■ 第215話:忍び寄る邪神の影。……えっ、冒涜的な触手には「温熱アイマスク」ですか?
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【場所:天界・管理室】
『はぁ……はぁ……。終わった……。慰安旅行も無事に終わってしまった……』
激動の神・ドラマスは、真っ白に燃え尽きた灰のような顔で、床にへたり込んでいた。
その横では、地球の神様が買ってきたばかりのピザを頬張りながら、モニターに映る平和な「せせらぎの川辺」の光景を眺めている。
『いやぁ、いい最終回だったねぇ。世界最強の軍団が、温泉に入ってお土産買って帰ってくるだけの最高のロードムービーだったよ。もうドラマス君の手札もゼロだし、これでこの世界も永遠の平和が……』
『おいおい、勝手に終わらせるなよ。めっちゃ面白そうなゲームやってるじゃんか、お前ら』
その時、管理室の扉がギィィィッと不気味な音を立てて開き、冷たい瘴気とともに一柱の神が姿を現した。
漆黒のライダースジャケットを着込み、ピアスをじゃらじゃらとつけたパンクロッカーのような風貌。
ドラマスの悪友にして、この世界に名状しがたい狂気と絶望をもたらす存在――【邪神】アビスである。
『ア、アビス!? なぜお前がここに!』
『下界の様子が最近おかしいから覗きに来てみれば……魔王やアンデッドが畑を耕して温泉旅行に行ってるじゃねぇか。しかも原因はあの地球人のガキだろ? なかなか笑えるコメディ映画だぜ』
邪神アビスはニヤニヤと笑いながら、ドラマスのコンソールの上にドカッと腰を下ろした。
『だがよ、ファンタジーの魔物なんぞ所詮は「形」のある生き物だ。餌付けされて懐柔されるのも道理ってもんよ。……この俺様の「配下」をぶつけてみたら、あいつはどうなるかな?』
『や、やめろアビス! お前の配下は物理法則を無視した「這い寄る混沌」の類だろうが! あんなものが平和な農園に出たら……』
『ポチッとな』
ドラマスの制止も聞かず、邪神アビスは楽しそうに召喚ボタンをターンッと叩き込んだ。
『さあ行け、俺の可愛いペット! 全ての理性を破壊する狂気の集合体……【混沌の落とし子】よ! あのふざけたキャンプ地を、名状しがたい狂気で塗り潰してこい!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・午後】
「ふぅ〜! やっぱり自分のお家(キャンプ地)が一番落ち着きますね!」
竜の渓谷から帰還し、全自動スーツケース(ミミック)からお土産を取り出しながら、ヒナタが伸びをした。
魔王やゴズたちも、「やっぱりここが一番だぜ」「温泉もいいが、この農園の空気が一番うまいな」と、すっかりマイホームに帰ってきたお父さんのような顔でくつろいでいる。
だが、その平和な空気は、突如として空を覆った「紫色に蠢く亀裂」によって引き裂かれた。
『■■■■■―――ッ!!』
空間が割れ、そこからドロリと零れ落ちてきたのは、この世の物とは思えない冒涜的な肉塊だった。
不定形の黒いヘドロのような身体に、無数の触手。そして、表面には血走った「無数の巨大な眼球」がギョロギョロと蠢いている。
「な、なんだあのバケモノは……!?」
人類最強の騎士であるヴァレリアですら、その姿を見た瞬間に強烈な吐き気と眩暈に襲われ、膝をついた。
「だ、ダメだ団長! 目を逸らしてください! あれは邪神の眷属……見るだけで精神を破壊される、狂気の宇宙生物です!!」
エイルが悲鳴を上げ、魔王やアンデッドたちでさえも、次元の違う「純粋な狂気」のオーラに冷や汗を流して一歩後ずさった。
『■■■■!!(狂エ……! 絶望セヨ……!)』
無数の血走った眼球が、一斉にヒナタたちを睨みつける。
その精神攻撃の波動が放たれようとした、まさにその瞬間だった。
「うわあああっ!! 大変です!!」
ヒナタが、今日一番の大きな声を上げて肉塊の真正面へとパタパタと走り出した。
「ヒナタ殿!? ダメだ、正気を失うぞ!!」
ヴァレリアが制止するのも聞かず、ヒナタは「混沌の落とし子」のすぐ目の前まで行くと、その無数の血走った目を見て、悲痛な声を上げた。
「お兄さん(?)、全身にこんなにいっぱい目玉がついてるのに、全部真っ赤に充血してるじゃないですか!! しかも瞬きしてないから、表面がカッサカサに乾いてますよ! これ、超・重度の『ドライアイ』と『眼精疲労』です!!」
『……■?』
狂気の肉塊の動きが、ピタリと止まった。
