■第38話:サーカス退団拒否! ……えっ、この檻(ライオンの家)に住むんですか?
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【場所:サーカス団・テント裏の動物小屋】
出発予定の朝。
荷馬車の準備は整った。ネムリネも(寝たまま)積み込まれた。
しかし、肝心の勇者がいない。
「勇者殿ー! どこですかー! 出発の時間ですぞー!」
宰相セバスチャンが血相を変えて探し回る。
そして、猛獣の檻の前で絶句した。
「……な、何をしておられるのですか?」
そこには、ライオンの檻の中に「布団(ペルシャ絨毯)」を持ち込み、巨大なライオン(名前:レオ君)を枕にして寝転がっているヒナタの姿があった。
「あ、セバスチャンさん。おはようございます」
ヒナタは、レオ君のタテガミを櫛でとかしながら、悪びれもせずに言った。
「僕、ここに住むことにしました」
「はあぁぁぁッ!!??」
セバスチャンが鉄格子を掴んで揺さぶる。
「正気ですか!? そこは猛獣の檻ですぞ!?」
「それに、魔王討伐はどうするのですか! 世界の平和は!」
ヒナタは、ムッとして頬を膨らませた。
「世界平和も大事ですけど、レオ君の『毛玉ケア』も大事です!」
「毛玉!?」
「見てくださいこの背中! まだゴワゴワしてるんです!」
「僕がいなくなったら、誰が毎日3時間ブラッシングするんですか!?」
「誰が、歯磨きのあとに『よしよし』ってしてあげるんですか!?」
ヒナタはレオ君の首に抱きついた。
「レオ君だって、僕と離れたくないよね!?」
『グルルッ!(ゴロゴロゴロ……)』
ライオンは、完全に骨抜きにされていた。
ヒナタの「神の指圧」と「高級ジャーキー(ゴズ特製)」の味を知ってしまい、もう野生には戻れない顔をしている。
「ほら! 『行かないで』って言ってます!」
「言ってません! 『餌くれ』って言ってるだけです!」
セバスチャンが叫ぶ。
「頼みます勇者殿! 出てください! 皆が待っているのです!」
「やだ! 絶対やだ!」
ヒナタは、子供のように駄々をこね始めた。
「行くなら、レオ君も連れて行きます!」
「無理です! 馬車に乗りません! 食費で破産します!」
「じゃあ、僕がサーカスに残ります!」
「団長も『幹部候補生として歓迎する』って言ってくれましたし!」
「勇者がサーカス団の幹部になってどうするんですかァァァッ!!」
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、頭を抱えて机に突っ伏していた。
『始まった……。また始まった……』
『「イヤイヤ期」だ……。世界を救う勇者の「イヤイヤ期」だ……』
『説得しろセバスチャン……! お前の話術(嘘)しか頼れるものはない!』
『このままだと、魔王城の決戦兵器が「玉乗りライオン」になってしまう……!』
【1時間後・檻の前】
「勇者殿……。いい加減にしてください……」
セバスチャンは、檻の前で正座していた。膝が痛い。喉が渇いた。
しかし、ヒナタは檻の奥で、レオ君と「あっち向いてホイ」をして遊んでいる。
聞く耳を持たない。
(こうなったら……奥の手だ!)
セバスチャンは、意を決して立ち上がった。
「……わかりました、勇者殿。そこまでおっしゃるなら、レオ君との別れは辛いでしょう」
「しかし、ご存知ないのですか?」
「……?」
ヒナタの手が止まる。
「この先の街道沿いにある『幻の森』には……」
セバスチャンは、震える声で大嘘をついた。
「レオ君の遠い親戚にあたる……『ホワイト・タイガー(モフモフ増量版)』が生息しているという噂を!」
「!!」
ヒナタがバッと顔を上げた。
「ホ、ホワイト・タイガー……!?」
「しかもモフモフ増量……!?」
「はい。しかもその虎は、『肉球がピンク色で、踏まれると極上のマッサージ効果がある』と言われています」
ガタッ!
ヒナタが立ち上がった。
「……セバスチャンさん」
「はい」
「レオ君には、いつか立派な『百獣の王』になってほしいんです」
ヒナタは、急にキリッとした顔で言った。
「僕がいつまでも甘やかしていては、彼の成長を妨げることになります」
「……(変わり身が早いな)」
ヒナタは、涙ながらにレオ君の額にキスをした。
「元気でね、レオ君! 君ならきっと、世界一のスターになれるよ!」
『ガウッ?(えっ、もう終わり?)』
ライオンが寂しそうに鳴く。
「ごめんね! でも、世界のモフモフが僕を待っているんだ!」
【出発の時】
「うわぁぁぁん! レオ君ぅぅぅッ!!」
「絶対にまた来るからねぇぇぇッ!!」
結局、ヒナタは馬車の窓から身を乗り出し、サーカスが見えなくなるまで手を振り続けた。
大号泣である。
「よしよし。勇者殿、元気を出して」
セバスチャンが背中をさする。
(嘘がバレる前に、なんとかして珍しい動物を見つけねば……)
(神よ……ホワイトタイガーをご用意ください……!)
神ドラマスは、天界で叫んだ。
『いないよ! そんな設定ないよ!』
『くそっ……! また地形データ書き換えか! タイガーのテクスチャを白くして……!』
こうして、涙と鼻水(と神様の徹夜作業)の末に、一行はようやくサーカスを後にした。
しかし、ヒナタのリュックには、ちゃっかり「団員証(永久フリーパス)」が入っていたのだった。
(第38話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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