■第55話:魔王城の門番は小さな男の子!? ……えっ、僕が魔王様をイジメる悪者ですか?
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【場所:魔王城・正門前】
「さあ! 着きましたよ魔王城!」
ヒナタは、両手に「魔界大根」や「魔界トマト」の入った紙袋を提げ、ピクニック気分のまま巨大な漆黒の門を見上げた。
「……ついに、ここまで来てしまったのですね」
宰相セバスチャンは、胃薬(大瓶)を丸飲みしながら杖を握り直した。
「勇者殿。いくら魔界が農業で潤っていようとも、相手は魔王。決して油断しては……む?」
セバスチャンが門の脇に視線を向けると、そこには恐ろしい魔獣でも、重武装の騎士でもなく――。
ぽつん。
小さな角を生やし、オーバーオールを着た、5歳くらいの「魔族の男の子」が立っていた。
手には、小さなスコップを握りしめている。
「あれ? こんにちわ。どうしたの、こんなところで?」
ヒナタが、紙袋を置いて男の子の目線に合わせてしゃがみ込んだ。
「お父さんかお母さんとはぐれちゃった?」
男の子は、ヒナタの顔をじっと見つめ、そして、その腰に帯びている(全く使っていない)「聖剣」を見て、ギュッと唇を噛み締めた。
「……にーちゃんたち、人間だよね?」
「うん、そうだよ。僕はヒナタっていうんだ」
男の子は、小さな身体を震わせながら、勇気を振り絞るようにスコップを構えた。
そして、涙目でヒナタに問いかけた。
「あなたは……魔王様と、喧嘩しに来たの?」
「お願い……! 魔王様を、イジメないで……ッ!」
門の脇に立っていた小さな魔族の男の子が、スコップを握りしめて涙をポロポロとこぼした。
「……勇者殿。我々は完全に、心優しい農業指導者(魔王)を脅かす極悪非道な侵略者ですぞ……」
セバスチャンが頭を抱え、ヴァレリアとゴズも気まずそうに目を逸らす。
しかし、ヒナタは慌てることなく、男の子の目線に合わせてしゃがみ込んだ。
「泣かないで。僕たち、イジメに来たわけじゃないんだよ」
ヒナタは、男の子の持っている小さなスコップを指差した。
「それより君、お城の前の花壇、お手入れしてたの? えらいね!」
「ひっぐ……うん。魔王様がくれたお花、僕がお水あげてるの……」
「そっか! じゃあ、僕もお手伝いするよ! お城の前に綺麗なお花が咲いてたら、魔王さんもきっと喜ぶよね!」
ヒナタは、あっさりと「聖剣(ただの飾り)」のベルトを外し、セバスチャンに預けた。
「えっ? 勇者殿!?」
「セバスチャンさんたちも、手伝ってください! ゴズさん、そこの土を少し掘り起こして柔らかくして!」
「ブモォッ!(任せろ!)」
「ヴァレリアさんは、そこの枯葉を集めてください! ネムリネは……日陰でお昼寝してていいよ」
「……ん。おやすみ」
あっという間に、ヒナタは男の子と一緒に花壇の土いじりを始めてしまった。
最初は警戒していた男の子も、ヒナタのニコニコした笑顔と手際の良さに、すぐに打ち解けた。
「にーちゃん、お花育てるのじょうずだね!」
「えへへ、田舎の工房で畑仕事もやってたからね! あ、見て見て、ダンゴムシいたよ!」
「わぁっ! ほんとだ!」
その楽しそうな声に釣られて、近所に住む他の魔族の子供たち(子鬼や小さなスライムなど)もワラワラと集まってきた。
魔王城の正門前は、完全に「地元の公園(泥んこ遊び会場)」と化していた。
【そして数十分後】
「ワーイ! にーちゃん待てー!」
「あはは! 捕まえてごらん!」
ヒナタは、完全に泥だらけになりながら、5〜6人の魔族の子供たちと一緒に「鬼ごっこ」をして走り回っていた。
門の前には、近所の魔族の親たち(買い物袋を持ったオークの主婦や、洗濯カゴを抱えたサキュバスのママなど)が集まり、微笑ましくその様子を見守っている。
「あらあら、あのお兄ちゃん、子供の面倒見がいいわねぇ」
「うちの子、最近元気なかったから助かるわぁ」
その時だった。
ガシャァァァァンッ!!
