■ 第218話:南極の古きもの(エルダー・シング)。……えっ、全自動の樽型ミキサー(ホイッパー)ですか?
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【場所:天界・管理室】
『フ、フフフ……。猟犬やミ=ゴが敗れたのは、奴らが所詮「労働者」クラスだったからだ……!』
邪神アビスは、もはやヤケクソのような笑みを浮かべながら、コンソールに突っ伏していた。
隣では、すっかり親友のような顔をしたドラマスが「まあ、次も頑張れよ」と肩を叩き、地球の神様は優雅に「三段重ねのパンケーキ(ホイップクリーム山盛り)」をナイフとフォークで切り分けている。
『見とけよ! 次は、クトゥルフ神話において地球の生命を創造したとされる、究極の知性体……【古きもの(エルダー・シング)】だ!!』
モニターに映し出されたのは、ウミユリのような星型の頭部、五本の不気味な触手、そして頑丈な【樽】のような形状の胴体を持つ、異形の宇宙生物だった。
『奴らは一切の感情を持たず、ただ純粋な「科学的探求心」のみで動く! 人間を見つければ、麻酔など使わずに生きたまま解剖し、その臓器の働きを冷酷に観察するマッドサイエンティストだ! ヒナタが料理を出す前に、奴の身体は触手でスパンッと解体されて……』
『アビス君、パンケーキ食べる?』
『食わねぇよ! 俺の絶望のプレゼンを聞けェェッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・おやつの時間】
「テケリ・リ! テケリ・リ……!!」
不気味な笛の音のような鳴き声を響かせ、森の奥から「それ」は現れた。
樽のような胴体に、背中にはコウモリのような膜状の翼。そして、星型の頭部からウネウネと伸びる五本の鋭い触手。
「……む。またアビス殿のところの変なのが来たな」
「今度は……歩く樽に触手が生えていますね。どう見ても知的生命体には見えませんが」
ヴァレリアとエイルが、お茶をすすりながら完全に「見物モード」に入っている。
魔王や妖怪たちに至っては、「ヒナタがなんとかするだろ」と誰も武器すら構えようとしない。
『テケリ・リ……!(知能レベルの低い有機生命体を発見。これより、生態調査のための【生体解剖】を開始する……!)』
エルダー・シングは、一切の感情を感じさせない星型の頭部をヒナタに向け、メスのように鋭く尖った五本の触手を、ヒナタの腹部めがけてスッと伸ばした。
「あーーっ!! ナイスタイミングです!!」
触手がヒナタの身体を引き裂く、そのコンマ1秒前。
ヒナタは両手に抱えていた「特大のボウル」を、エルダー・シングの五本の触手の真下へとスライドさせた。
『……?』
「今ちょうど、みんなのおやつに『特大パンケーキ』を作ろうとしてたんですけど、生クリームと卵白の量が多すぎて、僕の腕じゃメレンゲを泡立てるのが限界だったんです!!」
ヒナタは、エルダー・シングの樽型の胴体と、その先端が五つに分かれている触手を見て、目をキラキラと輝かせた。
「お兄さん、すっごく立派な『木樽』みたいな身体ですね! しかもその触手、先っぽが綺麗に五つに分かれてて、プロ用の【バルーン・ホイッパー(泡立て器)】にそっくり!!」
『テケ、リ……?(ホ、ホイッパー……?)』
「お願いです! お兄さんのそのホイッパーで、このボウルの中身を全力でかき混ぜてください!!」
ヒナタは有無を言わさぬ笑顔で、特大ボウル(中には大量の生クリームと砂糖)を、エルダー・シングの触手へと押し付けた。
宇宙の究極知性体は、いきなり未知の白い液体を押し付けられ、困惑のあまり反射的に触手を「シャカシャカシャカッ!」と高速で動かしてしまった。
――それは、宇宙生物の圧倒的な身体能力が、お菓子作りに応用された瞬間であった。
シャカシャカシャカシャカシャカッ!!
