■第32話:何もないオアシスにて。……わあ、この「しおれた草」、伝説の植物ですよ!
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【場所:オアシスの中継地点「アル・クサ」】
ピラミッドでの冒険を終え、数日かけてたどり着いた小さなオアシス。
そこには、本当に何もなかった。
古びた冒険者ギルドの出張所。
乾パンと水しか売っていない雑貨屋。
そして、やる気のないラクダが数頭。
「ふぅ……。ここは静かな場所ですな」
宰相セバスチャンは、久しぶりに安堵の表情を浮かべていた。
「観光名所もなし。トラブルの種もなし。これなら、補給を済ませてすぐに出発できるでしょう」
ギルドで水を買い、地図を確認する。
完璧だ。何の変哲もない、ただの通過点だ。
【場所:天界・管理室】
『よしよし……』
神ドラマスは、リラックスしてハーブティーを飲んでいた。
『ここは私が「手抜き」で作ったコピペマップだ』
『イベントなんて1つも設定していない。村人のセリフも「ようこそ」しかない』
『さあ、素通りしろ! 水を飲んだら即出発だ!』
『さすがの勇者も、何もない場所で遊ぶことはできまい!』
【場所:雑貨屋の裏路地】
「補給完了です! さあ勇者殿、行きましょう!」
セバスチャンが声をかける。
しかし、ヒナタは動かなかった。
彼は、雑貨屋の壁際にある、ボロボロの植木鉢の前でしゃがみ込んでいた。
「……勇者殿?」
ヒナタは、植木鉢の中に生えている、茶色く枯れかけた「ひょろひょろの雑草」を、食い入るように見つめていた。
「……信じられない」
ヒナタの声が震えている。
「どうしました? ただの枯れ草ですが……」
ヒナタがバッと顔を上げた。その目は、ピラミッドで財宝を見つけた時以上に輝いていた。
「これ、ただの枯れ草じゃありません!」
「図鑑でしか見たことがない、幻の多肉植物『月光サボテン(ムーンライト・カクタス)』の変異種ですよ!!」
「はあ?」
「見てください、このトゲの角度! 葉脈のねじれ具合! 間違いありません!」
ヒナタが大興奮で解説を始める。
「この子は、百年に一度、満月の夜にだけ花を咲かせると言われる、砂漠の妖精なんです!」
「へ、へえ……。で、それが?」
セバスチャンが冷や汗を流す。嫌な予感がする。
ヒナタは、慈愛に満ちた目で「枯れ草」を見つめた。
「でも、このままだと枯れてしまいます……」
「水やりもされず、こんな路地裏で……かわいそうに……」
ヒナタは立ち上がった。
そして、高らかに宣言した。
「僕が育てます!!」
「この子が元気になって、花を咲かせるその瞬間まで、僕たちはここを動きません!!」
「で、出たァァァッ!! 『園芸家モード』だァァァッ!!」
セバスチャンが頭を抱えて絶叫する。
「ま、待ってください! 『百年に一度』って言いましたよね!?」
「今夜咲くとは限らないでしょう!? 10年後かもしれませんよ!?」
「大丈夫です!」
ヒナタは自信満々に言った。
「僕の『超・栄養剤(スライム液+ピラミッドの秘薬)』と、愛情たっぷりの歌声を聞かせれば、きっとすぐに応えてくれます!」
「エイルさん! 土壌改良の魔法を!」
「ヴァレリアさん! 風除けの柵を作って!」
「ゴズさん! じょうろ(樽)を持ってきて!」
「やれやれ……。植物学の研究ですか。悪くない」
「ふむ。か弱い命を守るのも騎士の務めか」
「ブモッ!(花見したいぜ!)」
あっという間に、何もない路地裏が「ヒナタ植物研究所」へと変貌した。
【場所:天界・管理室】
『嘘だろォォォォッ!!』
神ドラマスが、ティーカップを取り落とした。
『それ……ただの雑草だぞ!?』
『設定なんてない! 「草A」だぞ!?』
『なんでそこに「幻の設定」を勝手に見出すんだよ!』
『しかも「咲くまで動かない」だと!? 咲かねぇよ! データがないんだから一生咲かねぇよォォッ!!』
神様はパニックになった。
このままでは、勇者が「永遠に咲かない草」の前で、老衰するまで座り込みかねない。
『くそっ……! 咲かせなきゃ……!』
『私が……私がプログラムを書き換えて、花を咲かせるしかないのか……!?』
【数時間後・路地裏】
「♪~ 大きくな~れ~ 大きくな~れ~」
ヒナタは、謎の自作ソングを歌いながら、葉っぱ(雑草)を一枚一枚丁寧に拭いていた。
「セバスチャンさん、見てください! 葉っぱに艶が出てきましたよ!」
「……はあ。私にはただの雑草に見えますが」
セバスチャンは、完全に諦めて椅子に座っていた。
「水加減も完璧です。日当たりも計算済み」
「今夜は満月……。もしかしたら、奇跡が起きるかもしれませんよ!」
ヒナタは本気だった。
その純粋すぎる「期待」と「愛情」が、世界に干渉し始めていた。
【場所:天界・管理室】
『……あーもう! わかったよ!』
神ドラマスは、涙目でキーボードを叩いた。
【対象オブジェクト「草A」を「月光サボテン(レア)」に変更】
【開花フラグ:強制ON】
『これでいいんだろ! さっさと満足して進め!』
『ただの草に、私の貴重な「奇跡リソース」を使わせやがって……!』
【その夜】
オアシスに満月が昇った。
静まり返った路地裏で、ヒナタたちは固唾を飲んで植木鉢を見守っていた。
「……来ますよ」
ヒナタが呟いた瞬間。
ポゥ……。
枯れ草だったはずの植物が、淡い光を放ち始めた。
つぼみが膨らみ、ゆっくりと、そして幻想的に開いていく。
「おおっ……!!」
「咲いた……! 本当に咲いたぞ!」
それは、透き通るような青白い花弁を持つ、この世のものとは思えない美しい花だった。
神様がヤケクソで最高画質のテクスチャを貼り付けたせいもあり、その輝きはオアシス全体を照らすほどだった。
「きれい……」
ヒナタが涙ぐむ。
「よかったねぇ……。頑張ったねぇ……」
「勇者殿……。まさか、本当に伝説の花だったとは……」
セバスチャンも、その美しさに言葉を失った。
「ブモォ……(うめぇ……)」
「ああっ! ゴズさん! 食べちゃダメです!」
【翌朝】
花は、夜明けと共に静かに散った。
しかし、種を残してくれた。
「この種は、この街の人に託しましょう」
ヒナタは、雑貨屋の店主に種を渡した。
「大切に育ててくださいね。きっとこの街の新しい名所になりますから」
「あ、ありがとうごぜぇます……!」
店主は、ただの雑草が国宝級の花に変わったことに腰を抜かしていたが、涙ながらに受け取った。
「さあ! 満足しました! 出発しましょう!」
ヒナタは晴れやかな顔でリュックを背負った。
「ふぅ……。やっとですな」
セバスチャンは疲労困憊だったが、ヒナタの満足そうな顔を見て、怒る気力も失せていた。
こうして、本来なら「素通り」するはずだったオアシスは、「伝説の花が咲く奇跡の村」として、観光ガイドに載ることになった。
ヒナタの「寄り道」は、行く先々の運命すらも変えていく。
しかし、次の目的地まであと何キロあるのか。
それは神様すらも計算するのを放棄するほどの、果てしない道のりだった。
(第32話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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