■第52話:戦闘狂の刺客現る! ……えっ、デスマッチじゃなくて「テニスマッチ」ですか?
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【場所:魔王領の入り口・荒涼たる大地】
「ふぅ……。ついに、ついに来ましたぞ」
宰相セバスチャンは、ドス黒い雲が渦巻く空と、荒れ果てた大地を見渡して身震いした。
後方には、ロック鳥が客を乗せて飛び交う賑やかな「氷のテーマパーク」が見えるが、ここから先は正真正銘、魔王の絶対領域である。
「空気が重いですねぇ。なんだかワクワクしてき……」
ヒナタが言いかけた、その瞬間。
ズドォォォォンッ!!
一行の目の前に、隕石のような速度で何者かが落下してきた。
土煙が晴れると、そこには巨大な戦斧を担ぎ、全身から禍々しい闘気を放つ狂戦士が立っていた。
『カハッ……! 待ちわびたぞ、勇者一行!』
魔王軍四天王の一角、「戦闘狂のゼクス」である。
『俺の渇きを癒す強者はいないのかと、首を長くしていたところだ!』
ゼクスの目は血走り、口元は好戦的な笑みに歪んでいる。
『さあ! 俺と殺し合おうぜ! 血肉を削り、魂を燃やす、最高の死闘を……!』
「ひぃぃぃッ!! で、出たァァ! 本物の殺意だァァッ!」
セバスチャンが馬車の陰に隠れる。
ヴァレリアが剣を抜き、ゴズが身構えた。
しかし、ヒナタだけは違った。
彼は、闘気で全身から湯気を立てているゼクスを見て、目をキラキラと輝かせた。
「わあ! すごい熱気ですね!」
「わかりました! そこまで熱く誘われたら、断るわけにはいきません!」
ヒナタは、リュックをガサゴソと漁り始めた。
ついに勇者の剣(聖剣)を抜くのか!? と、セバスチャンが期待したその時。
ヒナタが取り出したのは、「巨大なフライパン(氷竜の山で使っていた特注品)」だった。
「さあ! 最高の『テニスマッチ』の始まりです!!」
『……は?』
ゼクスの動きが止まった。
【第1セット:殺意 VS スポーツマンシップ】
『ふざけるなァァァッ!! 誰がテニスだと言った!!』
激昂したゼクスは、戦斧に地獄の業火を纏わせ、ヒナタに向かって全力で振り下ろした。
『死ねェ! 【獄炎・大斬波】!!』
ゴオォォォォッ!!
全てを焼き尽くす高密度の炎の刃が、ヒナタに迫る。
まともに直撃すれば、骨すら残らない一撃だ。
「おっ! 強烈なサーブですね!」
ヒナタは、フライパンを両手で構え、足を開いて完璧なフォームを作った。
そして、迫り来る炎の刃を真正面から捉え――。
カァァァァーンッ!!
「ナイスリターン!」
なんと、魔法の炎弾をフライパンの底で弾き返し、ゼクスの方へ猛スピードで打ち返したのだ。
『な、なんだとォォッ!? 俺の絶技を物理で弾いただと!?』
ゼクスは慌てて戦斧を盾にし、自分の放った炎を防御した。
「15-0(フィフティーン・ラブ)! 次、来ますよ!」
ヒナタが、その場でリズミカルにステップを踏み始める。
「フットワークが大事ですよ! さあ、どんどん打ち合って汗を流しましょう!」
『舐めるなァァァッ!!』
そこから、常軌を逸した「超高速ラリー」が始まった。
『オラオラオラァッ!(連続魔法弾)』
「はいっ! そっち! こっち! ドロップショット!」
カンッ! カァンッ! ボスッ!
ゼクスが放つ必殺の魔法や斬撃を、ヒナタはフライパン一本で、フォアハンド、バックハンド、果ては股抜きショットで鮮やかに打ち返していく。
『くそォォッ! なぜだ! なぜ当たらない!?』
『しかも、なぜ俺は無意識にこれを打ち返しているんだァァァッ!!』
ゼクスは、気づけばヒナタのペース(リズム)に完全に巻き込まれ、飛んでくる炎弾を必死に戦斧で弾き返していた。
もはや殺し合いではない。ただの「命がけの壁打ち(相手あり)」である。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、モニターの前で冷えたお茶をすすっていた。
『魔王軍の最強の狂戦士が……勇者と「テニス」で汗を流している……』
『しかも、ちょっとラリーが続いて楽しくなってきてる顔してるぞ、あいつ……』
『「血と闘争」が、「爽やかなスポーツマンシップ」に浄化されている……』
【ゲームセット】
ラリーが始まってから1時間後。
『ハァ……! ハァ……! ハァ……!』
ゼクスは、大の字になって地面に倒れ伏していた。
全身の魔力と体力を完全に使い果たし、戦斧はボロボロに欠けている。
「ゲームセット! お疲れ様でしたー!」
ヒナタは、汗をタオルで拭きながら、ゼクスの元に駆け寄った。
そして、キンキンに冷えた「特製スポーツドリンク(氷竜の氷入り)」を差し出した。
「いやぁ、最高の打ち合いでしたね! ゼクスさん、後半からバックハンドのフォームがすごく良くなりましたよ!」
『…………』
ゼクスは、震える手でスポーツドリンクを受け取り、一気に飲み干した。
「……ぷはぁっ!」
ゼクスの血走っていた目から、狂気が消え去っていた。
代わりにそこにあったのは、全力を出し切ったアスリート特有の「清々しさ」だった。
『……ふっ。完敗だ。俺は今まで、ただ力任せに相手をねじ伏せるだけだった……』
ゼクスは、青空を見上げながら、爽やかな涙を流した。
『お前のおかげで気づいたよ……。戦いとは、相手と呼吸を合わせ、高め合うもの……つまり「スポーツ」だったんだな……!』
「その通りです! またいつでもラリーの相手になりますよ!」
ヒナタが手を差し伸べ、ゼクスがその手を力強く握り返した。
「……勇者殿」
セバスチャンが、胃を押さえながら近づいてきた。
「また……また敵の幹部を『更生』させてしまったのですか……」
こうして、魔王軍が誇る最凶の戦闘狂は、ただの「熱血テニスプレイヤー(良きライバル)」へと転職を果たした。
ヒナタの前に「シリアスな死闘」という概念は、やはり存在しなかったのである。
(第52話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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