■第42話:出発する気ゼロ! ……わあ、この「木彫りの熊」、鮭をくわえる角度が芸術的ですね!
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【場所:ド・イナカ領・城下町(宿屋前)】
「さあ! 皆さん、出発の時間ですぞ!」
翌朝。
宰相セバスチャンは、完璧に整備された馬車の前で、一人張り切っていた。
「昨夜の晩餐会は冷や汗ものでしたが、なんとか切り抜けました。さあ、魔王城へ急ぎましょう!」
しかし。
誰も来ない。
「……? 皆さん?」
宿屋の中を覗くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
ヴァレリアは、宿のロビーで武器の手入れをしながらくつろいでいる。
「ふむ。まだ早いだろう。この街の鍛冶屋、なかなか良い鉄を使うと聞いた」
エイルは、地元の古文書(農事暦)を読みふけっている。
「ほう……。この地方独特の『雨乞いダンス』、学術的価値がありますね」
ネムリネは、日当たりの良い縁側で、猫と一緒に丸くなっている。
「……スヤァ……(二度寝)」
そして、肝心の勇者は――。
「いません」。
「えっ!?」
セバスチャンが青ざめる。
「どこへ行ったのですか!? まさか、一人で先行偵察に!?」
ゴズが、大量の「おやき(野沢菜入り)」を頬張りながら指差した。
「ブモッ(商店街だ)」
【場所:城下町・中央商店街】
そこは、熱狂の渦に包まれていた。
「す、すごい……! すんごいですよお父さん!」
土産物屋の店頭で、ヒナタが「木彫りの熊」を手に取り、感涙にむせび泣いていた。
「この鮭の躍動感! 熊の毛並みの荒々しさ! ミケランジェロも裸足で逃げ出す傑作です!」
「これ、いくらですか!? 言い値で買います!」
店主の爺さんが、震える手で答える。
「え、ええ……? ただの暇つぶしに彫ったやつじゃが……銅貨3枚で……」
「安すぎます!! 芸術への冒涜です!」
ヒナタは、金貨をドンと置いた。
「釣りはいりません! この熊は、僕が責任を持って世界に広めます!」
「あ、ありがてぇぇぇッ!!」
爺さんが泣き崩れる。
さらに、隣の漬物屋へ移動するヒナタ。
「ん~っ! この『いぶりがっこ』!」
「燻製の香りが鼻を突き抜け、大根の甘味が脳を揺さぶる! 奇跡のシンフォニーだ!」
「お母さん! あなたは『漬物の神』ですか!?」
「まあ嬉しい! 勇者様にそんな……!」
お婆ちゃんも感激のあまり卒倒寸前だ。
「勇者様が褒めてくれたぞー!」
「うちの饅頭も食べてくれー!」
「俺の打ったクワを見てくれー!」
商店街中の店主たちが、我先にとヒナタを取り囲む。
田舎ゆえに、普段は注目されることのない彼らの職人魂に、ヒナタの「全力称賛スキル」が火をつけてしまったのだ。
「わあ! すごい! 全部見ます! 全部買います!」
「ゴズさん! 荷車を持ってきて! 買い占めますよ!」
「ブモォォォッ!!(爆買いだ!)」
【数時間後】
セバスチャンが商店街に到着した時、そこは「ヒナタ崇拝の儀式会場」と化していた。
「勇者ヒナタ様! どうかこの町に留まってください!」
「あなた様のおかげで、孫が木彫り職人を目指すと言い出しました!」
「像を建てます! 町長になってください!」
町民たちが、ヒナタを取り囲んで離さない。
人間の壁だ。
「あわわ……。困りましたねぇ」
ヒナタは、山積みのお土産(木彫りの熊、漬物樽、謎の民芸品)に埋もれながら、満更でもない顔をしている。
「セバスチャンさん。町の人たちが、こんなに僕を必要としてくれています」
「無下にはできませんよね?」
「い、いや、出発……」
「それに!」
ヒナタが目を輝かせる。
「まだ『東地区の朝市』と『西地区の陶芸教室』を見てないんです!」
「この町のポテンシャルは底知れません! あと1週間……いや、1ヶ月は滞在して、魅力を掘り起こさないと!」
「1ヶ月ゥゥゥッ!?」
セバスチャンが絶叫する。
「魔王が! 世界が滅びますぞ!?」
ヒナタは、おばちゃんから貰った「焼き芋」を半分こしながら言った。
「大丈夫です。魔王は逃げませんけど、焼き芋は冷めたら美味しくないんですよ」
「名言っぽく言わないでくださいッ!!」
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、モニターの前で頭を抱えた。
『「素通り」の予定が……「地域活性化キャンペーン」になってる……』
『木彫りの熊……。あれ、ただの「換金アイテム(低)」だぞ……』
『なんであいつが手に取ると「国宝」になるんだ……』
『経済効果が凄すぎて、もう誰も彼を返してくれないじゃないか……』
【その日の夕方】
結局、出発は延期(無期限)となった。
宿屋の前には、「勇者ヒナタ様・御一行様 歓迎! 滞在延長決定!」という垂れ幕が掲げられた。
「ふぅ。今日もいい仕事(買い物)をしましたね」
ヒナタは、温泉(領主の館の風呂を借りた)上がりの牛乳を飲みながら、夜空を見上げた。
「明日は、隣村の『こんにゃく作り体験』に行きましょう!」
「ネムリネさん、こんにゃくの枕、作れるかもしれませんよ!」
「……ん。行く」
ネムリネが即答した。
セバスチャンは、馬車の陰で胃薬をかじりながら、遠い目をした。
「……もういい」
「彼が満足するまで……いや、この町の特産品が枯渇するまで、待つしかないのだ……」
こうして、勇者一行は「魔王討伐」という本来の目的を完全に忘れ、「辺境の観光大使」としての業務に勤しむことになった。
彼らがこの町を出るのは、木彫りの熊が馬車に乗り切らなくなった時である。
(第42話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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