掲載予定の閑話は、訓練場での一幕です。引き続きよろしくお願いします!

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