■第57話:地下牢でまったり懇親会! ……えっ、玉座の間で魔王様が泣きそうですか?
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
本編をお楽しみください
【場所:魔王城・地下特級牢獄(改め・高級サロン)】
『……もういい。魔王様が呼んでいる。ついてこい……』
衛兵隊長が、完全に戦意を喪失した顔で牢屋の鉄格子を開けた、その時だった。
「ああっ! しまった!」
ヒナタが、片付けかけていたリュックをパタンと落とした。
『な、なんだ!? 罠か!?』
隊長がビクッと身構える。
「ごめんなさい隊長さん! 僕としたことが、一番大事なことを忘れていました!」
ヒナタは、再びリュックからティーセットと、焼きたてのパウンドケーキ(フルーツたっぷり)を取り出し、テーブルにセッティングし始めたのだ。
「隊長さんとの『懇親会』がまだでした! ささ、どうぞこちらへ!」
『はぁ!? いや、だから魔王様が玉座の間でお待ちで……』
隊長が慌てて制止しようとする。
しかし、それを遮ったのは、口の周りにイチゴジャムをつけた部下の牢番だった。
『隊長! 何を言ってるんですか! このヒナタ様の淹れるアールグレイと焼き菓子は、魔界の宝ですよ!』
牢番は、隊長の背中をグイグイと押して、ふかふかのカウチソファに座らせてしまった。
『これを食べずに魔王様の元へ行くなんて、人生の8割を損してます! さあ、冷めないうちに!』
『お、おい貴様! 任務をなんと……うおっ、このソファ、包み込まれるように柔らかい……!』
隊長の腰が、最高級のクッションに深く沈み込んだ。
「はい、お疲れ様です! 琥珀色に輝くダージリンティーですよ!」
ヒナタが、優雅な手つきでティーカップを差し出す。
カチャッ。
隊長は、抗いがたい極上の香りに負け、震える手でカップを口に運んだ。
『……っ!!』
その瞬間、隊長の脳裏に、日々の激務、部下のシフト管理の苦労、魔王城の警備という重圧が、ふんわりと溶けて消えていく感覚が走った。
『な、なんだこの……心底リラックスできる香りは……。それにこのパウンドケーキの、ドライフルーツの絶妙な酸味……!』
隊長は、気づけば二口、三口とケーキを頬張っていた。
「ブモォッ!(美味いだろ! 俺の淹れたコーヒーも飲むか!)」
「ふむ。隊長殿、なかなかの剣ダコだ。日々の鍛錬の賜物だな」
ゴズやヴァレリアも、すっかり同席して「お茶飲み友達」の空気を出している。
『いやぁ、わかるかアンタ? 最近、新人のゴブリンどもがすぐサボるもんで、俺が夜勤を代わることも多くてさぁ……』
隊長は、完全に「行きつけの喫茶店でマスターに愚痴る常連客」の顔になっていた。
肩の力は完全に抜け、武器の槍はテーブルの横に立てかけられている。
「大変ですねぇ。でも、隊長さんが頑張ってるから、魔王城の平和が守られてるんですよ」
ヒナタが、ニコニコしながらお茶を注ぎ足す。
『ヒナタ殿……! あんた、人間の勇者なのに、なんて俺たちの苦労をわかってくれるんだ……!』
隊長は、涙ぐみながらパウンドケーキの最後の一切れを口に放り込んだ。
そして、彼らは完全に「魔王の元へ勇者を連行する任務」を忘却し、まったりとした午後のティータイムの沼へと沈んでいったのである。
【場所:魔王城・最上階・玉座の間】
一方、その頃。
『…………遅い』
広大な玉座の間。
深紅の絨毯が敷かれ、禍々しいシャンデリアが輝くその空間で。
正装(重厚な魔王の鎧とマント)に身を包んだ魔王が、玉座の上で貧乏ゆすりをしていた。
(……人間の勇者一行が城の前に到着したと報告を受け、急いで裏の畑から戻って、泥を落として威厳ある正装に着替えたというのに……)
『……おい。どうなっている。勇者どもが地下牢に収容されてから、すでに2時間が経過しているぞ』
魔王の低い声が、玉座の間に響き渡る。
その傍らで控えていた側近(悪魔族の参謀)が、滝のような冷や汗を流しながら平伏した。
『も、申し訳ありません、魔王様! 地下牢からの報告が……プツリと途絶えておりまして……!』
『途絶えただと……?』
魔王の眉間(角と角の間)に、深いシワが刻まれる。
『勇者は無抵抗で捕縛されたと聞いたが……まさか、あれは罠だったのか?』
魔王は、立ち上がり、マントを翻した。
『我が軍の精鋭たる衛兵部隊が、音もなく全滅させられたとでも言うのか……! 城の門前で、ご近所の主婦たちと泥んこ遊びをしていたという、あの謎の少年に……!?』
『おそらくは……! 恐るべきは人間の勇者。あのような無邪気な行動の裏に、どれほどの残虐性を秘めているか……!』
側近がガタガタと震える。
『今頃、特級牢獄は血の海に沈み、隊長たちは世にも恐ろしい拷問を受けているやもしれません……!』
『ええい! こうしてはおれん!』
魔王は、焦りと一抹の不安(そして、せっかくの農作業の時間を削って待機している苛立ち)を爆発させた。
『自ら地下へ向かう! 我が愛する部下たちに指一本でも触れていたら、ただでは済まさんぞ、人間の勇者よ!!』
魔王は、大剣を引き抜き、怒りのオーラを纏いながら、自ら地下牢へと続く階段を駆け下りていった。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、頭を抱えていた。
『すれ違ってる……。完全にシリアスとコメディがすれ違ってる……』
『魔王は「部下が拷問されてる!」って本気で怒り狂って地下に向かってるけど……』
『地下では今、隊長が「休日の趣味はガーデニングでして……」って勇者と意気投合してハーブティー飲んでるんだぞ……』
『これ、魔王が扉を開けた瞬間、どういう顔すればいいんだ……?』
ドラマスは、これから起こるであろう「魔王にとって最も気まずい瞬間」を想像し、胃薬を追加で一瓶飲み干した。
【場所:魔王城・地下牢前】
ドドドドドドッ!!
『待っていろ勇者!! 我が部下を返してもらうぞォォッ!!』
魔王が、怒号と共に地下の分厚い扉を蹴り破った。
血で血を洗う惨劇を覚悟して、大剣を上段に構える。
しかし。
バァァァンッ!!
扉が開いた先、魔王の目に飛び込んできたのは。
『あ、魔王様! お疲れ様です! ヒナタ殿の淹れるカモミールティー、最高ですよ! 一杯いかがですか!』
ティーカップを片手に、ほろ酔い(お茶酔い)気分で満面の笑みを浮かべる衛兵隊長と、
「あ! 初めまして、魔王さん! 今、お席作りますね!」
エプロン姿でスコーンを焼いている勇者の姿だった。
『…………は?』
大剣を振りかぶったまま、魔王の思考は完全に停止した。
静まり返る地下牢に、ティーポットからお湯が注がれる優雅な音だけが、チョロチョロと響いていた。
(第57話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
皆様からの応援が、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!




