■第56話:無抵抗で地下牢へ! ……えっ、この牢屋、予約制の高級サロンですか?
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
本編をお楽しみください
【場所:魔王城・内部エントランス】
「いやぁ、お城の中も立派ですね! 天井が高い!」
ヒナタは、お上りさんのようにキョロキョロと城内を見回していた。
門前の「ご近所パワー」に気圧されて一時休戦した衛兵たちに案内され、一行は城の奥へと進んでいた。しかし、分厚い扉をいくつか抜け、完全に外部の目が届かない区画に入った途端。
ガチャンッ!!
背後の扉が施錠され、通路の暗がりから無数の衛兵たちが湧き出してきた。
『フハハハ! 罠とも知らずにノコノコと入ってきたな、愚かな勇者よ!』
先ほどの衛兵隊長が、今度は自信満々に槍を突きつけた。
『ここには近所のオバチャンはいない! 貴様らはここで捕らえ、魔王様の尋問を受けてもらう! 出会えーッ!』
「むっ! 卑劣な罠か!」
ヴァレリアが剣の柄に手をかけ、ゴズが鼻息を荒くする。
「やはり魔王軍! 勇者殿、ここは私が道を切り開きますぞ!」
セバスチャンも杖を構え、いよいよ魔王城での大立ち回りが始まる……!
「あ、皆さんストップです」
ヒナタが、両手を広げて仲間を制止した。
「せっかくお邪魔させてもらったんですから、城の中で暴れちゃダメですよ。泥んこ遊びの後でお風呂も入ってないし、ここは大人しく案内してもらいましょう」
ヒナタは、衛兵隊長に向かってニコッと笑い、両手首を揃えて差し出した。
「はい、捕まります。お部屋に案内してください!」
『……は?』
衛兵隊長は拍子抜けした。
抵抗されて激しい戦闘になる想定だったのに、勇者が「手錠プリーズ」の姿勢で待っている。
『お、おう……。よし、こいつらを地下の特級牢獄へブチ込め!』
こうして、勇者一行は一切の抵抗(とシリアスな戦闘)を放棄し、魔王城の最も深く暗い地下牢へと連行されていった。
【場所:魔王城・地下牢】
ガシャン!
重厚な鉄格子が閉められ、鍵がかけられた。
そこは、光も届かないジメジメとした石造りの地下牢。
床にはカビの生えた藁が敷かれ、壁には不気味な鎖がぶら下がっている。
「……終わりましたな」
セバスチャンは、カビ臭い藁の上に膝から崩れ落ちた。
「勇者が無抵抗で捕まるなど……。我々はここで、一生陽の光を見ることもなく、魔族の慰み者として……」
「わぁ! 結構広いですね!」
ヒナタの声が、地下牢に明るく響いた。
「でも、ちょっとホコリっぽくて空気が悪いです。皆さん、まずは『大掃除』から始めましょう!」
「……はい?」
ヒナタは、いつもの四次元リュックから、ほうき、ちりとり、モップ、そして特製の手作り洗剤を取り出した。
「ゴズさんはそこの鉄格子のサビ落としをお願いします! ヴァレリアさんは、天井のクモの巣取りを! ネムリネはその藁を全部外に捨ててきて!(※鉄格子の隙間からポイポイ捨てる)」
「ブモォッ!(任せろ! ピカピカにしてやる!)」
「ふむ。剣のリーチを活かせば天井にも届くな」
「……ん。この藁、チクチクして寝れない。捨てる」
ヒナタの号令のもと、勇者パーティー(捕虜)による、前代未聞の「地下牢クリーニング」が始まった。
【数時間後】
見張りを担当していた牢番の魔族は、退屈そうにあくびをしながら巡回に戻ってきた。
『どれどれ、人間の勇者ども、今頃は絶望して泣き喚いて……』
牢番が、特級牢獄の前に立った瞬間。
彼は自分の目を疑った。
『…………えっ?』
そこにあったのは、カビ臭い地下牢ではなかった。
床の石畳はチリ一つなく磨き上げられ、ピカピカに光を反射している。
鉄格子のサビは完全に落とされ、なぜかそこには可憐な「ドライフラワーのリース」が飾られていた。
壁の鎖は綺麗に束ねられて「オシャレな間接照明(ヒナタの魔道具)」のフック代わりに再利用されている。
そして、部屋の中央には。
どこから出したのか、ふかふかの絨毯の上に立派なアンティーク調のテーブルとソファが置かれ、「優雅なアフタヌーンティー」が開催されていた。
「あ、見張りの人! お疲れ様です!」
ヒナタが、ティーポットを片手に鉄格子越しに話しかけてきた。
「ちょうどスコーンが焼き上がったところなんです。クロテッドクリームと特製のイチゴジャムを添えて……あ、紅茶はダージリンでいいですか?」
『へ? あ、はい。お構いなく……』
牢番は、漂ってくる極上のバターの香りと紅茶の芳醇な匂いに抗えず、無意識に鉄格子越しにカップと皿を受け取ってしまった。
サクッ。
『……美味ぁぁぁぁいっ!! なんだこのサクサクしっとり感は!!』
牢番は、涙を流しながらスコーンを頬張った。
『俺、こんな美味い菓子、生まれて初めて食った……!』
「ふふっ、おかわりいっぱいありますからね!」
「……ん。ここのソファ、沈み込みが絶妙……最高……」
ネムリネは、ヒナタが持ち込んだ高級カウチソファでスヤスヤと眠っている。
セバスチャンだけが、ティーカップを震わせながら呟いていた。
「……これは、幻覚……? 地下牢のはずなのに、王都の高級サロンより居心地が良い……。私は、とうとう発狂してしまったのでしょうか……」
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、もはやツッコミの言葉すら発さず、虚無の顔でモニターを見つめていた。
『「絶望の特級牢獄」が……「完全予約制の高級サロン」になった……』
『見張りのゴブリンが……鉄格子越しに「紅茶のおかわり」を要求してる……』
『もういい……。好きにしてくれ……。拷問器具をコート掛けにでもなんでもするがいいさ……』
ドラマスは、悟りを開いた僧侶のように、静かに目を閉じた。
【そして魔王の元へ】
『……おい、勇者たちは大人しくしているか?』
しばらくして、衛兵隊長が様子を見に地下へ降りてきた。
『はっ! 現在、勇者様たちは「二杯目のアールグレイ」を楽しんでおられます!』
牢番のゴブリンが、口の周りにジャムをつけながらビシッと敬礼した。
『アールグレイ……? 貴様、何を言っている……』
隊長が牢屋の中を覗き込み、そして、その光景(高級サロン)を見て石化した。
「あ、隊長さん! ご案内ですか? お茶会も終わったので、いつでも大丈夫ですよ!」
ヒナタは、パパッとティーセットを片付け、リュックを背負った。
「お部屋、綺麗に掃除しておいたので、次のお客さん(囚人)も快適に過ごせると思います!」
『…………』
衛兵隊長は、完全に戦意を喪失した顔で、牢屋の鍵を開けた。
『……もういい。魔王様が呼んでいる。ついてこい……』
こうして、歴史上最も「手厚く(自前で)もてなされた捕虜」であるヒナタ一行は、ついに魔王が待つ玉座の間へと案内されるのだった。
(第56話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
皆様からの応援が、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!




