■第58話:ついに魔王と対峙! ……えっ、隊長が魔王様を席に案内してるんですか?
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【場所:魔王城・地下特級牢獄(改め・高級サロン)】
バァァァンッ!!
地下牢の分厚い扉を蹴り破り、怒りのオーラを纏って突入してきた魔王。
しかし、彼の目に飛び込んできたのは、血の海でも拷問器具でもなく、優雅な「アフタヌーンティーの光景」だった。
『…………は?』
大剣を上段に構えたまま、魔王は完全にフリーズした。
そんな魔王の困惑などお構いなしに、ヒナタはパタパタとエプロン姿で駆け寄ってきた。
「あ! 初めまして、魔王さん! 人間界から来ました勇者のヒナタです!」
ヒナタは、満面の笑みでお辞儀をした。
「お待ちしてました! わざわざ地下までお迎えに来てくださったんですね。ささ、立ち話もなんですから、どうぞこちらへ!」
ヒナタは、スッとアンティーク調の椅子を引き、座面にふかふかのクッションを素早くセットした。
まさに、一流レストランのウェイターのような淀みない動きである。
『き、貴様……!』
魔王は、ハッと我に返り、大剣の切っ先をヒナタに向けた。
『何が目的だ、勇者よ! 我が精鋭たる衛兵隊長に、一体どんな恐ろしい精神支配を……!』
魔王が叫んだ、その時だった。
『いやぁ魔王様、お疲れ様です! まあまあ、とりあえず座りましょうよ』
「精神支配されているはずの衛兵隊長」が、ティーカップを片手に、極めてフランクな調子で立ち上がった。
『なっ……隊長!? 貴様、無事だったのか!? いや、なぜお前が勇者の淹れた茶を飲んで……』
『いやぁ、ヒナタ殿の淹れるカモミールティー、最高なんですよ。最近、玉座でのデスクワークや、裏の畑の農作業で腰が痛いって仰ってたじゃないですか。このソファ、腰にめちゃくちゃ優しいですから。さ、ささ!』
隊長は、あろうことか魔王の背中をグイグイと押し、ヒナタが用意した席へと強制的に誘導し始めた。
『お、おい! 貴様、正気か!? 相手は人間の勇者だぞ!? なぜお前が席を勧めてくるのだ!!』
魔王が抵抗しようとするが、隊長はすっかり「気の利く常連客」のテンションになっていた。
『ああ、お荷物(大剣)お預かりしますね。ヒナタ殿、魔王様にはダージリン? それともアールグレイがいいですかね?』
隊長は、魔王の手からスッと大剣を抜き取り、壁のフック(元・拷問用の鎖)にヒョイと立てかけた。
『えっ……あ、おい、私の剣……!』
「そうですね、お疲れみたいですから、リラックス効果の高いハーブティーにしましょう! ドライフルーツのパウンドケーキも切りますね!」
ヒナタが嬉々としてポットにお湯を注ぐ。
『ちょ、待て! 待たぬか!!』
魔王は、ふかふかのソファに深々と腰を沈められ(強制着席)、目の前に湯気を立てるティーカップを置かれて、完全にパニックに陥っていた。
『こ、これは罠だ! 毒が……いや、恐るべき呪いが入っているに違いない! 私は騙されんぞ!』
魔王がカップを睨みつける。
「あ、そうだ! 罠じゃない証拠に、これ受け取ってください!」
ヒナタは、リュックの中から「立派な魔界大根」と「ツヤツヤのトマト」を取り出し、テーブルの上にドンと置いた。
『……なんだそれは』
「ご近所への引っ越しの挨拶……じゃなくて、お近づきの印です! 城の前の畑で、オークの農家さんからいただいたんですよ。すごく良い土壌で育てられてて、感動しました!」
『……我が直轄の第3農園の野菜か』
魔王の顔つきが、一瞬だけ「農家」のそれに戻った。
『……ふむ。今年のトマトは日照条件が良かったからな。身の詰まり具合も……ハッ! いかんいかん! 誤魔化されるところであった!』
魔王は首をブンブンと振った。
「ブモォッ!(遠慮するな、魔王! 食ってみろ、美味いぞ!)」
ゴズが、自分の皿のパウンドケーキを指差す。
「ふむ。この城の主、なかなかの風格だな。だが、お茶が冷める前に飲んだ方がいいぞ」
ヴァレリアまで、完全に「お茶会の同席者」としてくつろいでいる。
『お前たちは勇者の仲間か!? なぜ魔王である私を囲んで、当然のように談笑しようとしているのだ!?』
魔王のツッコミが、地下牢に虚しく響き渡った。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、モニターの前で冷えピタを額に貼りながら、虚空を見つめていた。
『勇者が魔王に席を用意し……』
『魔王の部下(隊長)が、魔王の武器を取り上げて席に座らせ……』
『魔王が「今年のトマトの出来」について語りかけている……』
『もうダメだ……。世界を救う最終決戦が……完全に「町内会の寄り合い」になってしまった……』
ドラマスは、最終決戦用の「壮大なオーケストラBGM(神が用意した演出)」の再生ボタンを、そっとオフにした。
今のこの空間に似合うのは、どう考えても「のほほんとしたカフェのボサノバ」だった。
【カオスなお茶会の始まり】
『……くっ! ええい、ならば飲んでやろうではないか! 貴様の底知れぬ悪意、この魔王の舌で見破ってくれる!』
魔王は、ついに観念したように(半ばヤケクソで)ティーカップを手に取った。
そして、一口。
『…………』
魔王の目が、カッ!と見開かれた。
(な、なんだこの……絶妙な温度管理! 茶葉の香りを極限まで引き出しつつ、渋みを一切感じさせないこの抽出技術……!)
(そして、ほのかに香るハーブが、日々の農作業と魔王業で疲弊した私の心を、まるで春の陽だまりのように包み込んでいく……!!)
『……魔王様?』
隊長が様子を窺う。
魔王は、プルプルと震える手でカップを置いた。
そして、厳かな、それでいてどこか「敗北」を悟ったような声で言った。
『……勇者よ。この「パウンドケーキ」とやらは、どうやって作ったのだ。我が城の厨房でも再現できるか?』
「もちろんです! レシピ書きますね! あ、この大根でおでんも作りましょうか!」
ついに、人間界の希望たる勇者と、魔界の絶対的支配者たる魔王が、「レシピの共有」という形で和解(?)を果たした瞬間だった。
シリアスな死闘を期待していた者たち(主に神ドラマス)の胃に特大のダメージを与えながら、カオスなティータイムは静かに更けていくのだった。
(第58話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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