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■第69話:不気味な妖怪・垢嘗! ……えっ、素手(素舌)で掃除は不衛生だからゴム手袋着用ですか?

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


【場所:天界・管理室】

「……まだだ。夜はまだ長いぞ」


神ドラマスは、もはや悟りを開いたような凪いだ瞳でモニターを見つめていた。

一反木綿はマフラーにされ、がしゃどくろは正座で説教され、砂かけばばあは良質な土壌改良剤を納品して帰っていった。

しかし、百鬼夜行は終わらない。


「ヒナタめ、物理攻撃や精神攻撃には強いようだが、次に来る妖怪は『生理的嫌悪感』の塊だ。王城の風呂場に潜み、人々の恐怖と汚れを喰らう不気味な妖怪、垢嘗あかなめ……! さすがの勇者も、あのヌメヌメした長い舌と不潔さにはドン引きして逃げ出すはずだ!」


【場所:人間界・王都の王城(大浴場)】

深夜。

砂の回収作業を終え、王城の客室で休もうとしていたヒナタたちの耳に、奇妙な音が届いた。


……ペチャッ、ズルルッ、レロレロ……。


「ひぃぃっ! な、なんの音ですかな!?」


セバスチャンが飛び起きる。


「……水回りから聞こえますね。行ってみましょう」


ヒナタがランタンを片手に、音のする方――王城の大浴場へと向かった。


国王や兵士たちが妖怪に怯えて何日も引きこもっていたため、大浴場はすっかり掃除が行き届かず、湯垢や黒カビが蔓延る不衛生な空間と化していた。

その、薄暗い大浴場のど真ん中で。


『ゲヘヘヘヘ……! 怯えと怠惰から生まれた、極上の水垢と黒カビだぁ……!』


赤い肌、ギョロリとした目、そして体長よりも長い「ヌメヌメと粘液を滴らせる長い舌」。

不気味な妖怪・垢嘗あかなめが、床の汚れをその長い舌でベチャァッ!と舐め取っていた。


「出たァァァッ!! 妖怪・垢嘗ですぞ!!」


セバスチャンが悲鳴を上げる。


「あの不気味な舌で舐められたら、毒や病気で死んでしまいます! 勇者殿、危険です!!」

『ヒッヒッヒ! 人間どもめ、俺様のこのおぞましい姿に震え上が……』


「ちょっとストップ!!!」

ヒナタの、大浴場に響き渡るような鋭い怒声が飛んだ。


『へ?』


垢嘗の長い舌が、空中でピタリと止まる。

ヒナタは、怯えるどころか、ズカズカと垢嘗の目の前まで歩み寄り、その不気味な顔をビシッと指差した。


「あなた!! 今、その素舌すじたで直接お風呂の汚れを舐めましたね!?」

『えっ? あ、はい。俺、垢嘗なんで……』

「衛生観念どうなってるんですか!!」


ヒナタは、鬼の形相で説教を始めた。


「お風呂場の汚れっていうのは、人間の皮脂汚れだけじゃなくて、雑菌の温床なんですよ!? それを直に口に入れるなんて、食中毒になりたいんですか!! 妖怪だからってお腹壊さない保証はないんですよ!!」

『しょ、食中毒……? いや、俺様は汚れを食う妖怪で……』

「言い訳しない! 掃除をするなら、正しい知識と道具を使いなさい!!」


ヒナタは、四次元リュックから、オカンの最終兵器である「厚手のゴム手袋」「防毒マスク」「防水エプロン」、そして「重曹」と「クレンザー」を次々と取り出した。


「ふむ。また勇者の『謎の儀式』が始まったな」


ヴァレリアが大剣をしまい、腕を組んで見守る。


「はい、まずこれ着けて!」


ヒナタは、呆然としている垢嘗に、強引にエプロンを着せ、ゴム手袋を嵌めさせ、長い舌を無理やり口の中に押し込んで防毒マスクを装着させた。


『モガッ!? モゴゴッ!?(息苦しい! 俺のアイデンティティの舌が!!)』

「お風呂場の掃除は科学です! 皮脂汚れのような酸性の汚れには、アルカリ性の『重曹』! そして、頑固な水垢には『クエン酸(今回はクレンザー)』を使って研磨するんです!」


ヒナタは、垢嘗のゴム手袋の手をガシッと掴み、そこに重曹ペーストとスポンジを握らせた。


「さあ、舌じゃなくて手とスポンジを使って! 円を描くように優しく、でも力強く磨く!! はい、ゴシゴシゴシッ!!」

『モゴォォォッ!!?(妖怪の尊厳がァァァッ!!)』


しかし。

ヒナタのスパルタ指導(ハウスクリーニング講座)の下、数分間スポンジで床を磨き続けた垢嘗は、ある事実に気がついた。


『……モゴ?(あれ? 舌で舐めるより、重曹とスポンジを使った方が、圧倒的に早く、しかもピカピカになるぞ……!?)』


垢嘗の妖怪としての本能(汚れを落としたい・綺麗にしたい)が、科学の力(洗剤)と出会い、劇的な化学反応を起こしたのだ。


『モゴォォッ!!(す、すげぇ! 俺の舌じゃ何百年かかっても落ちなかった黒カビが、根こそぎ落ちていく!!)』


垢嘗は、防毒マスクの下で感動の涙を流し、もはや誰の指示も受けずに、凄まじいスピードで大浴場中を磨き始めた。


壁のタイル、排水溝、蛇口の裏側まで。妖怪ならではの敏捷性と体力をフル活用した、完璧なプロの清掃作業である。


「おお! 蛇口のステンレス部分もピカピカですね! いい仕事してますよ!」


ヒナタが腕を組んで褒め称える。


『モゴッ!(任せてくだせぇ、師匠!)』


数時間後。

王城の大浴場は、新築時よりも輝くような、完璧な「無菌空間」へと生まれ変わっていた。


「……ゆ、勇者殿。あの不気味な妖怪が……ただの『優秀な清掃業者』になってしまったのですが……」


セバスチャンは、ピカピカになった床に反射する自分の顔を見つめながら、力なく呟いた。


「いやぁ、腕のいいお弟子さんができてよかったです! 垢嘗さん、これからもこの王城の水回りの定期清掃、お願いしますね!」

『モゴォッ!(喜んで、師匠!!)』


垢嘗は、すっかりヒナタの「清掃技術」に惚れ込み、首にタオルを巻いたプロのハウスクリーニング業者として、王城に再就職を果たしたのであった。


【場所:天界・管理室】

『…………』

神ドラマスは、無言でモニターを見つめていた。


『生理的嫌悪感の塊が……「ゴム手袋」と「重曹」を持たされて、プロの掃除業者に転職した……』

『「素手(素舌)で掃除するな、食中毒になるぞ」って……妖怪に衛生管理を強要する勇者がどこにいるんだよ……』


ドラマスは、もはや怒る気力すら湧かず、静かに自分の管理室の窓ガラスを、新聞紙と重曹水を使ってキュッキュッと磨き始めるのだった。

(第69話・完)


本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!


ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


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