■第21話:蜃気楼だった! ……ということは、ここに「作れ」ってことですね?
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【場所:アル・バハラ砂漠・中央部】
「見えたーッ!! オアシスだーッ!!」
ヒナタが叫んだ。
揺らめく陽炎の向こうに、青々と茂るヤシの木、きらめく水面、そして幻の「かき氷屋」の幟が見える。
「ヒャッホォォォウ! いちごシロップゥゥゥッ!」
「ブモォォォッ!(練乳ゥゥゥッ!)」
一行はサンドスキーを加速させ、猛スピードでオアシスへ突っ込んだ。
しかし。
フッ……。
彼らが飛び込んだ瞬間、景色が歪み、霧散した。
あるはずの水も、木も、屋台もない。
そこにあるのは、ただの乾いた熱い砂だけだった。
「……え?」
ヒナタが立ち尽くす。
セバスチャンが青ざめる。
「し、蜃気楼……! まさか、集団幻覚を見るほど疲弊していたとは……!」
「……ない」
ヒナタが、ガクリと膝をついた。
「ないよ……。かき氷……。冷たいお水……」
「嘘だったんだ……。この世界は嘘つきだ……」
ズーン……。
ヒナタの周りに、目に見えるほどの「絶望のオーラ」が立ち込める。
普段が太陽のように明るい分、落ち込んだ時の重力はブラックホール並みだった。
「勇者殿! しっかりしてください!」
セバスチャンが慌てて駆け寄る。
「こ、これは神の試練です! きっと、あと1キロ先に本物が……!」
「……もういいです」
ヒナタは、死んだ魚のような目で空を見上げた。
「セバスチャンさんの励ましは嬉しいですけど……僕の心はもう、ポッキリ折れました」
「もう一歩も……指一本動かしたくありません」
「いかん! ここで止まったら干からびて死ぬぞ!」
セバスチャンが揺さぶるが、ヒナタは岩のように動かない。
ヴァレリアやゴズも、ヒナタの絶望に伝染して座り込んでしまった。
「終わった……。私の筋肉もここまでか……」
「ブモォ……(ママ……)」
万事休す。
セバスチャンの話術も、今回ばかりは効果がなかった。
【場所:天界・管理室】
『よしッ!!』
神ドラマスが、ガッツポーズをした。
『見たか! これが現実だ!』
『甘い夢を見て、裏切られて、絶望する! これこそが人間ドラマなのだ!』
『さあ泣け! 喚け! そして這いつくばってでも進むのだ!』
ドラマスは勝利を確信した。
ついに、あのマイペース勇者に「挫折」を味わわせたのだ。
【場所:蜃気楼の跡地】
沈黙が支配する砂漠。
しかし、その静寂を破ったのは、他でもないヒナタだった。
「……ん?」
ヒナタは、虚ろな目で砂を見つめていたが、急にハッとした顔をした。
そして、ブツブツと独り言を始めた。
「待てよ……。蜃気楼って、光の屈折現象ですよね……」
「遠くの景色が映ることもあるけど……さっき見えたのは『理想的な配置のオアシス』だった」
ヒナタの目に、徐々に光が戻ってくる。
いや、それは正気というより、「狂気じみたポジティブさ」の輝きだった。
「そうか……! わかったぞ!」
ヒナタがガバッと立ち上がった。
「勇者殿!? 気を取り直してくれたのですか!?」
セバスチャンが期待する。
ヒナタは、ニヤリと笑って言った。
「あれは『完成予想図』だったんですね!!」
「……はい?」
「神様が見せてくれたんです! 『ここにオアシスを作れば最高だよ』っていう、建築プランを!」
ヒナタはスコップ(船でゴズが使っていた巨大なやつ)を取り出した。
「ないなら、作ればいいんです!」
「設計図通りに掘れば、水は出るんです!!」
「いやいやいや! 無理ですって!」
セバスチャンがツッコミを入れる。
「ここは砂漠のど真ん中ですよ!? 地下水脈なんて……」
「あります!」
ヒナタは断言した。
「僕の『ダウジング(勘)』が告げてます! ここ掘れワンワンです!」
「ゴズさん! エイルさん! やりますよ!」
「ブモッ!?(マジか!?)」
「やれやれ……。地形変形魔法の出番ですか」
ヒナタの熱意に押され、全員が立ち上がった。
セバスチャンだけが呆然としている。
「正気か……? 幻覚を現実にするつもりか……?」
【数分後】
ザックザックザック!!
ゴズの怪力と、エイルの魔法、そしてヴァレリアの精密な剣さばき(穴掘り)によって、砂漠に巨大な穴が穿たれた。
「もっと深く! そこだ! その岩盤の下だ!」
ヒナタが現場監督のように指示を飛ばす。
「勇者殿、もう10メートル掘りましたが……湿り気一つありませんぞ」
セバスチャンが諦めかけた、その時。
カァァァァン!!
ゴズのスコップが、硬い岩を砕いた。
次の瞬間。
プシュッ……。
ドッパァァァァァァァン!!!!
「うわあああッ!?」
大地が震え、巨大な水柱が空高く吹き上がった。
それはただの水ではない。地下深くから汲み上げられた、ミネラルたっぷりの「天然温泉」だった。
「で、出たァァァァッ!!」
「本当に水脈があったぞォォッ!!」
水は瞬く間にすり鉢状の穴を満たし、砂漠に巨大な湖を作り出した。
「やったーッ!!」
ヒナタが水しぶきを浴びながら叫ぶ。
「やっぱり! 神様の設計図は完璧だ!」
「エイルさん! 氷魔法で『かき氷』を!」
「ゴズさん! ヤシの実(持参)を植えてください!」
「ヴァレリアさん! 日陰用のパラソル(絨毯)を設置!」
あっという間に、そこは蜃気楼で見た光景……いや、それ以上の「源泉かけ流し・オアシスリゾート」へと変貌した。
【場所:天界・管理室】
『バカなァァァァッ!!』
神ドラマスが、モニターに頭突きをした。
『なんで出るんだよォォォッ!!』
『私の設定では、そこは「絶対乾燥地帯」だぞ!? 水脈なんて1ミリも書いてないぞ!?』
ドラマスは震える手でデータを確認した。
すると、【エラー:勇者の『強運』値が限界突破しました。現実を書き換えました】というログが出ていた。
『運だけで地形を変えるなァァァッ!!』
『蜃気楼を「設計図」と解釈するポジティブさが怖いよォォォッ!!』
【場所:自作オアシス】
「ん~っ! 労働のあとのかき氷は最高ですねぇ!」
ヒナタは、出来たての温泉プールに浸かりながら、山盛りのイチゴかき氷(エイル製シロップ)を頬張っていた。
「生き返る……。やはり諦めない心が大事なのだな」
ヴァレリアも温泉でくつろいでいる。
「ブモォ~(極楽だぜ~)」
セバスチャンは、冷たい水を飲みながら、遠い目をした。
「……もう、驚かんぞ」
「この勇者にかかれば、地獄さえも遊園地になるのだ……」
ヒナタは、空に向かってスプーンを掲げた。
「神様~! 素敵なアイデア、ありがとうございました~!」
「おかげで最高の休憩所ができましたよ~!」
『…………』
天界からの返事はなかった。
ただ、どこかで何かがポッキリと折れる音がした気がした。
こうして、地図にない「ヒナタ・オアシス」が誕生し、後の世まで「砂漠の奇跡」として語り継がれることになった。
(第21話・完)
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