■第20話:砂漠の芸術「風紋」に感動! ……えっ、ここから一歩も動かないんですか?
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【場所:アル・バハラ砂漠・入り口から数キロ地点】
「ふぅ……。最高のプリンでしたねぇ」
「うむ。あの滑らかな舌触り……並んで買った甲斐があった」
ヒナタとヴァレリアは、ラクダの背中で幸せそうに反芻していた。
太陽は高く昇り、周囲は360度、見渡す限りの砂の世界だ。
「さあ皆さん! 今度こそ進みますぞ!」
宰相セバスチャンが、先頭で声を張り上げる。
「次のオアシスまでは強行軍です! 無駄話はやめて、一気に……」
「……ストップ」
ヒナタの静かな、しかし力強い声が響いた。
ラクダの列が止まる。
「な、なんですかな勇者殿!? 今度こそ忘れ物はないはず……!」
セバスチャンが振り返ると、ヒナタはラクダから飛び降り、砂の上に膝をついていた。
「見てください……セバスチャンさん……」
ヒナタの声が震えている。
「この……曲線美……」
彼が指差した先には、風によって描かれた幾何学模様――「風紋」が、どこまでも続いていた。
「すごい……! 神様が描いたアートだ……!」
ヒナタは、砂の波に顔を近づけ、うっとりと見つめた。
「この陰影! 繊細なライン! 風の息吹がそのまま形になっている!」
「は、はあ。確かに綺麗ですが……」
「ダメだ。動けません」
ヒナタが断言した。
「はい?」
「この風紋は『生きている』んです。僕たちが歩けば、この芸術踏み荒らして壊してしまう……!」
ヒナタは涙目で訴えた。
「これを見届けるまでは……いや、この風紋が夕日で赤く染まり、そして夜風で消えゆくその瞬間まで、僕はここを動けません!!」
「めんどくさい芸術家スイッチが入ったァァァッ!!」
セバスチャンが頭を抱える。
さらに悪いことに、仲間たちも感化され始めた。
「ふむ……。言われてみれば、この波形……剣の軌道に通ずるものがある」
ヴァレリアが腕組みをして座り込む。
「風の呼吸を読む修行になりそうだ。……よし、瞑想しよう」
「このパターンの数式は興味深いですね」
エイルが杖で砂に計算式を書き始めた。
「フラクタル構造の解析には、最低でも3日は必要か……」
「ブモッ……(眠い……)」
ゴズは風紋を枕にして寝始めた。
【場所:天界・管理室】
『おいィィィィッ!!』
神ドラマスが、モニターに向かってスリッパを投げた。
『砂だぞ!? ただの砂のデコボコだぞ!?』
『なんでそこで「感動のフィナーレ」みたいな顔して座り込んでるんだ!』
『進めよ! 踏み荒らせよ! それが冒険だろォォォッ!!』
しかし、芸術家モードに入ったヒナタは頑固だ。
「神様への冒涜になります!」と言って、テコでも動かない構えだ。
『くそっ……! 宰相! 頼む! 何とかしてくれ!』
神様は、唯一の常識人であるセバスチャンに祈った。
【場所:砂漠のど真ん中】
セバスチャンは、深呼吸をした。
(落ち着け……。力ずくでは無理だ。ヴァレリア殿まで座り込んでいる今、武力行使はできない)
(ならば……「話術」だ!)
(王宮での外交交渉、気難しい貴族への根回し……その経験を今こそ活かす時!)
セバスチャンは、眼鏡の位置を直し、ゆっくりとヒナタに近づいた。
「……勇者殿。お気持ちは分かります」
セバスチャンは、あえて同調した。
「確かに、この風紋は素晴らしい。国宝級の芸術ですな」
「でしょう!? 分かってくれますかセバスチャンさん!」
ヒナタが嬉しそうに顔を上げる。
「ええ。しかし……」
セバスチャンは、声を潜めて囁いた。
「勇者殿はご存知ないのですか? この先に待つ『伝説の景勝地』を」
「……えっ?」
ヒナタの耳がピクリと動く。
「この風紋は、いわば『序章』。実は、次のオアシスの近くに……『七色の風紋』が現れるという噂があるのです」
「な、七色……!?」
「はい。特殊な鉱石が混じった砂が、夕日を浴びて虹色に輝く……。それはもう、天国の花畑のような美しさだとか」
(※セバスチャンの即興の大嘘です)
ヒナタの瞳孔が開いた。
「に、虹色の砂漠……!」
「さらに!」
セバスチャンは畳み掛ける。
「そのオアシスでは、『冷たい砂漠イチゴのかき氷』が食べ放題だそうです」
(※もちろん嘘です)
ドクン。
ヒナタの心が揺れ動いた。
「目の前の芸術」か、「未だ見ぬ虹色の絶景&かき氷」か。
「でも……この風紋を踏むのは……」
まだ迷っている。あと一押しだ。
セバスチャンは、ニヤリと笑って切り札を切った。
「ご安心を。踏まなければ良いのです」
「え?」
「エイル殿の魔法で、全員の体重を軽くし……風のように砂の上を滑るのです!」
「そう! あの『サンドスキー(板)』を使って!」
「!!」
ヒナタが立ち上がった。その目に迷いはない。
「行きましょうセバスチャンさん!」
「虹色の芸術と、かき氷を目指して!」
「僕たちは風になるんです!」
「ブモォォォ!(かき氷ィィィッ!)」
【数分後】
ズザァァァァァッ!!
一行は、ラクダをゴズに引かせ、自分たちは板に乗って砂漠を滑走していた。
「ヒャッホォォォウ! 砂を傷つけずに移動できるぅぅぅ!」
「ふははは! この疾走感! 砂の呼吸が聞こえるぞ!」
猛スピードで移動を再開した勇者一行。
セバスチャンは、ラクダにしがみつきながら、心の中でガッツポーズをした。
(勝った……! 私の勝ちだ!)
(嘘がバレる前に、なんとか本当のかき氷屋を探さねばならんが……まあ、それは着いてから考えよう!)
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、複雑な顔をしていた。
『動いた……。動いたけど……』
『「七色の風紋」なんて、私の設定資料集にはないぞ……?』
『宰相……お前、適当なこと吹き込んだな?』
『もし着いて「そんなものはない」と分かった時……あの勇者がどうなるか……』
神様は震えた。
ヒナタの「ガッカリ」は、時として世界を巻き込む「創造的な八つ当たり(リフォーム)」へと繋がるからだ。
『……よし、作るか』
ドラマスは、泣く泣くコンソールを操作した。
【地形変更:次のエリアの砂を「虹色の鉱石」に置換】
【オブジェクト配置:かき氷屋の屋台】
『宰相の尻拭いをするのも、神の仕事か……くそっ……!』
こうして、セバスチャンの機転と、神様の隠蔽工作によって、勇者一行は再び砂漠を爆走し始めたのだった。
(第20話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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