■第7話:ようこそ最初の街へ。……えっ、その「牛」はペットですか?
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【場所:港町「ポルト」・領主の館】
「よ、ようやく着いた……!」
王国の宰相セバスチャンは、白亜の街並みを見て、涙を流して地面に崩れ落ちた。
王都を出てから数週間。
本来なら数日の距離を、寄り道、キャンプ、虫取り、迷子を経て、ようやくたどり着いたのだ。
「さあ、勇者殿! ここは交易の要衝。領主のグラン侯爵が待っていますよ!」
セバスチャンは身なりを整え(やつれているが)、ヒナタたちを領主の館へと案内した。
【場所:領主の館・応接室】
「おお! よくぞ参られた、勇者殿! そして宰相閣下!」
出迎えたのは、立派な髭を蓄えた領主、グラン侯爵だった。
彼は極度の緊張と興奮の中にいた。
なんせ、あの「剣聖ヴァレリア」と「賢者エイル」が音信不通になり、それを救出(?)して連れ帰った勇者一行だ。どれほどの猛者たちが現れるのかと身構えていたのだ。
「我らが街の英雄よ! さあ、どうぞこちらへ!」
グラン侯爵は最上級の敬意を持って、勇者を上座に案内した。
しかし。
「わあ……。綺麗なシャンデリアですねぇ」
「この絨毯、ふかふかですね。土足でいいんですか?」
入ってきた勇者ヒナタは、全くオーラがなかった。
緊張感のカケラもなく、キョロキョロと内装を褒めちぎっている。
「えっ……? あ、貴方が勇者殿……ですかな?」
グラン侯爵が戸惑う。
「はい、日向です。初めまして~」
ヒナタはニコニコと握手を求めた。
その手は、剣ダコ一つなく、白くて柔らかい。
(……弱い? 魔力も覇気も全く感じないぞ?)
グラン侯爵は冷や汗をかいた。
チラリと横を見ると、最強の騎士ヴァレリアと、賢者エイルが控えている。
しかし彼らも、どこか「毒気が抜けた」ような顔で、出されたクッキーをパクついていた。
「宰相閣下……。これは一体……?」
侯爵が小声で尋ねる。
「……何も聞くな。私の胃に穴が開く」
セバスチャンは遠い目をした。
「コホン。……して、勇者殿。魔王討伐の秘策などはありますかな?」
侯爵が話題を振る。
「秘策ですか? うーん……」
ヒナタは真剣な顔で考え込んだ。
侯爵が身を乗り出す。
「とりあえず、美味しい海鮮丼が食べたいですねぇ」
「は?」
「あと、市場でお土産も買いたいです。この街、ガラス細工が有名なんですよね?」
「い、いや、そうではなく! 戦略の話を……!」
「戦いなんて危ないですよ。それより、この紅茶美味しいですね。どこの茶葉ですか?」
(だ、ダメだ……! 話が通じない……!)
グラン侯爵は不安になった。
これが世界の希望なのか? ただの観光客ではないのか?
こんな子供に、国の命運を託していいのか?
その時だった。
ドシン! ドシン!
廊下から、重厚な足音が響いてきた。
「勇者ー! 荷物運んだぞー! ブモォ!」
ガチャリとドアが開く。
そこに入ってきたのは、両手に山盛りのトランクやリュックを抱えた、巨躯のミノタウロス(ゴズ)だった。
「ひっ……!?」
グラン侯爵が悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。
「ま、ま、魔族ゥゥゥッ!? なぜここに! 衛兵! 衛兵ェェェッ!」
館の兵士たちが雪崩れ込んでくる。
「魔物だ! 出会えーッ!」
「勇者様をお守りしろ!」
室内は大パニックになった。
しかし、当のヒナタは、のんびりと手を挙げた。
「あ、ゴズさん。ありがとうございます~」
「ブモッ! 重かったぜ。……おっ、うまそうな菓子があるな」
ゴズはドサリと荷物を置くと、当たり前のようにテーブルのクッキーをつまみ食いした。
「な……な……?」
グラン侯爵は、口をパクパクさせた。
魔族が……人間を襲わず、荷物を運び、お茶菓子を食べている?
しかも、あの最強の騎士ヴァレリアも、賢者エイルも、剣を抜くどころか「ご苦労だったな」と場所を空けてやっている。
「ゆ、勇者殿……! あれは……!?」
ヒナタはきょとんとして答えた。
「え? 友達のゴズさんですよ。力持ちで優しいんです」
「と、友達……?」
「はい。森で会ったので、仲良くなりました」
ズガァァァン!!
グラン侯爵の脳内に衝撃が走った。
(森で会った……魔族を……手懐けた……だと!?)
侯爵は、恐る恐るヒナタを見直した。
相変わらず、ニコニコと紅茶を飲んでいる。覇気はない。殺気もない。
……だが。
(待てよ。凶暴なミノタウロスを、こうも完全に服従させている……。並大抵の力ではないぞ?)
(いや、それだけではない。ヴァレリア殿やエイル殿までもが、彼に付き従っている……)
侯爵の「常識」が、猛スピードで「誤った解釈」へと再構築されていく。
(そうか……! 彼は「弱い」のではない!)
(あまりにも次元が違いすぎて、「強さを悟らせない」領域に達しているのだ!)
(覇気がない? 違う、完全にコントロールして「無」にしているのだ!)
(魔族すらも、彼の圧倒的な「器」の前には、ペット同然ということか……!)
「す、すげぇ……」
グラン侯爵は震えた。
未知への恐怖と、底知れない実力(勘違い)への畏怖。
「勇者殿……! 貴方は一体……!」
「ん? 僕はただの日向ですよ?」
ヒナタは首を傾げた。
「あ、ゴズさん。クッキー食べ過ぎると夕飯が入らなくなりますよ」
「ブモォ……(しょぼん)」
あの大柄な魔族が、たった一言でシュンとなる。
それを見た侯爵は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(間違いない……。この少年は、魔王をも超える「化物」かもしれん……)
「ははは……! これは頼もしい!」
グラン侯爵は、引きつった笑顔で大笑いした。
「いやはや、お見それいたしました! 宰相閣下が『何も聞くな』と仰った意味がわかりましたぞ!」
「そうですか? よかった~」
ヒナタは何もわかっていないが、とりあえず場の空気が和んだのでニコッと笑った。
【場所:天界・管理室】
『なんでだよォォォォッ!!』
神ドラマスが、モニターに向かってツッコミを入れた。
『なんで「魔族がいる」=「勇者が凄い」になるんだよ!』
『あいつ(ゴズ)、ただ餌付けされただけだぞ! 麦茶とキュウリで懐いただけだぞ!』
しかし、下界の勘違いは止まらない。
街の噂は瞬く間に広がっていた。
『新しい勇者は、魔族を顎で使うほどの使い手らしい』
『一見普通に見えるが、それが逆に怖いらしい』
『くそっ……! 私の想定した「勇者像」とは違うが……』
『まあいい! とりあえず街には着いた! 次は船だ! 海を渡るんだ!』
ドラマスは気を取り直した。
しかし、彼はまだ知らなかった。
ヒナタがこの「美食の街」を、そう簡単に離れるはずがないことを。
「市場の視察に行きましょう! 試食コーナーを制覇しますよ!」
「ブモォォォ!(行くぜぇぇぇ!)」
(第7話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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