■第73話:深夜の怪異・枕返し! ……えっ、悪戯の前に「オーダーメイド枕のフィッティング」ですか?
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【場所:天界・管理室】
「……妖怪の恐ろしさは、物理攻撃だけではない。人間の無防備な状態、つまり『睡眠』を狙う者こそが真の恐怖なのだ」
神ドラマスは、もはや健康情報番組のコメンテーターのような落ち着きでモニターを見つめていた。
画面の中では、徹夜で妖怪たちを「清掃」と「メンテナンス」で浄化し終えた勇者一行が、王城の豪華な客室でようやく深い眠りについていた。
「そこで現れるのが、座敷わらしの悪辣版とも言える妖怪、枕返しだ。寝ている人間の枕をそっと外し、足元へ移動させる……。ただそれだけの地味な妖怪だが、起きた時の『えっ、なんで枕が逆になってるの!?』という心理的恐怖と不気味さは計り知れない!」
ドラマスは、静かにゴクリと息を呑んだ。
「さあ……。ヒナタよ、お前のその無防備な寝首(枕)をかかれる恐怖を味わうがいい!」
【場所:人間界・王城のスイートルーム】
スゥ……スゥ……。
広々としたベッドで、ヒナタは幸せそうな寝息を立てていた。その首元には、一反木綿から「洗濯の御礼」としてもらった純白のタオルケットが掛けられている。
その、静まり返った部屋の暗がりから。
音もなく、小さな影がスルスルと這い出してきた。
童子のような姿をした小柄な妖怪――枕返しである。
『ヒッヒッヒ……。どんなに強い勇者でも、寝ている間は無防備だ。このフカフカの枕を足元にやって、首を寝違えさせてやるぞぉ……』
枕返しは、ヒナタの頭の下に敷かれた枕にそっと両手を差し込み、ゆっくりと引き抜こうとした。
その、瞬間である。
ガシッ!!!
『……ピギャッ!?』
枕返しは、短い悲鳴を上げた。
眠っているはずのヒナタの右手が、目にも止まらぬ速さで枕返しの手首を万力のように掴んでいたのだ。
「……ちょっと」
部屋の温度が、一気に氷点下まで下がった(ように感じた)。
ヒナタは、目は閉じたままで、地を這うような低い声(ガチの寝起きトーン)で呟いた。
「今、何しようとしました?」
『ひっ!? い、いや、あの、枕を足元に……』
「睡眠の質(QOL)を何だと思ってるんですかァァァッ!!!」
ガバッ!! と跳ね起きたヒナタの怒声に、隣の部屋で寝ていたセバスチャンやゴズたちまでが「敵襲か!?」と武器を持って飛び込んできた。
「ゆ、勇者殿!? いかがなされた!!」
「ブモォッ!(どこのどいつだ、安眠を妨害する奴は!)」
しかし、部屋の真ん中では、ヒナタが小さな妖怪(枕返し)を正座させ、烈火の如く説教を始めていた。
「いいですか!? 枕っていうのは、人間の頸椎の自然なS字カーブを維持するための、生命線なんですよ! それを勝手に引き抜いたり、高さを変えたりしたら、ストレートネックが悪化して首のシワも増えるし、気道が塞がって睡眠時無呼吸症候群になるじゃないですか!!」
『す、睡眠時無呼吸……?』
枕返しは、ヒナタの圧倒的な「健康に対するガチギレ」に震え上がった。
「大体、あなたのその枕の引き抜き方! 雑すぎます! 人の頭と首の形は千差万別! 仰向けで寝る人と横向きで寝る人でも、必要な高さは全然違うんですよ!」
ヒナタは、四次元リュックをひっくり返し、「採寸用のメジャー」「低反発ウレタン」「そば殻」「マイクロビーズ」「パイプ素材」など、大量の枕の中材を取り出した。
「ふむ。また始まったな。勇者の『深夜の健康講座』が」
ヴァレリアが、大剣をしまってあくびをしながらベッドに腰掛ける。
「はい、枕返しさん! ペンとメモを持って!」
ヒナタは、枕返しの小さな手にメジャーを持たせた。
「寝首をかく暇があるなら、王城の皆さんの『正しい枕のフィッティング』を手伝いなさい! まずはセバスチャンさんの首のカーブから測りますよ! 顎の角度は5度が理想です!」
『えっ!? 俺、妖怪なのに人間の首の角度を!?』
「セバスチャンさん、上を向いて! 枕返しさん、首とマットレスの隙間は何センチですか!?」
『さ、3センチですっ!』
「なら、中材は柔らかめのビーズで高さを微調整! 次、ゴズさんは横向き寝が多いから、肩幅の分だけ両サイドを高めにしてウレタンを詰める!!」
『は、はいっ! 両サイド高め、ウレタン詰め込みます!!』
ヒナタのスパルタ指導の下、枕返しはいつの間にか「スリープアドバイザーの助手」へとクラスチェンジさせられていた。
持ち前の「他人の枕をこっそりいじる(手先の器用さと足音の無さ)」という妖怪スキルが、ここに来て「寝ている人を起こさずに、最適な高さの枕へとすり替える」という神業的なフィッティング技術として開花したのだ。
『ヒナタ先生! 国王様の枕、低すぎていびきをかいていたので、気道が確保できるように首元を1センチ高く調整しておきました!』
「素晴らしいです、枕返しさん! これで国王様の肩こりも劇的に改善しますよ!」
数時間後。
王城のすべての寝室には、枕返しによってミリ単位で調整された「極上のオーダーメイド枕」が配置され、城中がかつてないほどの深い安眠(と静かないびき)に包まれていた。
「……ゆ、勇者殿。あの悪戯妖怪が……王城専属の『凄腕スリープアドバイザー』になってしまいましたぞ……」
セバスチャンは、自分の首のカーブに完璧にフィットした枕に頭を沈め、あまりの心地よさに抗えず、そのままスヤァ……と夢の世界へ旅立っていった。
『ヒナタ先生! 俺、これからはもう人の枕をひっくり返しません! みんなが朝スッキリ起きられるように、最高の枕職人を目指します!』
枕返しは、メジャーを首から下げ、目をキラキラと輝かせながらヒナタに頭を下げたのだった。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、自分の肩を揉みながらモニターを見つめていた。
『睡眠を狙う恐怖の妖怪が……「枕の高さが違う!」とガチギレされて、オーダーメイド枕の職人になった……』
『「睡眠時無呼吸症候群になるぞ!」って……勇者が妖怪に医学的なリスクを説教してる……』
ドラマスは、無言で引き出しからメジャーを取り出すと、自分の首と椅子の背もたれの隙間を測り始め、明日「人間工学に基づいた高級低反発枕」を買いに行くことを心に固く誓うのだった。
(第73話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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