■第41話:辺境の城で晩餐会! ……えっ、この「フィンガーボール」は食後のレモンスープじゃないんですか?
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【場所:辺境の貴族領「ド・イナカ領」・領主の館】
「よ、ようこそお越しくださいました! 伝説の勇者一行よ!」
案内されたのは、古いが手入れの行き届いた領主の館。
この地の領主、ド・イナカ伯爵は、緊張でガチガチになりながら出迎えた。
「このような辺境に勇者様が立ち寄られるとは、我が家門の誉れ! さあ、精一杯の『おもてなし』を用意させましたぞ!」
通された大広間には、領主がこの日のために蔵から出してきたであろう、年代物の銀食器や、少し埃っぽいタペストリーが飾られていた。
「ありがとうございます! 伯爵様!」
ヒナタは、ヨレヨレの旅装(砂埃まみれ)のまま、ニコニコと席についた。
その隣で、宰相セバスチャンだけが冷や汗を流していた。
(ま、まずい……。ここは「貴族の館」だ……)
(王都のマナーなど無縁のヒナタ殿たちが、田舎特有の「形式ばった儀礼」に耐えられるわけがない……!)
セバスチャンは、テーブルの下で必死に仲間に合図を送る。
「いいですか皆さん! 決して粗相のないように! 田舎の貴族ほど、礼儀作法にうるさいのですぞ!」
「ブモッ?(腹減った)」
「……スヤァ」
「ふむ。敵(料理)の配置は完璧だな」
……誰も聞いていなかった。
【前菜:オードブルとスープ】
「では、我が領特産の野菜を使った前菜です」
伯爵が、震える手で合図を送る。
その瞬間。
バクッ!!
「ブモォォォッ!!(うめぇ!)」
ゴズが、皿ごと……いや、「おしぼり(最高級シルク)」を口に入れた。
「ひぃぃぃッ!?」
セバスチャンが悲鳴を上げそうになる。
「ゴ、ゴズ殿! それは手を拭くものです!」
「ブモ?(モチモチしてるぞ)」
ゴズは、タオルを餅のように噛みちぎり、ゴクリと飲み込んだ。
「……腹持ちがいいな」
一方、ネムリネは。
「……ん」
彼女はフォークを持つのも面倒くさがり、魔法でオードブルを浮遊させていた。
フワワ……パクッ。
空飛ぶプチトマト。空飛ぶ生ハム。
行儀が悪いとかいうレベルではない。「ポルターガイスト現象」だ。
伯爵の目が点になる。
「あ、あれは……王都で流行りの『空中喫食』というやつか……?」
【メインディッシュ:イノシシの丸焼き】
続いて、豪快なメインディッシュが運ばれてきた。
ヴァレリアの目が鋭く光る。
「……ほう。野生味あふれる良い肉だ」
「だが、切り分けが雑だな」
ヴァレリアは、ナイフとフォークを構えた。
その構えは、完全に「二刀流の剣技」だった。
シャキンッ!!
ダダダダダダッ!!
目にも止まらぬ速さでナイフが走る。
皿の上で、骨付き肉が瞬時に解体され、美しいサイコロステーキへと変わっていく。
「見よ! これが騎士団式・高速解体術だ!」
「食べやすいぞヒナタ殿!」
「わあ! すごい! 一瞬で骨だけに!」
ヒナタが拍手する。
セバスチャンは白目を剥いた。
「静かに……! 音を立てずに優雅に食べるのです……!」
【ヒナタのターン】
そして、ヒナタの番だ。
彼は、テーブルに並べられたカトラリー(ナイフやフォークの列)を、真剣な眼差しで見つめていた。
(……この配置)
(田舎の流儀はわからないけど……きっと深い意味があるはず!)
ヒナタは、伯爵に向かってニッコリと笑った。
「伯爵様。このテーブルセッティング、素晴らしいですね!」
「これは……『領土防衛の布陣』ですね!?」
「は?」
伯爵がポカンとする。
「右翼にナイフ部隊! 左翼にフォーク騎兵隊! そして中央に本陣(皿)!」
ヒナタは、勝手に「戦術」として解釈した。
「ならば、僕はこう攻めます!」
ヒナタは、ナイフとフォークを両手に持ち、皿の上でカチャカチャと「指揮」を始めた。
「全軍突撃! マッシュポテトの城壁を崩せ!」
「ニンジンの砦を制圧せよ!」
「ああっ! 勇者殿が『戦争ごっこ』を始めてしまった!」
セバスチャンが頭を抱える。
そして極めつけは、食後の「フィンガーボール(指を洗う水)」だ。
中には、香り付けのハーブとレモンが浮かんでいる。
ヒナタはそれを見て、ゴクリと喉を鳴らした。
「……これ」
「シメの『特製ハーブスープ』ですね!」
「ちがァァァァッ!!」
セバスチャンの制止も虚しく、ヒナタはボウルを両手で持ち、一気に飲み干した。
ゴクゴクゴク……プハァッ!
「ん~っ! さっぱりしてて美味しい!」
「ゴズさん! これおかわり自由ですよ!」
「ブモォ!(飲むぜ!)」
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、モニターの前で絶句していた。
『マナー……ゼロ』
『田舎だからって……やりたい放題か……』
『伯爵……怒れ。頼むから怒ってくれ』
『「無礼者!」と叩き出してくれ……』
【晩餐会の終わり】
静まり返る大広間。
伯爵は、空になったフィンガーボールと、解体された肉と、タオルを食べた牛を見回した。
そして、震える声で言った。
「……す、素晴らしいッ!!」
「え?」
セバスチャンが顔を上げる。
「なんと洗練された! これが……これが王都の最先端マナーなのか!」
伯爵は感動のあまり涙ぐんでいた。
「我々は、古い因習に囚われていたのだ……!」
「タオルを食らい、手洗い水を飲み干す! これぞ真の『勇者流・自然派』!」
「さすがは伝説の勇者、作法一つとっても常人とは違う!」
「わかってくれますか伯爵様!」
ヒナタが嬉しそうに握手を求める。
「食事は豪快に楽しむのが一番ですからね!」
「うむ! 勉強になった!」
伯爵は立ち上がり、家臣たちに命じた。
「者ども! 今から当家のマナーを改める!」
「手づかみで食え! スープはラッパ飲みしろ!」
「それが最先端の『ロイヤル・スタイル』だ!!」
「うおおおおッ!!」
家臣たちも、日頃の堅苦しい作法から解放され、野獣のように肉にかぶりつき始めた。
厳格な晩餐会は、一瞬にして「無法地帯の宴」へと変貌した。
【帰り道】
「ふぅ。楽しかったですねぇ、伯爵様」
ヒナタは、大量のお土産(地元の名産品)を貰ってホクホク顔だった。
セバスチャンは、やつれ果てて馬車に揺られていた。
「……地方の文化が……破壊された……」
「明日から、この領地で『フィンガーボール飲み』が伝統芸能になったらどうするのですか……」
ネムリネは、馬車の荷台で満腹そうに寝ている。
「……ん。あのタオル、モチモチして美味しかった……」
こうして、辺境の地に新たな(そして間違った)文化を植え付け、一行は次のエリアへと足を踏み入れる。
しかし、セバスチャンの胃薬の残量は、もうゼロに近かった。
(第41話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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