■ 第224話:死を告げるバンシー。……えっ、のど飴と加湿器のど自慢ですか?
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『ちょっと退きなさいよヴァルド! あんたのポンコツ魔剣のせいで神の威厳がガタ落ちじゃない!』
『なんだと!? 貴様の記憶喪失の霧だって、ただの脳トレに使われただけだろうが!』
『俺のニャルラトホテプなんて甚平着せられたんだぞ! 威厳の話なら俺が一番被害者だ!』
天界の管理室では、アビス、ヴァルド、ルキアの三柱が、醜い責任の押し付け合い(身内モメ)を繰り広げていた。
地球の神様は「いやぁ、君たちすっかり仲良しだねぇ」と笑いながらピザをかじっている。
『ええい、うるさい! 次は私よ!』
ルキアが強引にコンソールを奪い取り、バンッ!とボタンを叩いた。
『記憶がいじれないなら、問答無用の「即死」を与えるまでよ! 行きなさい、我が神域より出でし死を告げる精霊……【絶望のバンシー】!!』
モニターに映し出されたのは、ボロボロの喪服を身に纏い、長い黒髪を振り乱した、青白い顔の女の幽霊だった。
『バンシーの「死の叫び声」を聞いた者は、鼓膜を破壊されると同時に心臓の鼓動を強制停止させられる! 物理防御も魔法耐性も一切無効! 勇者がのんきにお茶を淹れようとした瞬間、その金切り声で農園の連中ごと即死させてやるわァァァッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・朝】
「さあ皆さん! 今日も一日、ラジオ体操から始めましょう!」
さわやかな朝の空気を吸い込みながら、ヒナタが広場で体操の準備をしていた。
魔王やゴズたちも眠い目をこすりながら集まってくる。
そこへ、背筋が凍るような冷たい風と共に、空中に【絶望のバンシー】がフワリと姿を現した。
(フフフ……。死に絶えなさい、愚かな命ども……!!)
バンシーは大きく息を吸い込み、その肺に呪いの魔力を限界まで溜め込んだ。
『キアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』
凄まじい金切り声が、農園に響き渡る……はずだった。
「……ゲホッ! ゴホッ、ガァァ……ッ、ケホッ、ケホッ!!」
『……あれ?』
天界のルキアが、間抜けな声を漏らした。
バンシーは叫び声を上げた瞬間、自らの声帯の痛みに耐えかねたように咽てしまい、空中で喉を激しく押さえて咳き込み始めたのだ。
「あーっ!! ストップ、ストップです!!」
ヒナタが、ものすごい勢いでバンシーの真下まで駆け寄ってきた。
「お姉さん、ダメですよ! そんな乾燥した朝の空気の中で、いきなり限界のハイトーンボイスで叫んだりしちゃ!!」
『……エ? コホッ、ゲホッ……』
ヒナタの目は、バンシーの「呪い」ではなく、彼女の「喉のコンディション」に完全に釘付けになっていた。
「声が完全にガラガラにひび割れてますよ! ずっとそんな風に金切り声ばかり上げてたから、声帯に【ポリープ(結節)】ができちゃってるじゃないですか! そんな状態で無理に叫んだら、一生声が出なくなっちゃいますよ!!」
『ポ、ポリープ……?』
バンシーは咳き込みながら目を丸くした。
確かに彼女は、何百年もの間「死の叫び」を上げ続けてきたせいで、実は常に喉がイガイガしており、慢性的な痛みと乾燥に悩まされていたのだ。
「エイルさーん! モルガナさーん! 緊急の喉ケアセットをお願いします!!」
ヒナタの号令で、すっかり農園の医療チームとなった二人が飛んでくる。
「ヒッヒッヒ、喉の炎症にはこれだね。『大根とハチミツを漬け込んだ特製シロップ』さ!」
「加湿用の水魔法のミストも出しておきましょう。はい、口を開けてください」
エイルがバンシーの顔の周りに、常に適切な湿度(60%)を保つ微細なウォーターミストを展開し、ヒナタがスプーンで「特製ハチミツ大根シロップ」をバンシーの口に優しく流し込んだ。
『……ンクッ。……!?』
バンシーの瞳が見開かれた。
何百年も乾燥と呪いで焼け焦げるように痛かった喉の奥に、ハチミツの極上の甘さと大根のエキスが、じんわりと、優しく染み渡っていく。
「そのまま、首元を冷やさないようにこれも巻いてくださいね」
ヒナタは、お湯で温めた「ホットタオル」をバンシーの首にぐるぐると巻きつけ、さらに喉の乾燥を防ぐための特製シルクマスクを装着させた。
『ア、アァァ……。喉ガ……熱クナイ……。イガイガシナイ……』
バンシーは、首に巻かれたホットタオルの温かさに、幽霊らしからぬトロンとした表情を浮かべた。
「どうですか? 少し声を出してみてください。あ、無理して叫んじゃダメですよ。優しく、お腹から息を出すように……」
ヒナタに促され、バンシーは恐る恐る、声帯に負担をかけないように、小さく声を張ってみた。
『……あ〜、あ〜♪』
――それは、透き通るような、まるで天使の賛美歌のような【極上のソプラノ・ボイス】だった。
呪いのノイズ(喉の炎症)が完全に取り払われたことで、精霊が本来持っていた美声が100%の状態で復活したのである。
「わあーっ!! すっごく綺麗な声!! お姉さん、本当はそんなに素敵な声を持ってたんですね!」
『ワ、ワタシノ声……? コンナニ澄ンダ音ガ出ルナンテ……!!』
自分の美しい声に一番感動したのは、バンシー本人だった。
彼女は嬉しさのあまり、空中をクルクルと舞いながら、鳥のように美しい声でハミングを歌い始めた。
「そうだ! お姉さん、もしよかったら、毎朝のラジオ体操の『伴奏』と、夜寝る前の『子守唄』を歌ってくれませんか? お礼に、毎日極上のハチミツハーブティーをご馳走しますから!」
『ウタウ!! ワタシ、ウタウワ!!』
数分後。
そこには、ヒナタのお手製シルクマスク(喉ケア用)を首に下げ、魔王や怪物たちの前で、極上のソプラノボイスで「ラジオ体操第一」を美しく歌い上げるバンシーの姿があった。
古竜イグニスが「おお、見事なコブシだ!」と拍手し、アンデッドたちが体操をしながらペンライトを振っている。
【場所:天界・管理室】
『なんで私のバンシーが、喉ケアされてラジオ体操の歌のお姉さんになってんのよォォォォッ!!』
幻神ルキアが、ついにテーブルに顔を突っ伏して号泣した。
『死を告げる絶望の叫びよ!? なんで「乾燥で声帯にポリープができてます!」ってハチミツ大根飲まされて、天使の歌声を取り戻してアイドルデビューしてんのよォォォッ!!』
その後ろでは、ドラマスとアビスが「分かる」「ボーカリストの喉のケアは大事だからな……」と、深く頷きながら謎の共感を示していた。
『あーっはっはっは!! いいねぇ、朝から綺麗な歌声で健康増進だ!!』
地球の神様は、腹を抱えながらも大満足でモニターを眺めている。
『さあ、ルキア君のバンシーも「歌のお姉さん」として就職完了だ! まだまだ行くんだろ? 君たちの手札が尽きるまで、とことん付き合うよ!!』
神々のチキンレースは、終わらない。
彼らの意地とプライドが続く限り、ヒナタの農園には「新たな便利グッズ(元・最凶モンスター)」が次々と増え続けていくのであった。
(第224話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
皆様からの応援が、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!




