■第45話:全速力でUターン! ……えっ、魔王城じゃなくて「陶芸教室」に遅刻しそうなんですか?
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【場所:アル・サト村・出口】
「ふぅ。いい汗かきましたねぇ」
魔王軍を「綱引き」で空の彼方へ飛ばし、平和を取り戻したヒナタ一行。
村人たちから感謝され、特産品の蜂蜜もゲットした。
「さあ勇者殿! このまま街道を東へ進めば、次の国境ですぞ!」
宰相セバスチャンは、ホッとしていた。
(怪我の功名だ。観光で足止めされていたが、この騒動のおかげで強制的に「次の村」まで来られた……!)
(これで、あの「居心地の良すぎる田舎町」とはおさらばだ!)
しかし。
ヒナタは、懐中時計(安物)を見て、顔色を変えた。
「……あ」
「どうしました?」
「……やばい」
ヒナタが震え出した。
「もしかして、魔王軍の残党気配でも……?」
「陶芸教室の予約時間まで、あと30分しかない!!」
「はあぁぁぁッ!!??」
ヒナタは叫んだ。
「忘れてた! 先生に『絶対に遅れません』って約束したのに!」
「キャンセル料取られちゃう! 粘土が乾いちゃう!」
「い、いや、勇者殿! せっかくここまで来たのですから……」
「諦めて進みましょう! 陶芸なら次の街でも……」
「ダメです!!」
ヒナタが鬼の形相で否定した。
「あそこの土は『ド・イナカ粘土』といって、この地方でしか採れない貴重な土なんです!」
「それに、あの先生の『手びねり指導』は世界一だという噂(商店街のおばちゃん情報)があるんです!」
ヒナタは、ゴズに向かって叫んだ。
「ゴズさん! 回頭(Uターン)!」
「目標、ド・イナカ領の工房! 最大戦速で戻ります!」
「ブモォォォッ!!(任せろ! 粘土だ!)」
「ひぃぃぃッ! 戻るなァァァッ!!」
セバスチャンの悲鳴は、砂煙にかき消された。
【場所:街道・逆走中】
ドドドドドドド……ッ!!
行きの3倍の速度が出ていた。
ネムリネの「飛行魔法(浮遊)」と、ヴァレリアの「風魔法(加速)」、そしてゴズの「馬鹿力」が融合し、荷馬車はスポーツカー並みの速度で爆走していた。
「間に合えぇぇぇッ!!」
「先生待っててぇぇぇッ!!」
すれ違う旅人たちが、口を開けて見送った。
「お、おい見ろ! 勇者一行が……すごい形相で戻っていくぞ!?」
「魔王軍に敗走したのか!?」
「いや、『粘土が乾く』って叫んでたぞ……?」
【場所:ド・イナカ領・陶芸工房「土の心」】
「ハァ……ハァ……! ま、間に合った……!」
ガラッ!!
工房の扉が勢いよく開いた。
そこには、砂埃まみれの勇者一行が飛び込んできた。
「先生! 予約していた日向です!」
「遅れてすみません! 運動会(魔王軍撃退)が長引いて!」
陶芸家の頑固オヤジが、ロクロの手を止めて眼鏡を直した。
「……おう。あと1分遅かったら、土を庭に埋めるところだったぞ」
「ほれ、座れ。土と対話する時間は待ってくれん」
「はいっ!!」
ヒナタたちは、即座にエプロンを装着した。
そこからは、真剣勝負だった。
魔王軍との戦いよりも真剣な眼差しで、彼らは「ロクロ」と向き合った。
「うおおおッ! 中心がズレるぅぅッ!」
「指先に集中しろ! 土の呼吸を感じるんだ!」
「ブモッ……(土鍋を作る……)」
「ふむ。剣の重心バランスと同じ要領か……」
「……ん。これ、枕にする」
工房内は、熱気と回転する土の音に包まれた。
セバスチャンだけが、工房の隅で膝を抱えていた。
「……戻ってきてしまった……」
「また、あの居心地のいい街に……」
「ふりだしに戻る……」
【数時間後・焼き上がり待ち】
「ふぅ~! 良いのができましたね!」
ヒナタは、泥だらけの手で満足げに笑った。
その横には、歪な形だが愛嬌のある茶碗や皿が並んでいる。
「これ、焼き上がるまで数日かかりますよね?」
「おうよ。窯の火加減があるからな」
「じゃあ、その間……」
ヒナタは、手帳(観光リスト)を取り出した。
「まだやってない『そば打ち体験』と『こんにゃく作り』、あと『滝行』も予約しなきゃ!」
「商店街の福引も回さないと!」
「ブモォ!(福引だ!)」
セバスチャンは、天を仰いだ。
(……終わった)
(これは「短期滞在」ではない。「長期留学」だ……)
神ドラマスは、天界のモニターを見ながら、静かに涙を流した。
『……進めよ。頼むから1マスでもいいから進んでくれよ……』
『なんで「戻るマス」を自力で踏みに行くんだよ……』
こうして、勇者一行は再びド・イナカ領の住人となった。
彼らがこの街を出られるのは、スタンプラリーをコンプリートし、陶芸作品が焼き上がり、さらに「また来てくださいね!」という町民たちの包囲網を突破した時……つまり、当分先のことである。
(第45話・完)
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