■第62話:気温の急上昇! ……えっ、王都の防衛戦より「味噌の防衛戦」ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
「よし! 夜が明けたぞ!」
神ドラマスは、充血した目でモニターを睨みつけていた。
王都では、一晩中暴れ回った妖怪たちが、朝日を避けて一旦森へと退いている。しかし、今夜再び百鬼夜行が始まれば、いよいよ王国は壊滅の危機に瀕するだろう。
「昨日は『味噌の仕込み』とかいう狂った理由で出撃を渋っていたが、一晩経ったのだ! 今日こそ、ヒナタはロック鳥に乗って王都へ凱旋し、妖怪どもを聖剣で……!」
ドラマスが期待に胸を膨らませた、その時。
ジリジリジリジリ……ッ!!
画面の中の「魔王城」を、容赦ない直射日光と、尋常ではない熱波が包み込んだ。
季節外れの異常気象。魔王領の気温が、朝から急激に上昇し始めたのだ。
「……ん? なんだこの異常な暑さは……。いや、まあいい。気温が高かろうが、勇者の使命には関係な……」
【場所:魔王城・中庭の味噌蔵(特設)】
「た、大変です!! 緊急事態です!!」
ヒナタの、かつてないほど切羽詰まった悲鳴が魔王城に響き渡った。
「ゆ、勇者殿!? いかがなされました! ついに妖怪討伐の決心が……!」
セバスチャンが、荷物をまとめて駆けつけてくる。
しかし、ヒナタは巨大な味噌樽に張り付き、温度計(魔道具)を握りしめて青ざめていた。
「この急激な気温の上昇……! このままじゃ、樽の中の温度が上がりすぎて、『過発酵』を起こしちゃいます!!」
「……は?」
セバスチャンが間抜けな声を漏らす。
「過発酵すると、酵母菌が暴走してアルコール臭が強くなったり、酸味が出すぎて風味がガタ落ちになっちゃうんです! せっかくの魔界大豆と最高級麹のバランスが崩壊する、大ピンチですよ!!」
『な、なんだとォォォッ!!?』
その悲鳴を聞きつけ、農作業着の魔王と、日傘をさしたヴラドが血相を変えて飛んできた。
『おのれ、この異常気象め! 我らが手塩にかけた「特製・魔界味噌」の風味を落とそうというのか!』
魔王が大剣……ではなく、巨大な「うちわ」を構える。
『許さん……! この味噌が完成すれば、俺の朝食(大根の味噌汁)がどれほど豊かになるか……! 太陽の熱如きに、我らの熟成を邪魔されてたまるかァァッ!』
ヴラドが、日傘を放り投げて(少し肌を焼きながら)樽の前に立ち塞がった。
「皆さん! すぐに樽を日陰に移動して、温度を下げないと! 氷の魔法を使える人はいませんか!?」
ヒナタが叫ぶ。
「ブモォォッ!(俺は風魔法ならいけるぜ! 送風だ!)」
ゴズが、凄まじい鼻息と魔法で樽に冷風を送り始める。
「ふむ。私の剣圧で、周囲の熱気を切り裂いてみせよう」
ヴァレリアが、真剣な顔で素振りを開始した。
魔王城は今、妖怪襲来以上の「最大級の防衛戦(味噌の温度管理)」に突入していた。
「あ、あの……勇者殿?」
セバスチャンが、震える声でヒナタの肩を叩く。
「王都が……王都の防衛戦は……!?」
「セバスチャンさん! 今は王都に戻ってる場合じゃありません!!」
ヒナタは、樽に濡れタオルを巻きつけながら、キッパリと言い放った。
「妖怪は夜にならないと本格的に動かないですよね!? でも、味噌の発酵は『今、この瞬間』も進んでるんです! 1度の温度変化が命取りなんですよ!!」
「い、命の優先順位がおかしいィィィッ!! 何が『1度の温度変化が命取り』ですか!! 王都の民の命が危ないんですよ!!」
「王都の皆さんは、お札とか粗塩でなんとか耐えてください! 僕たちはこの樽の温度を25度以下に保つことで精一杯なんです!」
ヒナタは、額の汗を拭いながら、完全に「職人の目」になっていた。
『勇者の言う通りだ! セバスチャンとやら、貴様も突っ立っていないで氷を持ってこい! この味噌蔵(魔王城)の危機なのだぞ!』
魔王が、必死の形相でうちわを仰ぎながら一喝する。
「ここは魔王城であって味噌蔵じゃないでしょうがァァァッ!!」
セバスチャンの悲痛なツッコミは、ゴズの送風魔法の音にかき消されていった。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、静かにモニターから目を逸らし、天井の模様を数え始めた。
『勇者が……国難を前にして「味噌が過発酵するから帰れない」と叫んでいる……』
『魔王が「味噌蔵の危機だ!」と氷を運んでいる……』
『妖怪の百鬼夜行が……「温度管理」に負けた……』
ドラマスは、もはやツッコミを入れる気力すら失い、引き出しから「自律神経を整えるハーブティー(※ヒナタの真似)」を取り出して、虚無の表情でお湯を沸かし始めるのだった。
(第62話・完)
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