■第60話:吸血鬼の一族が強襲! ……えっ、朝の換気とガーリックトーストで浄化ですか?
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【場所:天界・管理室】
「……来た! 来たぞォォォッ!!」
神ドラマスは、モニターの前でバンッと机を叩き、歓喜の声を上げた。
画面の中では、魔王城の玉座の間(※ヒナタがすっかり掃除して、今は明るいリビングのようになっている)に、禍々しい黒雲が立ち込めていた。
「吸血鬼の公爵ヴラドは毒牙を抜かれた(レバニラで健康になった)が、彼を慕う『吸血鬼の一族』はまだ納得していない! 誇り高き夜の眷属たちが、魔王に反旗を翻してでも勇者を殲滅しに来たのだ!」
ドラマスは、神の杖を天に掲げた。
「そうだ! 吸血鬼は日光を憎み、ニンニクを忌み嫌う、絶対的な『闇の象徴』! 勇者の家事スキルなど通じない、真の恐怖を見せてやれェェッ!!」
【場所:魔王城・リビング(元・玉座の間)】
『……というわけで、大根の葉は捨てずに、細かく刻んでごま油で炒めると立派なふりかけになるのだな?』
『はい! 魔王さん、飲み込みが早いです!』
魔王とヒナタが、ちゃぶ台を囲んで熱心に「エコクッキング」の話題で盛り上がっている。
その隣では、すっかり顔色の良くなった吸血鬼の公爵ヴラドが、トマトジュースを片手に頷いていた。
その時である。
パァァァァンッ!!
玉座の間の巨大なステンドグラスが外から派手に叩き割られ、無数のコウモリが雪崩れ込んできた。
『……ッ!? なんだ!?』
魔王が立ち上がる。
コウモリの群れは、どす黒い霧へと変わり、そこから十数人の青白い顔をした吸血鬼たちが姿を現した。
ヴラドの弟である急進派の吸血鬼、カーミラとその一族だ。
『ヴラドお兄様!! お助けに参りました!』
カーミラは、鋭い爪を剥き出しにし、血走った目でヒナタを睨みつけた。
『おのれ人間の勇者! 誇り高きお兄様を洗脳し、あろうことか魔王様まで骨抜きにするとは!』
『我らは夜の支配者! 貴様のその血を一滴残らず啜り尽くし、この城を再び「恐怖と血の匂い」で満たしてやるゥゥッ!!』
『ま、待てカーミラ! 早まるな!』
ヴラドが慌てて止めに入ろうとするが、吸血鬼の一族は完全に殺意の塊となっていた。
『さあ、一族の者たちよ! 勇者を八つ裂きにしろ!!』
吸血鬼たちが、一斉にヒナタに向かって飛びかかろうとした、その瞬間。
「ちょっと! ストップ!!」
ヒナタの、オカンのような鋭い大声が響き渡った。
『……えっ?』
吸血鬼たちが、思わず空中でピタリと止まる。
ヒナタは、割れた窓ガラスと、部屋中に充満した「どす黒い霧」を見て、眉を吊り上げた。
「ガラスを割って入ってくるなんて非常識ですよ! それに、この『黒い霧』! ジメジメして湿気がすごいし、ホコリっぽくてカビの原因になります!」
ヒナタは、腰に手を当ててカーミラをビシッと指差した。
「夜更かしして、こんな風通しの悪い暗い場所ばっかりにいるから、お肌が真っ白になるんですよ! 健康の基本は『朝の換気』と『日光浴』です!!」
『な、何を言っている貴様……! 我らは吸血鬼だぞ、日光など……』
「問答無用! 【大魔法・超換気】!!」
ヒナタが、両手でバァン!と空気を押し出すような仕草をした。
それは攻撃魔法ではない。ヒナタが布団を干す時や、部屋の空気を入れ替える時に使う「ただの生活魔法」である。
しかし、勇者の圧倒的な魔力で放たれたその突風は、城を覆っていた暗雲を文字通り「一掃」してしまった。
パァァァァァァッ……!!
雲が晴れ、割れたステンドグラスから、「強烈で清々しい朝日(100%の紫外線)」が、玉座の間に容赦なく降り注いだ。
『ギャァァァァァッ!!? 目が!! 肌が焼けるゥゥゥッ!!』
『空気が……空気が新鮮すぎるゥゥゥッ!! 俺の纏っていた邪悪なオーラ(カビの温床)が、太陽の光で完全殺菌されていくゥゥッ!!』
吸血鬼たちは、床をのたうち回り、マントを被って必死に逃げ惑った。
「ほらほら、日陰に隠れない! ちゃんと深呼吸して! はい、吸ってー! 吐いてー!」
ラジオ体操のインストラクターのようなヒナタの声が響く。
『お兄様ァァッ! 助けて! 勇者の拷問(日光浴)がキツすぎます!!』
カーミラが、涙目でヴラドにすがりついた。
『……カーミラよ。お前たちも、そろそろ「不健康な生活」から抜け出す時が来たのだ』
ヴラドは、清々しい顔で朝日を浴びていた(※レバニラとトマトジュースの鉄分効果で、日光への耐性が少しついていた)。
「朝の空気を吸ったら、次は『朝ごはん』ですね!」
ヒナタは、すかさず携帯用オーブンを開けた。
「魔王さんの畑で採れた『最高級・魔界ニンニク』をたっぷり塗った、『焼きたて特製ガーリックトースト』です! バターもたっぷりですよ!」
フワァァァァン……。
暴力的なまでの、食欲をそそる強烈なガーリックとバターの香りが、玉座の間を支配した。
『ギ、ギャァァァッ!! ニ、ニンニクの匂いィィッ!!』
『ダメだ、この匂いを嗅いだら……我らの吸血鬼としての本能が……っ!』
「はい、カーミラさんもあーん!」
ヒナタは、のたうち回るカーミラの口に、サクサクのガーリックトーストを強引に突っ込んだ。
『んぐぅッ!? ……あ、アァァッ、浄化……』
カーミラの目に、涙が浮かぶ。
『な、なんて香ばしい……! サクサクのパンに、ジュワッと染み出すバターとニンニクの旨味……! 人間の血なんかより、ずっと脳髄を刺激する炭水化物の暴力……!!』
「どうですか?」
ヒナタが笑顔で尋ねる。
『……お、おかわり……。できれば、濃いめのコンソメスープも一緒に……』
カーミラは、完全に牙をしまい、両手でトーストを抱え込んでモグモグと食べ始めた。
他の一族の者たちも、次々とガーリックトーストの魔力に屈し、朝日の中で健康的な朝食を堪能し始めた。
『……ふむ。我が輩の作ったニンニク、やはりパンとの相性も抜群だな。今度はガーリックオイルを量産してみるか』
魔王が、腕を組んで満足げに頷く。
こうして、魔王城を揺るがすはずだった「吸血鬼一族の強襲」は、ヒナタによる「強烈な朝の換気(紫外線殺菌)」と「ガーリックトーストの朝食会」によって、たった5分で鎮圧されたのである。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、もはや涙すら流さず、静かにモニターの電源を切った。
『「夜の支配者」が……朝日を浴びてガーリックトースト食ってる……』
『「血の匂い」じゃなくて、「バターとニンニクの良い匂い」で満たされた……』
『……もう、このファンタジーは終わった。私も農業でも始めようかな……』
ドラマスは、神の杖を窓から放り投げ、ホームセンターのカタログ(農具コーナー)をめくり始めるのだった。
(第60話・完)
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