魔王城の城壁の上から、重武装の「魔王直属・エリート衛兵部隊」が姿を現した。
『見つけたぞ!! 人間界からの侵入者、勇者一行だ!!』
『まさか城の正門前で堂々と屯しているとは! 貴様ら、我らが魔王様の命を狙って……』
衛兵たちが、ギラギラと光る槍や大剣を一斉に構え、殺気を放った。
『皆殺しにしてくれる!! かか……』
「ちょっとアンタたち!!」
衛兵の怒号を遮ったのは、買い物カゴを下げたオークのオバチャン(近所の主婦)の、腹の底から響く大声だった。
『……へ?』
衛兵たちがピタリと止まる。
「アンタたちねぇ、目ぇついてないの!? 今、子供たちが楽しく遊んでるところでしょうが!」
オークのオバチャンが、大根で衛兵の脛をビシッと叩いた。
「そうよそうよ!」
隣にいたサキュバスのママも、腰に手を当てて加勢する。
「あのお兄ちゃん(勇者)、うちの子の泥んこ遊びにずっと付き合ってくれてるのよ! そこへいきなり物騒な刃物なんか振り回して! 子供の情操教育に悪いと思わないの!?」
「怪我でもしたらどうするんだ! 刃物はしまえ刃物は!」
「魔王様に言いつけるぞ!」
『えっ……あ、いや、しかし彼らは人間の勇者で……』
衛兵の隊長が、タジタジになりながら反論しようとする。
「勇者だろうが何だろうが関係ないわよ! 今は『ご近所の優しいお兄ちゃん』なの! 争い事は他所でやりなさい!」
オバチャンたちの「怒れる親のプレッシャー」の前に、魔界最強の精鋭部隊のオーラは完全に消し飛んだ。
『ひっ……も、申し訳ありません……』
衛兵たちは、シュンと肩を落とし、慌てて武器を背中に隠した。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、モニターの前で乾いた笑いを漏らした。
『魔王軍の精鋭部隊が……ご近所のオバチャンに怒られて武器をしまってる……』
『「勇者だろうが今は優しいお兄ちゃん」……?』
『もう……私の作ったファンタジー世界のヒエラルキーが、完全に「地元のコミュニティ」に敗北した……』
【一時休戦】
「あ、衛兵さんたち、こんにちは!」
ヒナタが、子供を肩車したまま、泥だらけの笑顔で手を振った。
衛兵隊長は、オバチャンたちの鋭い視線(「うちの子を泣かしたら承知しないわよ」)をヒシヒシと感じながら、咳払いをした。
『ゴホン……。ゆ、勇者よ。こんな所で、その……ドンパチやるのは、住民の迷惑になる』
隊長は、精一杯の威厳を保とうとしながら、城の門を少しだけ開けた。
『ま、魔王様は城の奥でお待ちだ。……とりあえず、中で待っていろ。子供との遊びが終わってからでいいから』
「本当ですか! ありがとうございます!」
ヒナタは、肩車していた男の子をそっと下ろし、頭を撫でた。
「じゃあ、にーちゃんはお城の人のところに行ってくるね! 花壇のお花、これからも大事に育ててね!」
「うんっ! にーちゃん、また遊ぼうね!」
「バイバーイ!!」
子供たちと、近所の親たちに温かく見送られながら、勇者一行はいよいよ魔王城の内部へと案内されるのだった。
……もちろん、誰一人として「死闘」の覚悟など持っていないまま。
(第55話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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