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■第54話:死の沼を越えた先は……えっ、魔界って「農業大国」なんですか?

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

本編をお楽しみください



【場所:魔王領・魔都近郊の農地】

「ふぅ、ようやく泡の海を抜けましたな……」


宰相セバスチャンは、真っ白になった服のシワを伸ばしながら、前方を睨み据えた。


「皆の者、気を引き締めるのですぞ! ここから先は魔王城の膝下! 血に飢えた魔族たちが徘徊し、大地は呪いによって枯れ果て、太陽の光すら届かぬ『絶望の国』……」


セバスチャンが悲壮な覚悟で顔を上げた、その時だった。


「わあ……! すごい!!」


ヒナタの歓声が響き渡った。

セバスチャンの目に飛び込んできたのは、呪われた荒野でも、血の池でもなかった。


見渡す限りに広がる、黄金色の麦畑。

そして、人間の背丈ほどもある巨大で色鮮やかなトマトやカボチャのビニールハウス(※防壁魔法製)。

澄み切った青空の下、穏やかな風が吹き抜け、牧歌的な風景がどこまでも続いていた。


「……は?」


セバスチャンの口から、間の抜けた声が漏れる。


「見てくださいセバスチャンさん! あのトマト、ツヤッツヤですよ! 土の匂いもすごくいい……絶対、ふかふかの良い土壌です!」


ヒナタは、完全に「農地視察に来たベテラン農家」の顔になっていた。


そこへ、麦わら帽子を被り、首にタオルを巻いた巨大なオーク(農家)が、農作業用の魔導トラクターに乗ってやってきた。


「ひっ!? 魔、魔族の強襲……!」


セバスチャンが杖を構える。

しかし、オークはトラクターを止めると、人懐っこい笑顔(牙は出ているが)で手を振ってきた。


『おう! にーちゃんたち、人間界からの観光客かい? 泡の沼を越えてくるなんて、元気だなぁ!』

「こんにちは! すごく立派な畑ですね! この『魔界ナス』、どうやったらこんなに大きく育つんですか?」


ヒナタが、警戒心ゼロでフェンス越しに話しかける。


『へへっ、よくぞ聞いてくれた! うちの魔王様が考案した「魔力循環型コンポスト」のおかげでな! 栄養満点で、無農薬のオーガニック栽培よ!』


オークは、カゴいっぱいの採れたて野菜をヒナタに差し出した。


『ほれ、試食してみな! 人間界の野菜より甘くて美味いぜ!』

「わぁ! ありがとうございます! ゴズさん、後でこれでラタトゥイユ作りましょう!」

「ブモォォッ!(最高だぜ!)」


セバスチャンは、ピクピクと痙攣する顔で、オークから手渡された「魔界キュウリ(特大)」を抱きしめていた。


(……おかしい。私の知っている魔王軍は、人間の土地を奪うために侵略戦争を仕掛けてきたはず……。こんなに肥沃な土地があるなら、そもそも侵略する必要がないのでは……?)



【場所:魔王直轄都市・サタンブルク】

農地を抜けた一行は、ついに魔族たちの街へと足を踏み入れた。


そこは、人間界の王都以上に活気に満ち溢れていた。

石畳の綺麗な街道、立ち並ぶオシャレなカフェ、そして「本日・魔界野菜の特売日!」というのぼり旗。

ゴブリンやサキュバス、デュラハンたちが、人間の一行を見ても全くパニックにならず、ごく普通に接客してくる。


『いらっしゃい! 焼きたての「ヘルファイア・クレープ」だよ! にーちゃんイケメンだから、生クリームおまけしとくね!』


サキュバスのクレープ屋のお姉さんが、ヒナタにウインクをする。


「ありがとうございます! あ、じゃあイチゴ増し増しで!」

「ブモォ!(俺はチョコバナナだ!)」

「ふむ。この街の区画整理は完璧だな。下水道も完備されている。人間の王都より遥かに文化レベルが高いぞ」


ヴァレリアが、街の建築様式に感心してメモを取っている。


「……ん。あそこのベッド屋さん、試寝ししんできる……行ってくる」


ネムリネは、スライム素材の低反発マットレスの店へと吸い込まれていった。


「……あ、あははは……」


セバスチャンは、クレープを片手に、完全に心が折れていた。


「私たちは……何のために、ここまで過酷な旅(ほぼ観光とキャンプだったが)をしてきたのでしょう……。これではただの、『異文化交流・グルメツアー』ではありませんか……」



【場所:天界・管理室】

『…………』


神ドラマスは、設定資料集をビリビリに破り捨てていた。


『「魔界は不毛の地」って設定書に書いただろうがァァァッ!!』

『なんでこんな「農業大国・スローライフ特区」みたいになってるんだよ!!』

『これじゃあ、「土地が貧しいから人間界を侵略する」っていう、魔王軍の悲しき大義名分が完全に崩壊してるじゃないか!!』

『ただの「隣の豊かな国(魔族)」と「隣の貧しい国(人間)」になってるぞ!! 人間側の方が悪者みたいじゃないか!!』


ドラマスは、自分の構築した世界観が、魔王の「圧倒的な内政チート(農業スキル)」によって塗り替えられていた事実に、血涙を流していた。



【魔王城の正門前】

「いやぁ、魔界の皆さん、本当に親切でしたね!」


両手に「魔界特産品(お土産)」の紙袋を大量に抱えたヒナタが、ホクホク顔で歩いている。


彼らの目の前には、いよいよ魔王が住まう漆黒の城――『魔王城』がそびえ立っていた。

しかし、その門の前には、「WELCOME」と書かれたアーチと、花壇が綺麗に整備されている。


「さあ、いよいよ魔王さんにご挨拶ですね! この『魔界大根』のお裾分け、持っていきましょう!」


ヒナタは、完全に「ご近所への引っ越しの挨拶」のテンションだった。

セバスチャンは、もはや止める気力もなく、ただただ頷くことしかできなかった。


「……はい。もう、煮るなり焼くなり……いっそ一緒に農作業でもなんでもしてください……」


いよいよ、長き(寄り道の)旅の終着点。

魔界を「豊かな農業大国」へと発展させた、超・内政型魔王との直接対決(?)の時が迫っていた!

(第54話・完)


本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!


ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


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