■第53話:底なしの強酸沼! ……えっ、重曹を入れて「泡パーティー」にするんですか?
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【場所:魔王領・腐食の谷】
「……なんという禍々しい光景だ」
ヴァレリアが、鼻を覆いながら険しい顔をした。
テニスで爽やかな汗を流した一行が次に辿り着いたのは、両側を切り立った崖に挟まれた谷底。
そして、彼らの行く手を阻むように、広大な「緑色にブクブクと泡立つ沼」が広がっていた。
鼻をつく刺激臭が立ち込めている。
「ひぃぃ……! こ、これは『暴食の酸沼』ですぞ!」
宰相セバスチャンが、青ざめた顔で叫んだ。
「落ちれば最後! 猛烈な酸で火傷を負いながら、底なしの泥に引きずり込まれ、肉も骨も溶かされてしまうという最悪のトラップです!」
セバスチャンが、その辺に落ちていた魔物の骨を沼に投げ入れる。
ジュワァァァァッ!!
骨は一瞬で緑色の煙を上げ、溶けて消え去ってしまった。
「道はない……。飛行魔法で飛び越えようにも、この酸の蒸気を吸い込めば肺が焼かれる」
ヴァレリアが舌打ちをする。
「ブモォ……(俺の皮膚でも、あれは痛そうだ)」
ゴズも、さすがに一歩後ずさりした。
「絶体絶命です! 勇者殿、ここは迂回ルートを探すしか……!」
セバスチャンが振り返ると。
ヒナタは、酸の沼を食い入るように見つめ、なぜか「満面の笑み」を浮かべていた。
「すごい……! なんて強力な『酸性』の液体なんだ……!」
「ゆ、勇者殿?」
ヒナタは、リュックサックをガサゴソと漁り始めた。
「この旅の間、ずっと気になってたんです。ゴズさんの鎧の頑固なサビとか、バーベキューコンロの焦げ付きとか……」
「でも、この大自然の『超強力な酸』があれば、どんな汚れも一発で分解できますよ!」
「ちがァァァッ!! 沼を『巨大な洗浄液』みたいに言わないでください!!」
「でも、このままだと強すぎて布まで溶けちゃいますね。……よし!」
ヒナタは、リュックから「白い粉が大量に入った麻袋」をいくつも取り出した。
「ド・イナカ領の工房や、山の村の掃除用具屋で買い占めておいた『特大・魔法の重曹(アルカリ性)』の出番です!」
ヒナタは、その麻袋を抱え上げると、酸の沼に向かって力いっぱい放り投げた。
「いっけー! 中和反応!!」
ポチャッ。
白い粉(重曹)が酸の沼に着水した、次の瞬間。
ボッ……ボボボボボボボボッ!!!
沼全体が、かつてないほどの激しい反応を起こした。
酸(液体)とアルカリ(重曹)が混ざり合い、猛烈な勢いで「炭酸ガス」を発生させ始めたのだ。
モッコォォォォォォォォッ!!
「な、なんだ!? 沼が膨れ上がって……!」
「ブモォォォッ!?(泡だァァァッ!!)」
死のトラップだった強酸の沼は、瞬く間に無害な「超高密度の真っ白な泡」へと姿を変え、谷全体を埋め尽くした。
しかも、ヒナタがちゃっかり「フローラル系の石鹸の香り」を混ぜていたため、刺激臭は消え去り、辺りは爽やかなお花畑のような匂いに包まれている。
「わあーっ! 大成功!」
ヒナタが、弾力のある真っ白な泡の上にピョンと飛び乗った。
「ポヨンッ、ポヨンッてしますよ! まるでトランポリンみたいです!」
「さあ皆さん! この泡の上を歩いて渡りましょう! ついでに鎧や靴の汚れもピカピカに落ちますよ!」
「……えっ」
セバスチャンは、目の前の光景が信じられなかった。
骨すら溶かす地獄の沼が、ただの「巨大な泡パーティーの会場」になってしまったのだ。
「フハハ! これは面白い! まさか沼の上を歩いて渡れるようになるとはな!」
ヴァレリアが、泡の上に飛び乗ってポンポンと跳ねる。
「ブモォォォッ!(俺の鎧がピカピカになっていくぞ!)」
「……ん。泡、あったかくて気持ちいい……」
ネムリネは、すでに泡に埋もれて二度寝の態勢に入っていた。
「さ、セバスチャンさんも早く!」
ヒナタが笑顔で手を振る。
「……私の知っているファンタジーの常識が……中学校の『理科の実験』に敗北しました……」
セバスチャンは、ツルツルになった靴底を見つめながら、虚ろな目で泡のトランポリンに足を踏み入れた。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、手に持っていた設定資料集(分厚い魔導書)を、床にそっと置いた。
『「暴食の酸沼」だぞ……』
『私の考えた最強のデストラップが……「中和」ってなんだよ……』
『魔法とか、伝説のアイテムとかじゃなくて……「重曹」って……!!』
『ここは剣と魔法のファンタジー世界だろうがァァァッ!! なんで急に「生活の知恵(化学)」を持ち込んでくるんだよォォォッ!!』
ドラマスは、自身の構築したファンタジーの根幹が、ヒナタの「主夫力」によってへし折られる音を、確かに聞いたのだった。
【そして対岸へ】
「ふぅ! 楽しかったですね!」
「見てください、靴もズボンも真っ白で新品みたいです!」
一行は、巨大な泡のトランポリンを跳ねながら、あっという間に沼の対岸へと辿り着いた。
一切のダメージを受けることなく、むしろ装備のメンテナンス(洗浄)まで完了してのクリアである。
「ヒナタ殿、見事だ。まさかあの死の沼を、あのような形で無力化するとは」
ヴァレリアが、ピカピカになった自分の剣を眺めながら感心している。
「いえいえ! 汚れを落とすのは基本ですから!」
ヒナタは、満足そうに泡の海を振り返った。
しかし、この「超巨大な泡のトランポリン(お花の香り)」が、またしても魔王軍の別の幹部の「ある趣味」を刺激してしまうことになるのだが……。
それは、魔王城の門番が姿を現すまでの、ほんの短い間の平穏であった。
(第53話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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