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■第61話:王都に新たな脅威・妖怪現る! ……えっ、お味噌の仕込みがあるから帰らないんですか?

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


【場所:天界・管理室】

「……や、やってしまった……ッ!」


神ドラマスは、モニターの前で頭を抱え、ガタガタと震えていた。

画面に映し出されているのは、魔王城……ではなく、人間界の「王都」である。


しかし、その王都の空は不気味な妖気(紫色の雲)に覆われ、街のあちこちで見たこともない異形のモンスターが暴れ回っていた。


「一つ目の傘(からかさ小僧)に、首の伸びる女(ろくろ首)、そして巨大な鬼……! 間違いない、ヒナタの世界(日本)の『妖怪』だ!」


ドラマスは、分厚い召喚の記録書をパラパラと捲り、白目を剥いた。


「ヒナタをこの世界に召喚した時、魔方陣の出力設定を間違えて、日本の霊脈から妖怪の群れまで一緒に引っ張ってきてしまっていたのか……!!」

「奴らめ、王国のはずれの森に潜伏して少しずつ妖力を蓄え、ついに『百鬼夜行』として攻勢に出たというわけか!」


だが、ドラマスはそこでハッと顔を上げた。


「……いや、待てよ? これは好機だ!」


ドラマスは神の杖を握り直した。


「魔王との戦いは『農業と料理』でウヤムヤになってしまったが、この得体の知れない妖怪の群れなら、さすがのヒナタも剣を抜いて戦わざるを得ないはず! ついに、ついに光の勇者としての真の姿を見せる時が来たのだ!!」


【場所:魔王城・中庭】

『……よし。大豆の茹で加減はこれくらいでいいか、ヒナタよ』

「はい、完璧です魔王さん! 指でつまんで、スッと潰れるくらいの柔らかさがベストです!」


その頃、魔王城の中庭では。

勇者ヒナタと魔王(エプロン姿)が、巨大な釜で大量の「魔界大豆」を茹で上げ、それを臼と杵で潰すという「自家製・魔界味噌の仕込み」の真っ最中であった。


「ブモォッ!(次は俺が潰すぜ!)」


ゴズが杵を振り下ろし、ヴァレリアが塩と麹の分量をきっちりと量っている。


『ふむ。この発酵食品とやら、完成すれば我ら吸血鬼の血液の質もさらに向上しそうだな』


吸血鬼のヴラドも、すっかり健康オタクの顔で麹を混ぜていた。

そこへ。


「ゆ、勇者殿ォォォォォッ!!」


城の奥から、宰相セバスチャンが血相を変えて転がり出てきた。

その手には、王都との緊急連絡用の『通信の魔水晶』が握られている。


「た、大変です! 人間界の王都から、緊急の救援要請が……!」

「あ、セバスチャンさん。ちょうどお昼にします? 茹でたての大豆、お塩で食べると美味しいですよ!」


ヒナタが、ザルに盛ったホクホクの大豆を差し出す。


「大豆を食っている場合ではありません!!」


セバスチャンは、涙目で魔水晶を突きつけた。


「王都が……謎の『妖魔あやかし』の群れに襲撃されているのです! 一つ目の傘の化け物や、首が異常に伸びる女、皿を頭に乗せた緑色の小鬼カッパなど、我が世界の魔物とは全く異なる異形の軍勢が……!」

「えっ」


ヒナタの動きが止まった。


(おおっ! ついに勇者の目に戦士の光が……!)

セバスチャンが期待を込めて見つめる。

ヒナタは、パチパチと瞬きをして言った。


「からかさ小僧に、ろくろ首に、河童ですか? ……なんだか、おばあちゃん家で読んだ絵本みたいで懐かしいですねぇ」

「な、懐かしんでいる場合ですか! 王都の騎士団でも歯が立たず、国王陛下から『勇者よ、魔王討伐を一時中断して至急王都へ帰還せよ』との絶対命令が下ったのです!!」


セバスチャンが叫ぶ。

さあ勇者よ、立ち上がれ! と、天界のドラマスも拳を握りしめる。


しかし。

ヒナタは、腕を組み、釜の中の大量の大豆を見て、困ったように眉を下げた。


「……至急戻れと言われましても。今からお味噌の発酵に入る、一番大事な時期なんですよ」

「……はい?」

「ここで僕が帰っちゃったら、せっかくの魔界大豆の風味が落ちちゃいます。お味噌の仕込みは、温度管理と愛情が命なんですから!」


ヒナタは、キッパリと言い放った。


「そんな『ちょっと妖怪が出た』くらいで、この大プロジェクトを放り出して帰るわけにはいきません!」

「よ、妖怪が出たくらいでって……国が滅びかけてるんですよ!?」

『うむ。勇者の言う通りだ』


隣で杵を持っていた魔王が、深く頷いた。


『人間界の王都がどうなろうと知ったことではないが、この「魔界特製・熟成味噌」の仕込みを邪魔されるのは、魔王として看過できん』


魔王は、エプロンをバサリと翻した。


『王都の者たちには「勇者は今、味噌作りで手が離せない」と伝えておけ』

『左様。発酵という神聖な儀式を途中で投げ出すなど、男の恥ぞ』


ヴラドまでもが、麹の入った樽を抱きしめながら同調する。


「お、お前たち……魔族のトップが揃いも揃って、何を『味噌蔵の頑固オヤジ』みたいな顔をしてるんだァァァッ!!」


セバスチャンは、魔水晶を地面に叩きつけそうになるのを必死でこらえた。


「お願いです勇者殿! このままでは王都が妖怪の手に落ちてしまいます! せめて、せめて一度様子を見に行くだけでも……!」

「うーん……。でも、河童が出るなら、キュウリの収穫も済ませておきたいし……」


ヒナタは、完全に「妖怪=珍しいお客さん」のテンションでスケジュール帳(農作業用)を捲っている。


「とりあえず、今日はお味噌を樽に詰めて、明日になったらロック鳥さんのタクシーで向かいましょうか。それまで王都の皆さんには、『節分のお豆』でも撒いて耐えてもらってください!」

「お豆で妖怪が倒せるわけないでしょうがァァァッ!!」


セバスチャンの悲痛な叫び声が、平和な魔王城の中庭に空しく響き渡った。



【場所:天界・管理室】

『…………』


神ドラマスは、モニターの前で白く燃え尽きていた。


『勇者が……国難よりも「味噌の仕込み」を優先した……』

『魔王と吸血鬼が……「発酵の邪魔をするな」と勇者を擁護している……』

『おのれヒナタ……! お前のその「丁寧な生活」への執着心は、国が一つ滅びる危機よりも重いというのか……!!』


ドラマスは、もはやヒナタに「シリアスな勇者」を期待した自分自身を呪いながら、ただただ涙を流すことしかできなかった。

(第61話・完)


本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!


ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


皆様からの応援トラフィックが、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!


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