■ 第216話:時間を超える猟犬(ティンダロス)。……えっ、四隅専用の全自動お掃除ロボですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『チィィッ……! まさか俺様の「這い寄る混沌」が、ドライアイを心配されてビーズクッションにされるとはな……!』
邪神アビスは、爪をガリガリと噛みながらモニターを睨みつけていた。
隣では、すっかり「ヒナタ被害者の会・先輩」となったドラマスが、同情の目を向けながら肩をすくめている。
『だから言っただろう。あの勇者の狂気じみた「お世話スキル」の前では、形ある化け物はすべて無力化されるのだ』
『うるせぇ! まだ一敗しただけだ! 次は「物理攻撃」でも「形」でもない、絶対に回避不可能な【暗殺者】を送り込んでやる!』
アビスはコンソールを蹴り飛ばすように操作し、新たな邪神の眷属を呼び出した。
『いけ、時間を超える狩人……【ティンダロスの猟犬】よ!!』
『ん? 猟犬? 犬なら前にも人狼が餌付けされてたけど?』
地球の神様がツッコミを入れると、アビスは不敵に笑った。
『ただの犬じゃねぇ! 奴らは「時間の角(鋭角)」……すなわち、部屋の四隅や、家具の直角になっている隙間から、次元を歪めてどこにでも出現する宇宙生物だ! しかも全身から猛毒の「青い粘液」を滴らせ、獲物を地の果てまで執拗に追い詰める! 部屋の隅から突然現れる絶望に、お茶を淹れる暇なんてねぇんだよォォォッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・丸太小屋の中】
「よし! 床の雑巾がけも終わって、ピカピカになりました!」
ヒナタは、アダムとゴズが建ててくれた新しいゲストハウス(丸太小屋)の掃除を終え、額の汗を拭っていた。
部屋の換気をしようと立ち上がった、その時である。
シュゥゥゥゥ……。
突如、部屋の「四隅(角)」の空間が歪み、そこから不気味な青い煙が噴き出し始めた。
そして、その直角の隙間から、ドロドロの青い粘液を滴らせた、痩せこけた犬のような異形の怪物が、無理やり身体をねじり出すように這い出てきた。
『アォォォォ……!(我は時間を超える狩人……。貴様の命、次元の果てまで逃がしはしな……)』
「あーーーっ!! ストップ、ストップです!!」
ヒナタが、今日一番の大きな声を上げて駆け寄ってきた。
(天界のアビスが、『よし! さすがの勇者も次元の隙間から現れる怪物にはパニックになったか!』と身を乗り出す)
しかし、ヒナタは恐怖に震えるどころか、両手に雑巾とバケツを構え、鬼の形相(お母さんの怒り)で猟犬の鼻先をビシッと指差した。
「そこの角っこ、今ホウキで掃いて、水拭きして綺麗にしたばっかりなんですよ!! なんでそんな狭い隙間から無理やり出てこようとするんですか! 身体中ホコリまみれになっちゃうじゃないですか!」
『……ハ?』
ティンダロスの猟犬は、獲物から「掃除したばかりの場所を汚すな」と怒られ、完全にフリーズした。
「それに、口からそんな青いドロドロのヨダレをいっぱい垂らして……! もしかしてワンちゃん、変なもの食べてお腹壊してるんですか!? 重度の胃腸炎じゃないですか!」
『ガ、ガルル……?(い、胃腸炎……? これは獲物を溶かす猛毒の粘液……)』
「そんなに胃液を吐き戻すなんて、可哀想に! ずっとお腹が痛かったんですね!」
有無を言わさぬヒナタのロジックにより、クトゥルフ神話の恐怖の象徴である青い粘液は、ただの「胃腸炎による吐き戻し」に変換されてしまった。
ヒナタは猟犬を「ヨイショッ」と部屋の角から無理やり引っ張り出すと(猟犬は困惑しすぎて一切抵抗できなかった)、そのまま床にゴロンと寝かせた。
