■第37話:ラクダとの別れ、そして……わあ、サーカス団への「入団テスト」はこちらですか?
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【場所:砂漠の出口・交易都市「アル・エンド」・レンタル屋】
「ううっ……嫌だぁぁぁッ!!」
街の入り口にある厩舎で、ヒナタの絶叫が響き渡った。
「ポコちゃん! ペコちゃん! 別れたくないよォォッ!」
ヒナタは、2頭のラクダの首に抱きつき、離れようとしない。
ラクダたちも、ヒナタに懐いて離れようとしない(ヒナタのあげる餌が美味すぎるから)。
「勇者殿……。彼らはレンタカーみたいなものです」
宰相セバスチャンが諭す。
「契約期間は終了しました。これからは普通の街道ですから、馬車に乗り換えるのです」
「嫌です! 家族です!」
「でも、この子たちは砂漠でしか生きられません」
「じゃあ僕も砂漠に残ります!」
「勘弁してくださいィィィッ!!」
押し問答が続くこと1時間。
結局、店主が「またいつでも会いに来てくれ」と約束し、さらにヒナタが「高級干し草1年分」を寄付することで、ようやく涙の別れが成立した。
「さようなら……! 元気でね……!」
ヒナタは目を真っ赤に腫らし、トボトボと歩き出した。
その背中は、この世の終わりのように小さい。
「ふぅ……。なんとか納得してくれたか」
セバスチャンは冷や汗を拭った。
「しかし、この落ち込みよう……。復活には数日かかるかもしれん」
一行は、重い空気を背負ったまま、街の大通りへと向かった。
【場所:中央広場】
ジャンジャカジャ~ン♪
ピーヒャララ~♪
賑やかな音楽が聞こえてきた。
色とりどりのテント。ピエロのジャグリング。火吹き男。
そして、檻の中にはライオンや象がいる。
「……あ」
ヒナタの足が止まった。
涙で濡れた瞳が、徐々に乾き、そしてカッと見開かれる。
「……セバスチャンさん」
「は、はい?」
ヒナタは、テントの看板を指差した。
【王立サーカス団・世界巡業中! 団員募集中!】
「動物が……いっぱいいます」
「しかも、みんな芸達者です」
「ええ、まあ、サーカスですからな」
ヒナタは、リュックを地面に投げ捨てた。
「僕、入団します!!」
「はあぁぁぁッ!!??」
「見てくださいあのライオン! 毛並みが悪い! ブラッシングが必要です!」
「あの象さん、鼻がムズムズしてます! 鼻うがいが必要です!」
「そして何より……僕の『動物と仲良くなるスキル』を活かす場所は、ここしかありません!」
「いや、魔王城は!? 世界平和は!?」
「世界を笑顔にするのも勇者の務めです!」
ヒナタは走った。
「頼もうーッ!! 期待の新人、日向です!!」
【場所:サーカス団・テント裏】
「え? 入団希望?」
団長(派手な口髭のおじさん)が、ヒナタたちを見回した。
「悪いけど坊主、うちはプロ集団だ。素人の遊びじゃ……」
「ブモォォォッ!!(ジャグリングだ!)」
ゴズが、近くにあった樽を3つ、軽々と放り投げた。
「ふむ。的当てなら任せろ」
ヴァレリアが、目隠しをしたままナイフを投げ、空中のハエを壁に縫い付けた。
「演出ならお任せを」
エイルが指を鳴らすと、七色の花火がテント内に舞った。
「……スヤァ……」
ネムリネは、空中のクッションで爆睡しながら、無意識に周囲の小道具を浮遊させている(サイキックショー)。
「…………」
団長は口を開けたまま、葉巻を落とした。
「……合格だ」
「今日からメインステージに立ってくれ!!」
【その夜・メインステージ】
『さあ! 今宵お見せするのは、謎の新人「ブレイブ・チーム」による奇跡のショーだ!!』
観客席は満員だった。
セバスチャンだけが、客席の隅で顔を覆っていた。
「なぜ……。なぜ私はチケットをもぎっているのだ……」
ドーン!
スポットライトが当たる。
「レディース・アンド・ジェントルメン!」
ヒナタが、派手なシルクハットと燕尾服で登場した。
「まずは、猛獣使いのショーです!」
ガオォォォッ!!
凶暴なライオンが檻から放たれた。観客が悲鳴を上げる。
しかし、ヒナタは笑顔で手を広げた。
「おいで~! よしよし、怖くないよ~!」
スンッ。
ライオンはヒナタの前に座り、ゴロゴロと喉を鳴らして腹を見せた。
「わあ! すごい懐きっぷり!」
「催眠術か!?」
「いいえ、ただの『ナデナデ』です!」
ヒナタはライオンの肉球をプニプニしながら、観客に手を振った。
続いて、ゴズとヴァレリアのアクロバット。
ネムリネの「空中浮遊睡眠ショー(寝てるだけ)」。
エイルの「イリュージョン魔法」。
会場は熱狂の渦に包まれた。
「ブラボー! アンコール!」
「あの猛獣使い、神か!?」
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、ポップコーンを食べていた。
モニターには、サーカスで大喝采を浴びる勇者一行の姿。
『……悔しいが、面白い』
『魔王退治より、こっちの方が向いてるんじゃないか……?』
『いかんいかん! 見入ってしまった!』
『進めよ! 芸を極めるなよ! そのまま巡業について行こうとするなよ!』
【1週間後】
「え~、もう行くのかい?」
団長が泣いて引き止めた。
「君たちがいれば、世界一のサーカス団になれるのに!」
「すみません団長」
ヒナタは、綺麗になったライオンの鬣を撫でながら言った。
「僕には……やらなきゃいけないことがあるんです」
(※次の街の観光とか、名物料理とか)
「でも、楽しかったです!」
「この『ジャグリングセット』と『ピエロの衣装』、大切にします!」
「持ってくのかよ……」
セバスチャンが呟く。
荷車には、さらにサーカス道具が山積みになっていた。
こうして、ラクダとの別れの悲しみを「エンターテインメント」で乗り越えたヒナタ。
一行は、大道芸人(と間違われる)一座として、普通の街道を賑やかに進み始めた。
しかし、その先には「普通の街道」とは思えない、新たな(そして迷惑な)出会いが待っているのだった。
(第37話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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