■第19話:出発から30分。……あ、一番大事なものを買い忘れました!
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【場所:アル・バハラ港・街の外れの砂丘】
「ふぅ……。ようやく、街の喧騒から離れられましたな」
宰相セバスチャンは、ラクダの背中で額の汗を拭った。
出発からおよそ30分。
港町の巨大バザールは背後に遠ざかり、目の前には広大な砂漠が広がっている。
ここからが本番だ。過酷な旅の始まりだ。
「勇者殿。まずは次のオアシスを目指しますぞ。日没までに到着せねば……」
「……あっ!!」
突然、先頭を行くヒナタが素っ頓狂な声を上げた。
ラクダが急停止する。
「ど、どうしました!? 敵襲ですか!?」
セバスチャンが杖を構える。ヴァレリアも瞬時に剣の柄に手をかけた。
「魔物か? どこだ!」
ヒナタは、真っ青な顔でリュックの中をガサガサと探っていた。
その手は震えている。
「ない……ない……!」
「嘘でしょう……? あの店で買ったはずなのに……!」
「な、何がないのですか!?」
「水ですか? 地図ですか? まさか、王様から預かった通行手形を……!?」
ヒナタは、絶望に満ちた顔でバッと顔を上げた。
「『砂漠限定・サボテン・プリン』を買い忘れましたァァァッ!!」
「…………はい?」
「限定ですよ!? 1日50個限定の幻のスイーツですよ!?」
ヒナタが頭を抱える。
「あれを食べるために砂漠に来たと言っても過言ではないのに……! うっかり普通のプリンを買って満足してしまった……!」
「そ、そんなこと……」
セバスチャンが口を開いたその時。
「引き返しましょう!!」
ヒナタがラクダの手綱を強引に回した。
「はあぁぁぁ!? たかがプリンのために!?」
「『たかが』じゃありません! 旅のモチベーションに関わります!」
「ブモッ!(プリンは大事だぞ!)」
「ふむ。限定と聞くと、私も気になってきたな……」
「ちょ、皆さん!? 待ってください! 進むんですよーッ!!」
セバスチャンの叫びも虚しく、一行のラクダは「回れ右」をした。
砂漠に刻まれた足跡を、そのまま逆走していく。
【場所:天界・管理室】
『…………ん?』
神ドラマスは、モニターのGPS(勇者位置情報)を見て、目をこすった。
赤い光点が、順調に街から離れていたはずなのに。
『……戻って……る?』
ピコーン。ピコーン。
光点は、綺麗な直線を描いて、スタート地点(港町)へと戻っていく。
『バカな……。忘れ物か?』
『いや、仮にそうだとしても、そんな……30分で……』
『戻るなァァァッ!! そこはもうクリアしたエリアだろォォォッ!!』
ドラマスの願いも届かず、光点は再び「街の中」へと吸い込まれていった。
【場所:巨大バザール・入り口】
「おう! 兄弟! お帰り!」
さっきの衛兵が、満面の笑みで手を振った。
「ただいまです~! ちょっと野暮用で!」
ヒナタも笑顔で手を振り返す。
「勇者殿……。恥ずかしい……。私は恥ずかしいですぞ……」
セバスチャンはターバンを目深にかぶり、顔を隠していた。
盛大に見送られたのに、30分でノコノコ帰ってくるなんて。
「さあ! プリン屋へ急ぎましょう!」
ヒナタが走り出す。
しかし、その道中には「誘惑」が無数に存在した。
【トラップ1:大道芸】
「おや? あれは……『蛇使い』ですね!」
ヒナタが足を止める。
笛の音に合わせて、ツボからコブラが踊り出している。
「すごい! 僕もやってみたい!」
「勇者殿! プリンはどうしたのですか!」
「ちょっとだけ……」
10分後。
そこには、ヒナタの吹くリコーダー(異世界の笛)に合わせて、コブラだけでなく「周りのラクダ」や「ゴズ」まで踊り狂うカオスな光景があった。
「わあ、大成功! 才能あるかも!」
【トラップ2:怪しい露店】
「見てくださいヴァレリアさん。あのサングラス、かっこよくないですか?」
露店に並ぶ、星型の派手なサングラス。
「ふむ……。日差しが強いからな」
ヴァレリアが試着する。
「どうだヒナタ殿。似合うか?」
「最高です! ロックスターみたいです!」
「店主、これをくれ。……あと、エイルにも色違いを」
「また荷物が増えた……!」
セバスチャンが頭を抱える。
【トラップ3:香ばしい匂い】
「くんくん……。この匂いは……ケバブ?」
「さっき食べたでしょう!?」
「でも、ここの店はソースが違うみたいです。『激辛サソリソース』だって!」
「ブモッ!(食う!)」
「辛っ! でも美味っ!」
「水だ! 水を買ってくれー!」
【1時間後・プリン屋の前】
「……あ」
ようやく目的の店にたどり着いたヒナタたち。
しかし、店先には非情な看板が掲げられていた。
【本日の『サボテン・プリン』は完売しました】
「ガーン!!!!」
ヒナタが膝から崩れ落ちる。
「うそだ……。寄り道さえしなければ……蛇と踊っていなければ……!」
「だから言ったのです! さあ、諦めて出発を……」
セバスチャンが安堵のため息をつきかけた時。
「……店主さん」
ヒナタが、涙目で店主に詰め寄った。
「明日の入荷は何時ですか?」
「へ? ああ、朝の6時には焼き上がるが……」
ヒナタは、キリッとした顔で振り返った。
「セバスチャンさん。今日はこの街にもう一泊しましょう」
「はあぁぁぁッ!!??」
「限定プリンを食べずに砂漠へ行くなんて、冒険者失格です!」
「そうですとも。このままでは悔いが残る」
ヴァレリアも、星型サングラスをかけたまま真剣に頷く。
「宿屋だ! 宿をとれーッ!」
「ブモォォォ!(晩飯はカレーだ!)」
【場所:天界・管理室】
『嘘だろォォォォッ!!』
神ドラマスは、モニターを拳で殴りつけた。
『戻ってきて……遊んで……売り切れで……もう一泊!?』
『ふざけるな! 進めよ! 1歩でもいいから進んでくれよォォォッ!!』
『私の「砂漠編」のシナリオが……まだ1ページもめくれてないんだよォォォッ!!』
神様の絶叫と共に、勇者一行は再び、昨日泊まった宿屋へとチェックインした。
「あら、お帰りなさい勇者様!」
「えへへ、また来ちゃいました!」
まさかの「スタート地点で2連泊」。
この記録は、異世界の冒険者ギルドの歴史に、ある意味「伝説」として刻まれることになった。
(第19話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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