「こんなに目が充血するまで何徹したんですか!? 暗い次元の隙間でずっとスマホやパソコン見てたんでしょう!? そのまま放っておいたら、視力が落ちて頭痛までしてきますよ!!」
『■、■■……?(ド、ドライアイ……? 眼精疲労……?)』
ヒナタのロジックにかかれば、コズミック・ホラーの不気味な造形(無数の血走った目)も、ただの「重度のデスクワーク疲れ」に変換されてしまう。
「すぐにケアしますから、ちょっと動かないでくださいね! ええと、目玉がいっぱいあるから……よし、これ全部使っちゃいましょう!」
ヒナタは自分のリュックから、地球から持参していたリラックスグッズ……「カモミールの香りの温熱蒸気アイマスク」を箱ごと取り出した。
そして、ペリッ、ペリッと袋を開けると、温かくなり始めたアイマスクを、肉塊の表面についている無数の眼球に、次々と、かつ丁寧に貼り付けていった。
『■、■ガッ……!?』
「はい、全部貼れましたよ! 約40度の心地よい蒸気が15分間続きますからね。そのままゆっくり休んでください」
『…………〜〜〜〜ッ!!♪』
瞬間、邪神の眷属の身体が、ビクンッ!!と大きく跳ねた。
何万年もの間、次元の狭間で一度も瞬きをすることなく世界を睨み続けてきた「無数の眼球」。その限界まで酷使され、バキバキに凝り固まっていた眼精疲労が……じんわりと温かい蒸気と、カモミールの優しい香りによって、一気に解きほぐされていったのである!!
『■■■〜〜……♪(あぁぁぁぁ……。目の奥の、重かった芯が……溶けていくぅぅ……♪)』
狂気と絶望を振り撒いていたはずの黒いヘドロは、無数のアイマスクを装着したまま、「フシューッ」と幸せそうな蒸気を噴き出し、完全にスライム状にとろけて地面にペタンと平たくなってしまった。
「よしよし。そのまま温めながら、目の周りのツボを軽くマッサージしますね。……うんうん、すごく柔らかくて、まるで『低反発のビーズクッション』みたいで気持ちいい触り心地ですねぇ!」
『■■■〜♪♪(そこ……そこ気持ちいいですぅぅ……♪)』
とろけきった肉塊は、もはやヒナタが寄りかかっても全く抵抗せず、むしろヒナタの身体の形に合わせて優しく包み込む「極上のフィット感を持つリビング用クッション」へと成り下がってしまった。
「あ、魔王さんもどうですか? このクッションさん、ひんやりしててすっごく気持ちいいですよ!」
「お、おお……? そ、そうか? じゃあちょっと失礼して……うおおっ!? なんだこの人をダメにする極上の沈み込みは!!」
気がつけば、邪神の眷属は、温泉上がりの魔王やヴァレリアたちがダメ人間のように寄りかかって昼寝をするための、「超大型・全自動マッサージ機能付きビーズクッション」として、リビングの中央に鎮座することになったのだった。
【場所:天界・管理室】
『なんで俺の可愛い這い寄る混沌が、「人をダメにするクッション」になって魔王に寄りかかられてんだァァァァッ!!』
今度は、邪神アビスがドラマスのコンソールに頭を打ち付けて絶叫した。
『見るだけで発狂する冒涜的な怪物だろうが!! なんで「無数の血走った目=重度のドライアイですね」って超解釈されて、蒸気でホットアイマスク貼られて完全リラックスしてんだよォォォッ!!』
その横で、ドラマスは「な? 言っただろ?」というような哀れみの目を向け、地球の神様はピザを片手に腹を抱えて笑い転げていた。
『あーっはっはっは!! ようこそ、ヒナタ君の被害者の会へ!! いやぁ、ファンタジーの魔物だけじゃなく、邪神のクトゥルフ系モンスターまで「健康お悩み相談」で解決しちゃうとはねぇ!』
『お、おのれぇぇぇッ!! 認めん! 俺は絶対に認めんぞ!! 俺の配下はまだまだ腐るほどいるんだ!! 次から次へと、理不尽な狂気の怪物を送り込んでやるからなァァァッ!!』
負けず嫌いの邪神アビスが参戦したことで、尽きかけていた(かに見えた)ヒナタのキャンプ地への「刺客のストック」は、まさかの無限に補充されてしまった。
しかし、どんな名状しがたい狂気の化け物が来ようとも、勇者ヒナタの「圧倒的お世話スキル」の前では、すべてが快適なスローライフの便利グッズへと変換されてしまう運命にあるのだった。
(第215話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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