■ 第223話:忘却の忘却(レーテー)。……えっ、究極のマルチタスク訓練ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『あら、ヴァルド。あんたホントに武神? ただの「農具と調理器具のデリバリー業者」に名前変えたら?』
幻神ルキアが、完全に心が折れて床に這いつくばる武神ヴァルドを、冷ややかな目で見下ろした。
後ろでは、ドラマスとアビスが「まあまあ、次はルキアの番なんだから」となだめている。
『言っておくけど、私は夢魔が負けた理由を完全に分析したわ。あれはヒナタの「脳内のタスク量」が多すぎて処理落ちしたからよ』
ルキアは扇子を広げ、妖しく目を細めた。
『タスク(記憶)が多すぎるなら、根本から全部消し去ってしまえばいいのよ! 今回送るのは、冥界の川の化身……【忘却の精霊】!』
モニターに映し出されたのは、半透明の水でできた、美しくも底知れない虚無のオーラを纏う精霊の姿だった。
『レーテーの「忘却の霧」を吸い込んだ者は、数秒で自らの名前も、仲間との思い出も、そして今日やるべきタスクすらも完全に忘却する! 何もかもを忘れて幼児のように泣き喚く勇者を見て、魔物どもは絶望に包まれるのよォォォッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・夕方】
農園では、ヒナタが夕食の支度のために、屋外キッチンで玉ねぎを洗っていた。
そこへ、音もなく忍び寄る「半透明の水の精霊」。
(フフフ……。吸い込みなさい、すべての記憶を消し去る忘却の霧を……!)
忘却の精霊レーテーが、ヒナタの背後から「白く冷たい霧」をフワァッと吹きかけた。
ヒナタは無防備にその霧を胸いっぱいに吸い込み――。
「……あれ?」
ヒナタの動きが、ピタッと止まった。
瞳からハイライトが消え、玉ねぎを持ったままボーッと宙を見つめている。
(天界のルキアが『よし! 記憶が飛んだわ!!』と歓喜の声を上げる)
「……おかしいな」
ヒナタは首をひねり、持っていた玉ねぎをカゴに戻した。
「今から夕ご飯の準備をしようとしてたのに、次になんの野菜を切るんだったか、ド忘れしちゃいました……。ええと、鍋の火はつけたし、お肉は冷蔵庫だし……あれ?」
ヒナタがブツブツと独り言を言いながら、頭をポンポンと叩いている。
(ふふん。当然よ。あなたの記憶は今、私の霧によって消え去って……)
レーテーが勝利を確信した、その時。
「あーっ!! いけません!!」
ヒナタが突然、大きな声で自分自身に向かって叫んだ。
「最近、魔王さんや怪物さんたちのお世話で、頭の中のスケジュールがいっぱいになってたせいだ! 脳の【ワーキングメモリ(同時処理能力)】が完全にパンクして、直前のタスクをボロポロ落とし始めてる!!」
『……ハ?』
レーテーがポカンとする中、ヒナタは「忘却の霧」の魔法効果を、自身の『マルチタスクのしすぎによる、脳のキャパシティオーバー(処理落ち)』だと超絶勘違いしてしまったのだ。
「このままじゃ、お鍋を火にかけたまま他のお世話に行っちゃったりして大事故になります! エイルさーん!! モルガナさーん!!」
ヒナタのSOSに、賢者エイルと魔女モルガナが飛んできた。
「どうしましたヒナタ殿!」
「僕、タスクを抱え込みすぎて思考がフリーズしちゃうんです! だから、二人の魔法と薬草の知識を使って、僕の脳の集中力を限界まで引き上げる【超・高難易度マルチタスク訓練】を手伝ってください!!」
「タスク訓練……ですか? まあ、複数の魔法陣を同時に制御する集中力トレーニングならありますが」
「ヒッヒッヒ、脳の血流を良くする『特製・覚醒スパイスティー』も淹れてやろうかね」
「ありがとうございます! あ、精霊のお姉さんも、ちょっと手伝ってくれませんか?」
ヒナタは、ボー然としている忘却の精霊レーテーの肩をガシッと掴んだ。
「お姉さんのその『霧』、吸い込むと一瞬頭が真っ白になりますよね! それを、僕がお料理と魔法陣パズルを同時にやってる最中に、ランダムに吹きかけてください! 僕はその霧を吸って『記憶が飛ぶ(思考が途切れる)』たびに、【1秒以内に元のタスクを思い出し直して作業に復帰する】という、極限の集中力トレーニングをやりますから!!」