エルダー・シングの五本の触手は、人間には不可能な超高速モーターのような回転を生み出し、ボウルの中の空気を完璧なバランスで巻き込んでいく。
「うわあぁぁっ!! すごい!! たった数秒で、生クリームの角がピーンって立ちましたよ!!」
『テケリ……!?(ナ、ナンダコレハ……!?)』
エルダー・シングの星型の頭部が、驚愕に震えた。
『テケリ・リ!?(タダの液状だった有機物が、物理的な攪拌と空気の混入によって、完璧な乳化とタンパク質の変性を起こし、固体に近いフワフワの構造体へと変化したゾ……!?)』
宇宙の果てで、鉱物やガスの分析ばかりしていた究極の科学者にとって、「お菓子作り」という地球の繊細な化学反応(お料理ケミストリー)は、未知の学問との遭遇であった。
「すごいすごい! じゃあ次は、こっちの卵白にお砂糖を3回に分けて入れるので、究極の『ツヤツヤ・メレンゲ』を作ってください!」
『テ、テケリ・リ!!(マカセロ! コノ絶妙ナ粘度変化、科学的探求心ガ猛烈ニ刺激サレルゾ!!)』
もはや生体解剖など完全に頭から吹き飛んだエルダー・シングは、「より完璧な分子構造のメレンゲ」を作り出すため、五本の触手を巧みに操り、ヒナタの指示に従って砂糖を絶妙なタイミングで混ぜ合わせていく。
数十分後。
「はい! 『宇宙のホイッパーお兄さん』特製・雲のようにフワフワな極厚パンケーキの完成です!」
「「「ウオオォォォォッ!! 美味そうゥゥゥッ!!」」」
大広間のテーブルには、エルダー・シングが泡立てた極上のメレンゲと生クリームによって、厚さ10センチ以上に膨らんだフワッフワのパンケーキが山のように積まれていた。
『テケリ・リ……(自ラノ攪拌技術ガ、コレホドマデニ美しい有機反応ヲ生ミ出ストハ……)』
エルダー・シングは、自分の触手が生み出した芸術的なパンケーキを前に、達成感に打ち震えていた。
ヒナタはニコニコと笑いながら、エルダー・シングの星型の頭部に、真っ白で背の高い「コック帽(パティシエ帽)」をすっぽりと被せてあげた。
「お兄さん、お菓子作りの天才ですね! 今日から農園の『専属パティシエ』に任命します! 明日は巨大なスポンジケーキを焼きましょうね!」
『テ、テケリ・リィィィッ!!(ヤル! 地球ノ製菓ノ化学反応、全テ極メテミセルゾォォォッ!!)』
エルダー・シングはコック帽を揺らしながら歓喜の声を上げ、すっかり意気投合した魔女モルガナ(スパイスの天才)と、「温度変化によるタンパク質の凝固」について熱い料理談義を交わし始めたのだった。
【場所:天界・管理室】
『なんで俺の究極知性体が、コック帽被って生クリーム泡立ててんだァァァァッ!!』
邪神アビスは、ついに膝から崩れ落ち、ドラマスと完全に同じフォームで床をバンバンと叩いて号泣した。
『生きたまま解剖するマッドサイエンティストだぞ!? なんで「樽の身体に五本のホイッパー(触手)がついてる=全自動ミキサーですね!」って超解釈されて、お菓子作りの化学変化に感動してんだよォォォッ!!』
ドラマスは、すっかり悟りを開いたお坊さんのような顔で、アビスに温かい緑茶を差し出した。
『な? だから言っただろうアビスよ。クトゥルフの狂気など、ヒナタの「圧倒的おままごと空間」の前では、ただの便利グッズに過ぎんのだ』
『ひぃっ……ゲホッ! あーっはっはっは!! 最高だよアビス君!!』
地球の神様は、パンケーキを喉に詰まらせそうになりながら大爆笑していた。
『これで邪神の配下も、クッション、お掃除ロボ、収穫手伝いに続いて「専属パティシエ(泡立て器)」として農園に就職完了だ! さあアビス君、次はどうするんだい!? 鼻からスパゲッティでも食べるかい!?』
『う、ううっ……! クソォォォッ!! なんで俺がドラマスと同じ目に遭わなきゃいけねぇんだよォォォッ!!』
すっかり牙を抜かれ、ドラマスと共に「ヒナタ被害者の会」の共同代表に就任してしまった邪神アビス。
せせらぎの川辺には、クトゥルフ神話の恐怖の遺産すらも取り込んで、極上のパンケーキの甘い香りが漂っているのだった。
(第218話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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