■ 第217話:宇宙からの菌糸類(ミ=ゴ)。……えっ、脳髄シリンダーは「真空の保温弁当箱(スープジャー)」ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『フ、フフフ……。猟犬が掃除ロボットになったのは、奴らに「野生の犬」としての本能が残っていたからだ……!』
邪神アビスは、噛みちぎった爪を吐き捨て、血走った目でコンソールを操作した。
その横では、すっかり落ち着き払ったドラマスが「ほう、次はどうするのだ?」と緑茶をすすり、地球の神様はマスタードをたっぷりかけたホットドッグを頬張っている。
『次は、感情も野生の本能も一切持たない、冷酷無比な宇宙の科学者どもを送り込んでやる! 暗黒の星より飛来せし菌糸類……【ミ=ゴ】だ!!』
モニターに映し出されたのは、甲殻類のようなハサミを持ち、背中に昆虫のような羽を生やした、おぞましいピンク色の巨大な菌糸生物だった。
『奴らは高度な外科手術の技術を持ち、生きた人間の「脳髄」だけを綺麗に摘出して、絶対零度の宇宙空間でも耐えられる【特殊な金属シリンダー】の中に封じ込めるのだ! そして脳髄だけの姿にして、宇宙の果てへ連れ去ってしまう!』
『なるほど。脳みそだけを缶詰にするのか。エグいねぇ』
『いかにも! 奴らは脳髄の摘出という「作業」を機械的にこなすだけ! そこに言葉も感情も介在しねぇ! ヒナタが料理を差し出す前に、その首から上はスパンッと切断され、冷たい金属の筒の中にパックされていることだろうよォォォッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・夕方】
ブゥゥゥゥン……!!
巨大な羽音を立てて、夕暮れの空から「それ」は舞い降りた。
「……む。また妙なものが飛んできたな」
「今度は……カニとキノコと虫を混ぜたような姿ですね。あんな魔物、見たことがありません」
薪割りの手を止めたヴァレリアとエイルが、怪訝な顔で空を見上げる。
着陸したミ=ゴは、機械的な動きで両腕の鋭いハサミをシャキッと鳴らし、ヒナタの前に歩み出た。
そのハサミには、銀色に怪しく光る「円筒形の金属シリンダー」が握られている。
『……地球ノ人類ヨ。貴様ノ優秀ナ【脳髄】ヲ摘出シ、コノ円筒容器ニ保管スル。ソシテ共ニ、暗黒ノ宇宙ヲ旅シヨウゾ……』
「うわあーっ!! ちょっと待ってください!!」
ミ=ゴがヒナタの頭にハサミを伸ばそうとした、その瞬間。
ヒナタは目をキラキラと輝かせ、ミ=ゴの手から「金属シリンダー」をひょいっと奪い取った。
(天界のアビスが『馬鹿め、そのシリンダーに触れたが最後、脳髄を吸い出されるぞ!』と身を乗り出す)
「お兄さん(?)、この金属の筒、すっごく気密性が高くて分厚いですね! もしかしてこれ、最新型の【真空保温スープジャー(お弁当箱)】ですか!?」
『……ピガ?』
ミ=ゴのハサミが、空を切ってピタリと止まった。
「でも、わざわざ遠い星からこんなに立派なお弁当箱を持ってきたのに、中身がからっぽで金属の匂いしかしないじゃないですか! もしかして、中に入れるおかずがなくて、僕の頭を詰めようとしたんですか!?」
『……脳髄、ヲ……保管……』
「そんな可哀想な食生活をしてたなんて! お弁当箱の無駄遣いですよ! 脳みそなんか詰めても美味しくないですから、僕たちと一緒に最高のご飯を詰めましょう!」
ヒナタは有無を言わさぬ笑顔で、ミ=ゴの脳髄シリンダーを抱え、大鍋をかき混ぜていた魔女モルガナの元へ走った。
「モルガナさーん! このお兄さんたちの真空タッパーに、今日の『特製・牛すじ入り薬膳ボルシチ』をなみなみと注いであげてください! あと、デザート用にエイルさんが凍らせた『完熟ベリーのコンポート』も!」
「ヒッヒッヒ、宇宙の果てからお弁当箱を持参するとは感心だねェ! ほらよ、こぼさないようにしっかり蓋を閉めるんだよ!」
魔法のように完璧な密閉構造を持つ「脳髄シリンダー」は、その圧倒的なテクノロジーによって、熱々のボルシチと、キンキンに冷えたコンポートを、一瞬の温度変化も許さずに完璧に保存してしまった。
「はい! お弁当完成です! 一つは熱々スープ、もう一つは冷え冷えデザートですよ!」
ヒナタがシリンダーをミ=ゴに手渡す。