『……エッ?』
レーテーは、自分が「記憶を消す恐ろしい暗殺者」から、突然「生産性向上のための妨害ギミック(霧吹き係)」に任命されたことに戸惑いながらも、ヒナタの勢いに押されてコクリと頷いてしまった。
数分後。
屋外キッチンのテーブルで、前代未聞の【極限・マルチタスク特訓】が始まった。
ヒナタが左手でエイルの立体魔法陣パズルを解きながら、右手でフライパンを振る。
すかさず、レーテーが「忘却の霧」をプシューッ!と吹きかける。
「……あれ? 僕、今なんの料理を……ハッ!! いかんいかん、思考を途切れさせるな!! ええと、フライパンのオムレツを返しつつ、赤の魔法陣を右に回して……よし!!」
『プシューッ!!(忘却の霧)』
「……ここはどこ? 僕は誰?……いやいや、僕はヒナタ! で、次は緑の陣を斜めにしつつ、隠し味の塩コショウを……よし!!」
『プシューッ!!』
「……ええと、明日のスケジュールは……あ、アダムさんの服の修繕! 違う、今は目の前の作業に集中!! 黄色を左に!!」
恐るべき事態が発生していた。
レーテーの「忘却の霧」は確かに強力だが、ヒナタは霧を吸って記憶が飛ぶたびに、「怪物たちのお世話を完璧にこなしたい!」というすさまじい執念(と、モルガナの覚醒ティーのドーピング効果)によって、コンマ数秒で記憶を自力で復元し始めたのだ。
『バ、バカナ……。私ノ忘却ノ霧ヲ吸ッテ、自力デ思イ出ス人間ナド……!!』
レーテーは驚愕に震えながら、何度も何度も霧を吹きかけた。
しかし、特訓を30分も続ける頃には、ヒナタの脳内メモリは限界を超えて拡張され、もはや【忘却の霧を吸い込んだ瞬間に、逆に現在のタスクが鮮明になる】というバグのような耐性を獲得してしまっていた。
「ふぅ……! すごいですお姉さん! お姉さんの霧で何度も思考をリセットされたおかげで、逆に優先順位が整理されて、頭がめちゃくちゃクリアになりました!!」
ヒナタはスッキリした顔で立ち上がり、レーテーの手をギュッと握った。
「お姉さんの霧、作業に没頭しすぎた時のクールダウンに最高ですね! 今日から農園の【専属・タスク管理インストラクター】をお願いします! 作業に煮詰まった時、頭を空っぽにしてくれる霧を吹いてください!」
『……ワ、ワタシガ、タスク管理ノ……先生……?』
【場所:天界・管理室】
『なんで私の忘却の精霊が、ビジネスセミナーの講師(タスク管理)みたいになってんのよォォォォッ!!』
幻神ルキアが、ついに扇子を真っ二つにへし折り、床でバタバタと暴れながら号泣した。
『すべての記憶を消し去る恐怖の霧よ!? なんで「ワーキングメモリがパンクしてるから、頭を一旦リセットするのに使います!」って自力で再起動されて、インストラクターに転職させられてんのよォォォッ!!』
その後ろでは、ドラマス、アビス、ヴァルドの三柱が、「うんうん」「ルキア、お前も頑張ったよ」「あいつの『お世話への執念』は、神の呪いより強いんだよ……」と、温かいコーヒーを飲みながらルキアを慰めていた。
『ひぃっ……ゲホッ! あーっはっはっは!! 腹痛い!!』
地球の神様は、もはや呼吸困難に陥りながらソファの上でのたうち回っている。
『最高だ! 「記憶喪失の呪い」が「ただの脳内メモリの処理落ち」として処理されて、マルチタスク訓練で克服されちゃったよ!!』
『う、ううっ……! 私の……私の幻術がぁぁぁ……ッ!!』
こうして、幻神ルキアの渾身の第2ラウンドも、ヒナタの「生産性(お世話)への異常な執着」の前に完全敗北を喫した。
チキンレースに参加した三柱の神々(ドラマス、アビス、ヴァルド、ルキア)は、全員が床に突っ伏し、「ヒナタ被害者の会・四天王」として完全に牙を抜かれてしまったのである。
そして……。
「ふわぁ……。みんな終わった? じゃあ、いよいよボクの番だね……むにゃ」
パジャマ姿の【怠惰神ターラ】が、抱き枕を引きずりながら、ゆっくりと下界へのゲートへと足を踏み入れた。
神々のチキンレース、いよいよ真の最終兵器の降臨か!!
(第223話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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