■第87話:髪が伸びる日本人形! ……えっ、呪いの前に「温湿度の徹底管理」と「ニカワの劣化防止」ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
「……ふぅ! 3キロのウォーキング、なかなかいい汗をかくではないか。ふくらはぎの筋肉が喜んでいるのがわかるぞ」
神ドラマスは、ヒナタの教え通りに有酸素運動をこなし、シャワーを浴びてスッキリした顔でモニターの前に戻ってきた。
画面の中では、ヒナタたちが王都の片隅にある「曰く付きの古いお屋敷」の蔵を探索しているところだった。
「おお、次なる怪異は日本人形(市松人形)か! 持ち主の情念を吸い、髪を伸ばし、すすり泣くという呪いの器……」
ドラマスは、スポーツドリンクを飲みながらニヤリと笑った。
「人形は無機物! 呼吸もしていなければ、内臓もない! これまでの妖怪に通じた『健康指導』や『食事療法』は一切通用しないぞ! さあヒナタよ、この絶対的なオカルト現象を前に、どう出る!?」
【場所:人間界・曰く付きの古い蔵】
「うわぁ、ホコリだらけですね。換気しないとカビ臭いです」
ヒナタは、四次元リュックからハンディモップを取り出し、蔵の中をパタパタと掃除しながら進んでいた。
「ゆ、勇者殿、この蔵には昔から『呪われた人形』が封印されているという噂が……」
セバスチャンが、背後でガタガタと震えながら懐中電灯(魔力ライト)を照らす。
その光の先。
部屋の奥に置かれた古い桐箱の蓋が、ギギギ……と音を立ててひとりでに開いた。
『……うらめしや……』
中から立ち上がったのは、色褪せた赤い着物を着た、おかっぱ頭の市松人形だった。
その無機質なガラスの瞳がヒナタたちをギョロリと睨みつけ、みるみるうちに、おかっぱだった黒髪が足元までズルズルと長く伸びていく!
さらには、真っ白な陶器の頬を伝って「赤い血の涙」がポロリとこぼれ落ちた。
「ひぃぃぃッ!! で、出たァァッ!! 髪が伸びて、血の涙を流しておりますぞォォッ!!」
セバスチャンが腰を抜かす。
『私ヲ……捨テタ……憎イ……。オ前タチモ、呪ッテヤル……』
人形が、伸びた髪を触手のようにウネウネと動かし、ヒナタに襲いかかろうとした、その瞬間。
「ちょっと待って!!!」
ヒナタの、オカルト現象を物理法則でねじ伏せる「アンティーク修復士」が蔵の中に響き渡った。
『……エッ?』
人形は、伸びた髪を空中でピタッと止めた。
ヒナタは、ホコリだらけの桐箱にズンズンと歩み寄り、人形の伸びた髪と赤い涙をビシッと指差した。
「あなた!! こんな風通しが悪くてジメジメした蔵に何十年も放置されて! 髪の毛(絹糸)が極度の湿気を吸って『撚り(より)』が戻り、重みでダラーッと伸びきっちゃってるじゃないですか!!」
『ヨ、ヨリガ戻ル……? 呪イデハナク……?』
「それに、その赤い涙!!」
ヒナタは、人形の頬を指差した。
「湿度のせいで、目元の固定に使われていた昔の接着剤(動物性のニカワ)が溶け出し、顔の塗料と混ざって流れ出てるんですよ!! これ以上放置したら、お顔の美しい胡粉(ごふん・貝殻の粉の塗料)が全部剥がれ落ちてしまいます!!」
『ニカワガ……溶ケテル……!?』
人形は、自分の頬に触れ、そのネチャッとした赤い液体の正体(劣化した接着剤)に気づいて絶望の表情(※人形ですが)を浮かべた。
「大体、こんな無造作に桐箱に突っ込んでおくなんて、前の持ち主はアンティークドールの『保存と管理』を全くわかっていません!!」
ヒナタは、四次元リュックから、「除湿機」「天然毛の超極細ダストブラシ」「アンティーク専用の修復用ニカワ」「純度100%の椿油」、そして「UVカット仕様の特注アクリルケース」を取り出した。
「ゴズさん、除湿機のスイッチを入れて! ヴァレリアさん、ピンセットで目元の古いニカワを慎重に除去してあげてください!」
「ふむ。剣の切っ先よりも精密な作業だが……任せておけ」
ヴァレリアが、信じられないほどの集中力で人形の目元のクリーニングを開始する。
『ナ、何ヲ……。私ハ呪イノ人形……』
「【究極のドール・メンテナンス&ヘアケア】です!!」
ヒナタは、極細のダストブラシで人形の顔や着物のホコリを優しく、愛を込めて払い落とした。
そして、湿気で伸びきってパサパサになっていた髪の毛に、最高級の「椿油」を数滴なじませ、細かい目の櫛で丁寧に梳いていく。
『アァ……。何十年モ放置サレテ、ガサガサダッタ髪ニ、潤イガ戻ッテイク……』
ヒナタの手によって髪の保湿とコーティングが行われると、絹糸本来の美しいツヤが蘇り、湿気を含んでだらしなく伸びていた髪も、ヒナタのハサミで「完璧な黄金比のボブカット」へと切り揃えられた。
「仕上げは保存環境です! 着物の防虫剤(無臭タイプ)と一緒に、このUVカットのアクリルケースに入ってください。湿度は常に『50%前後』をキープしますからね!」
数時間後。
そこには、髪が伸びて血の涙を流す不気味な呪いの人形の姿はなかった。
色鮮やかな着物をまとい、髪はシルクのように輝くボブカット、お顔は透き通るような純白を取り戻した、「国宝級に美しいアンティーク・ドール」が、湿度管理の行き届いたクリアケースの中で誇らしげに微笑んでいた。
『……アリガトウ。私、本当ハ、綺麗ニシテ欲シカッタダケナノカモシレナイ……。コノ完璧ナ湿度……最高ヨ……』
人形は、ケースの中からヒナタに向けて、優雅にペコリとお辞儀をした。
「良かったですね! その美しさなら、王都のブティックで『新作着物のディスプレイ・モデル』として大活躍できますよ!」
ヒナタが、アクリルケースをピカピカに磨き上げる。
「……ゆ、勇者殿。呪いの日本人形が……『温湿度管理を徹底された、超一流の専属ファッションモデル』になってしまいましたぞ……」
セバスチャンは、そのあまりの美しさに魅了され、王城の玄関に飾るための契約書を書き始めていた。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、無言でスポーツドリンクを飲み干した。
『無機物の日本人形が……「湿気で絹糸が伸びただけ」「血の涙はニカワの劣化」と物理法則で完全論破された……』
『挙句の果てに、椿油のヘアケアとUVカットケースでモデルとして就職した……』
ドラマスは、深く、長く息を吐き出すと、自らの神殿の奥に眠っている「大切なコレクション(神具やレアアイテム)」の保存状態が急に心配になり、通販サイトで「業務用・大型防湿庫」と「シリカゲル(大容量パック)」を慌ててポチり始めるのだった。
(第87話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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