『……コレハ、脳髄ヲ入レル……』
「いいから、開けて食べてみてください! 疲れた身体に染み渡りますよ!」
ミ=ゴは困惑しながらも、言われるがままにシリンダーの蓋を開けた。
プシュッ!という心地よい真空解除の音とともに、モルガナの特製スパイスと、牛すじの濃厚な香りがフワァァッと立ち上る。
『……!!?』
宇宙の果てで、冷たい鉱物やガスしか摂取したことのなかった菌糸生物の感覚器官に、「地球の温かくて豊かな有機栄養素」の香りが暴力的なまでに叩き込まれた。
ミ=ゴはハサミでシリンダーを傾け、ボルシチを体内に流し込んだ。
『……ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピッ!!!!!♪♪♪♪』
ミ=ゴの背中の羽が、歓喜で狂ったように超高速振動を始めた。
圧倒的な美味。そして、冷え切っていた菌糸の身体の隅々にまで行き渡る、薬膳スパイスの極上の温もり。さらに、食後のベリーコンポートの甘酸っぱさは、彼らの高度な知能を完全に「美食の虜」へと書き換えてしまった。
『……素晴らしい……。コレホドマデニ、栄養価ト幸福度ノ高イ物質ガ、地球ニハ存在シタノカ……! 脳髄ナドトイウ、無味乾燥ナ情報体ヲ集メテイル場合デハナイ……!!』
ミ=ゴは、完全に「脳髄の収集」という本来の目的を忘れ去り、感動のあまりその場に平伏した。
「気に入ってもらえてよかったです! あ、お兄さんたち、その腕の大きなハサミ(トング)と、空を飛べる羽、すっごく便利そうですね!」
『ピガ?(トング……?)』
「もしよかったら、あそこの果樹園の『高い木の上の果物』を収穫するのを手伝ってくれませんか? お礼に、毎日そのシリンダーに最高のお弁当を詰めてあげますから!」
『……ピガッ!!(ヤル!! 是非トモ我々ニ収穫サセテクレ!!)』
数分後。
そこには、恐るべき宇宙の科学者たちが、その高度な飛行能力と精密な外科手術用ハサミを駆使して、高い木の上のリンゴや桃を傷一つつけずに収穫していく、「超・高所作業専門の農園スタッフ」として楽しそうに飛び回る姿があった。
しかも収穫した果物は、彼らが持参した「脳髄シリンダー」の中に次々と詰め込まれ、鮮度100%のまま完璧に真空保存されていく。
「ブモォ! 新入りのおかげで、高いところの収穫が助かるぜ!」
「うむ、あのシリンダーという容器は本当に便利だな。我らの遠征用のお弁当箱として追加発注したいくらいだ」
魔王やゴズたちとすっかり打ち解け、ミ=ゴたちは「ピガピガ♪」と機嫌よく羽を鳴らしているのだった。
【場所:天界・管理室】
『なんで俺の宇宙の科学者が、ハサミをトングにしてリンゴの収穫手伝ってんだァァァァッ!!』
邪神アビスは、ついにドラマスの横に並んで床にうつ伏せになり、拳で床をバンバンと叩いて泣き始めた。
『人間の脳髄を摘出するシリンダーだぞ!? なんで「最新型の真空スープジャーですね!」ってボルシチとデザート詰められて、そのままお弁当箱として実用化されてんだよォォォッ!!』
ドラマスは、すっかり保護者のような顔つきで、アビスの背中を優しく撫でている。
『な? わかっただろうアビスよ。奴の「相手の持ち物を便利な日用品に解釈する」能力は、神の理すら超えているのだ。ミミックをスーツケースにした男だぞ、脳髄シリンダーをタッパーにするくらい朝飯前よ』
『ひぃっ……ゲホッ! あーっはっはっは!! 最高だよ君たち!!』
地球の神様は、ホットドッグを飲み込むのも忘れて大爆笑していた。
『これで邪神の配下も、クッション、お掃除ロボ、そして高所作業&真空保存係として農園に就職完了だね! さあアビス君、次はどうするんだい!?』
『う、ううっ……! クソォォォッ!! 覚えてろよォォォッ!!』
すっかり牙を抜かれ、「お笑いトリオのツッコミ担当(被害者)」に成り下がった邪神アビス。
せせらぎの川辺には、クトゥルフ神話の恐怖の遺産すらも取り込んで、今日も平和で美味しい日常が続いていくのであった。
(第217話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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