「モルガナさーん! すみません、このワンちゃんお腹の調子が悪いみたいなので、『特製・胃腸の調子を整える薬膳丸薬』をもらえませんかー?」
「ヒッヒッヒ、なんだいまた新しい客かい? はいよ、百草の根をすり潰した特効薬だ。すぐにお腹の痛みが引くよ」
窓の外から、すっかり農園の料理長として馴染んでいる魔女モルガナが、ポイッと丸薬を投げてよこした。
ヒナタはそれを猟犬の口にポイッと放り込み、さらにバケツのぬるま湯で絞ったタオルで、猟犬の身体についた青い粘液(ヒナタ視点では吐瀉物)を、ゴシゴシと綺麗に拭いてやった。
『ギュゥゥゥン……?(あ、あれ……? お腹の奥の、常に渦巻いていた次元の飢餓感が……スゥッと消えていく……?)』
胃腸(?)の調子が整い、身体をピカピカに拭き上げられたティンダロスの猟犬は、猛毒の粘液を垂らすのをピタリとやめ、「フワァ〜……」と犬のようにあくびをして、ヒナタの足元で香箱座りをしてしまった。
「よしよし、もう青いヨダレは出ませんね! 偉い偉い!」
ヒナタは猟犬の顎の下をワシャワシャと撫で回し、ニコニコと微笑んだ。
「あ、そうだ。ワンちゃん、角っこからスッと出てくるのがすごく上手でしたよね?」
『ワフッ!(次元の鋭角を移動するのは俺たちの特技だぜ!)』
「じゃあ、この丸太小屋の『四隅』の、ホウキが届きにくい隙間のホコリを、次元の彼方にパクパクって吸い込んでお掃除してくれませんか? お礼に、モルガナさんの美味しいご飯を毎日お腹いっぱい食べさせてあげますから!」
『ワォォォンッ!!(やるやる! お掃除任せとけ!!)』
数分後。
そこには、ヒナタの指示に従い、丸太小屋の四隅から四隅へと次元ワープを繰り返し、ホウキの届かない角のホコリを異次元へと次々に吸い込んでいく、「四隅専用の全自動お掃除ロボット(ル○バ)」のごとく働き回るティンダロスの猟犬の姿があった。
「おや、ヒナタ殿。また便利な使い魔が増えたようだな」
「はい、エイルさん! これで角っこのお掃除がすごく楽になりました!」
「ブモォ! 俺様たちの建てた小屋を綺麗にしてくれて助かるぜ、新入り!」
ゴズから頭を撫でられ、ティンダロスの猟犬は「ハッハッハッ」と嬉しそうに尻尾を振った。
【場所:天界・管理室】
『なんで俺の最強の暗殺犬が、「角っこのホコリを吸い取るお掃除ロボット」になって尻尾振ってんだァァァァッ!!』
邪神アビスは、ドラマスと全く同じポーズで床を転げ回り、頭を抱えて号泣した。
『時間を超える恐怖の狩人だぞ!? なんで「部屋の四隅から出てくる=隙間の掃除が得意」っていう主婦みたいな発想で再就職させられてんだよォォォッ!! しかも青い粘液を胃腸炎扱いして薬飲ませるなァァァッ!!』
ドラマスは、優しくアビスの肩をポンポンと叩いた。
『な? だから言っただろう。あの勇者の前では、クトゥルフの宇宙的恐怖すらも、ただの「日常のちょっとしたお悩み」にスケールダウンされてしまうのだ……』
『ひぃっ……ゲホッ、あーっはっはっは!! ようこそアビス君! 君もすっかりこのコメディ劇場の立派なレギュラーだ!!』
地球の神様は、もはや笑いすぎて酸欠になりかけていた。
『お、おのれぇぇぇッ!! まだだ、まだ終わらんぞ!! 俺のクトゥルフ図鑑には、まだまだ絶望の怪物が詰まってるんだからなァァァッ!!』
すっかり意地になった邪神アビスの「配下投入チャレンジ」は、まだ始まったばかりであった。
(第216話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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