■第48話:魔の岩峰アタック開始! ……えっ、この絶壁、アスレチックコースじゃないんですか?
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【場所:魔の岩峰・中腹「死の急勾配」】
「ハァ……! ハァ……! み、皆さん……足元に気をつけて……!」
村で雇われたベテラン案内人のハンス(50代・人のいい山男)は、荒い息を吐きながら岩壁にピッケルを打ち込んでいた。
ここは傾斜70度を超える「死の急勾配」。一歩踏み外せば、千尋の谷底へ真っ逆さまである。
「ハンスさん、大丈夫ですか? お水飲みます?」
「ひっ!?」
ハンスが振り返ると、すぐ背後にヒナタがいた。
しかも、「命綱なし」で、普通に階段を登るような姿勢で岩肌に立っている。
「ゆ、勇者様……! なぜロープを付けていないんですか!? 滑落しますよ!」
「あ、これですか? この靴、裏がゴム製なので結構グリップが効くんですよ」
ヒナタは、村で買ったモコモコの防寒ブーツを指差して、ニコッと笑った。
「それに、このくらいの坂なら、アスレチックみたいで楽しいですね!」
「ア、アスレチック……」
ハンスは眩暈を覚えた。
その後ろからは、さらに信じられない光景が続いていた。
「ブモォ~♪(鼻歌)」
ゴズが、片手に「50キロのバーベキューコンロ」、もう片手に「特大テントの束」を担ぎながら、ひょいひょいと岩を飛び越えてくる。
「ふむ。空気が薄いが、心肺機能の鍛錬にはちょうどいいな」
ヴァレリアは、両手に「高級ダッチオーブン」と「食器セット」を持ち、涼しい顔で垂直の壁を駆け上がっている。
「……スヤァ……」
そしてネムリネは、ゴズが背負ったテントの束の上で、見事にバランスを取りながら熟睡していた。
「な、なんなんだあんた達は……!?」
ハンスは、自分の数十年の登山経験が根底から覆されるのを感じた。
「ここは魔の山だぞ……! 数百キロの荷物を持って、しかも笑いながら登れるような場所じゃ……!」
「ゼェ……ゼェ……ヒュー……」
その時、ハンスの耳に、唯一「正常な登山者」の呼吸音が聞こえてきた。
「おお! 宰相様! 大丈夫ですか!」
最後尾で、宰相セバスチャンが岩にしがみつき、白目を剥いていた。
彼は唯一、ハンスの言う通りにピッケルと命綱をフル装備し、顔を真っ青にして這い上がっていた。
「ゼェ……もう……ダメです……」
セバスチャンが掠れた声で呟く。
「足が……ガクガクして……。勇者殿……少し休憩を……」
「えー? セバスチャンさん、もうバテちゃったんですか?」
ヒナタが上から顔を覗き込む。
「まだ山頂まで半分もありますよ! ほら、景色見てください! 最高ですよ!」
「景色なんか見たら……失神します……!」
「セバスチャン、足腰が鈍っているぞ。私が引っ張り上げてやろう」
ヴァレリアが、空いた足(手は塞がっているため)でセバスチャンの襟首を引っ掛け、クレーンのように引き上げ始めた。
「ギャァァァッ! 首が締まるゥゥッ!」
【場所:難所「底なしのクレバス」】
さらに登ること数時間。
一行の前に、巨大な氷の裂け目――クレバスが立ち塞がった。
幅は10メートル以上。底は暗闇に包まれ、冷たい風が吹き上げている。
「ハァ……ハァ……ここは難所ですぞ……!」
案内人のハンスが、震える手でザイル(ロープ)を準備し始めた。
「あちら岸にフックを投げ、橋を架けるしか……」
「わあ! すごい谷間ですね!」
ヒナタがクレバスの縁から下を覗き込む。
「ヤッホー!!」
『ヤッホー……ヤッホー……(こだま)』
「楽しそうですね! じゃあ、向こう岸まで競争しましょう!」
ヒナタは、少し助走をつけると。
タァーンッ!!
重力を無視したような大ジャンプで、10メートルの裂け目を軽々と飛び越えてしまった。
「は?」
ハンスの口からロープが滑り落ちた。
「ブモッ!(とうっ!)」
ゴズも、数百キロの荷物を持ったまま、大岩のように跳躍して着地。
ズドォォン!という地響きと共に、氷の地面が少しヒビ割れた。
「ふむ。私ならあと5メートルはいけたな」
ヴァレリアも、優雅な弧を描いて飛び越える。
「……ん。めんどい」
ネムリネだけは、フワリと浮遊魔法で対岸へ移動した。
残されたのは、ハンスとセバスチャンだけである。
「…………」
「…………宰相様。私、山の案内人を引退しようかと思います」
「ハンス殿……。私も、宰相を辞めて田舎で畑を耕したいです……」
結局、二人はヴァレリアにロープで縛られ、荷物のように対岸へと引っ張り上げられた。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、モニターの前で冷えピタを額に貼っていた。
『「死の急勾配」が……ただの階段になった』
『「底なしのクレバス」が……幅跳びの砂場になった』
『雪崩……いや、雪崩を起こしても、あいつら「天然のかき氷だ!」とか言ってシロップかけて食いそうだな……』
『山の神よ……どうか彼らに、「大自然の恐怖」というものを教えてやってくれ……』
【そして山頂へ】
「さあ! もうすぐ山頂ですよ!」
ヒナタの元気な声が、凍てつく空気に響き渡る。
ハンスとセバスチャンは、完全にライフ(体力と精神力)がゼロになり、ゴズに両脇を抱えられて引きずられていた。
「いやぁ、ハンスさんの案内のおかげで、迷わず来れました! ありがとうございます!」
ヒナタが笑顔でお礼を言う。
「……いえ……。私は何も……ただ息をして……引きずられていただけです……」
ハンスの目には、虚無の涙が浮かんでいた。
彼は、「山を舐めるな」という信条を持っていたが、今日、山の方が彼らに舐められているのを悟ったのだ。
「着きましたーッ!!」
ついに、一行は魔の岩峰の頂上に到達した。
そこは、見渡す限りの雲海と、美しい星空が広がる絶景の平地だった。
「よーし! 皆さん、テントの設営開始です!」
「ゴズさんはコンロの火起こし! ヴァレリアさんはお肉のカットをお願いします!」
「最高のグランピングの始まりですよー!」
「ブモォォォッ!!(腹減った!)」
標高数千メートルの「死の山」の頂上で、場違いなバーベキューの準備が着々と進められていく。
しかし、このジュージューと焼ける高級肉の匂いが、山頂の雪の中で眠る「絶対的な捕食者」の鼻をヒクつかせることになろうとは、ヒナタはまだ知る由もなかった。
(第48話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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