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■ 第209話:隠しボス(EX)のドッペルゲンガー。……えっ、勇者の日常業務(タスク)はブラックすぎませんか?

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


【場所:天界・管理室】

『あーっはっはっは! ドラマス君、ミイラ男の時に「これが最後だ」って言ってなかったかい? メデューサの時も「これが本当の隠しボスだ」って。君、ゲーム業界でよくある「最後最後詐欺」を地で行ってるねぇ!』


地球の神様が、新しく開けたコーラを飲みながらゲラゲラと笑っている。

激動の神・ドラマスは、気まずそうに視線を逸らしながらも、コンソールをバンバンと叩いた。


『う、うるさい! 超大作RPGには、クリア後に解放される「EXダンジョンの裏ボス」が存在するのが様式美というものだろうが!!』

『はいはい。で、今回はどんな物理無効モンスターを出すんだい?』

『物理ではない! 今回は「精神(メンタル)」をへし折るのだ!』


ドラマスは悪辣な笑みを浮かべ、モニターに映る真っ黒な影を指差した。


『これを見よ! 相手の姿と記憶を完全にコピーし、内部から組織を崩壊させる変幻自在の魔物……【ドッペルゲンガー】だ!!』

『へえ、偽者かい。それはまたクラシックな手だね』

『ヒナタの「おもてなし」が厄介なら、おもてなしをさせなければいい! 奴が森へキノコ狩りに行っている隙に、このドッペルゲンガーを「ヒナタの姿」でキャンプ地に潜入させる! そして、魔王や怪物どものお茶を蹴り飛ばし、暴言を吐き、信頼関係を粉々にぶち壊してやるのだ! 人間関係の崩壊こそが、最も恐ろしい絶望だからなァァァッ!!』


【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・昼前】

「フフフ……。チョロい任務だぜ。俺様が勇者の顔で、この仲良しごっこをぶっ壊してやる……」


本物のヒナタが森へ散策に出かけた直後。

キャンプ地の死角から、パーカー姿にニコニコとした笑顔を貼り付けた「偽ヒナタ(ドッペルゲンガー)」が、堂々と広場へ足を踏み入れた。


偽ヒナタは周囲を見渡した。

魔王、人造人間、死霊術師、首なし騎士、吸血鬼……。神話クラスの化け物たちが、のんびりと日向ぼっこをしている。


(よし、まずはあそこの魔王に暴言を吐いて、顔面に泥でも投げつけてやるか!)

偽ヒナタが悪巧みをしながら一歩を踏み出した、その瞬間だった。


「おお! ヒナタ君、戻ったのかい!」

「ブモォ! ヒナタ、待ってたぜ!」

「シュルル……!(ヒナタ、こっちに来て……!)」


悪事を働く隙など、一秒もなかった。

ヒナタの姿を見つけた途端、魔王軍と妖怪オールスターズが、尻尾を振る大型犬のごとき凄まじい勢いで一斉に群がってきたのである。


「えっ? ちょ、おま……」

「ヒナタ君! 悪いんだけど、僕の肩をいつもの絶妙な力加減で揉んでくれないか? 魔王としての執務で肩がガチガチなんだ。君のあの『骨の髄まで届く指圧』じゃないとほぐれなくてね!」

「ウオォ! ヒナタ、オレノ刺繍、チョット汚れちゃった……! 糸、1ミリ単位デ直シテホシイ……!」

「ヒナタ! 大鍋のカレーのスパイス配合なんだけど、この『月光クミン』と『太陽のカルダモン』のコンマ1グラムの比率、あんたの神の舌で味見しておくれよ!」


魔王がマッサージを要求し、3メートルの人造人間が細かい裁縫をねだり、魔女が致死量の毒草スパイスの味見を迫ってくる。

さらに、メデューサの頭の毒蛇たちが「保湿クリームを塗れ」と巻きつき、デュラハンが「抱っこ紐の肩紐の長さを調整してくれ」と生首を押し付けてくる。


「ま、待て! お前ら、一気に来るな! つーか何だその高度な要求は!!」


偽ヒナタはパニックになった。

暴言を吐くどころではない。彼ら怪物たちの要求(タスク)は、どれもこれも「本物のヒナタの異常なまでのホスピタリティと超絶技巧」を前提とした、桁外れにレベルの高いものばかりだったのだ。


「ヒナタ殿、どうしたのだ? 早く私のこの日傘のUVカット魔術のコーティングを直してくれ。日差しで灰になってしまうぞ」

「ヒナタ殿! 露天風呂の温度が0.5度下がっておる! 早く絶妙な薪の焚き加減を!」

「早く!」「ヒナタ!」「ヒナタ君!」


何十体もの災厄級モンスターたちから向けられる、一点の曇りもない「重すぎる期待と愛情」。

断れば殺されるのではないかというプレッシャーと、次から次へと降ってくる膨大で専門的な業務(お世話)の連続に、ドッペルゲンガーの精神は急速に削られていった。

数十分後。


「ハァ……ッ、ハァ……ッ……!!」


偽ヒナタは、薪割りの手伝いで腕をパンパンに腫らし、カレーの味見で舌を麻痺させ、毒蛇の保湿で指をヌルヌルにしながら、白目を剥いて地面に這いつくばっていた。


(な、なんだこのブラックな職場は……!! こいつら、魔王とか災厄の魔物とか言ってるくせに、生活のすべてをあの勇者に依存しきってやがる……!! あの勇者、毎日笑顔でこんなイカれた連中の世話を一人で回してたのか!? バケモノかよ!!)

ドッペルゲンガーが、過労とストレスで自身のアイデンティティ(変身)すら維持できなくなり、元の真っ黒なスライム状の影に戻りかけた、その時。


「あーっ! ごめんなさい、みんな! 帰りが遅くなっちゃいました!」


森の奥から、カゴいっぱいのキノコと野草を抱えた「本物のヒナタ」が、パタパタと走って帰ってきた。


「あれ? ヒナタ殿が二人いるぞ?」

「む? どういうことだ?」


魔王やヴァレリアたちが首を傾げる中、本物のヒナタは、地面でゲッソリと干からびている「自分そっくりの人物」を見つけて目を丸くした。


「わあ! もしかして、僕の分身さんですか!? 一人じゃ大変だろうからって、神様が助っ人(アシスタント)を送ってくれたんだ! ありがとうございます!!」


ヒナタは無邪気に喜んで、偽ヒナタの元へ駆け寄り、その手をギュッと握った。


「お兄さん、僕の留守中、みんなのお世話をしてくれてたんですね! すっごく助かりました! 疲れたでしょう、今すぐ特製のハチミツカモミールティーを淹れますからね!」


本物のヒナタから向けられた、一点の曇りもない純粋な労いと、極上のハーブティーの香り。

激務でボロボロになっていたドッペルゲンガーの心に、それは「圧倒的な救済」として染み渡った。


「う、ううっ……! うわああああああんっ!!」


偽ヒナタは、変身を解いて真っ黒な影の姿に戻ると、本物のヒナタの足元にすがりついて大号泣し始めた。


「ヒナタさん……! アンタ、毎日こんなヤバい連中の要求を笑顔でこなしてたのかよ……! あんたこそ真の怪物だよ……! 俺が悪かった、組織をぶっ壊すなんて無理だ、俺には荷が重すぎる……!」

「え? 組織? まあいいですよ、泣かないでくださいね」

「お願いします! 俺をあんたの弟子にしてください! 変身能力を活かして、これからは薪割りでも皿洗いでもなんでも手伝いますからァァァッ!!」


こうして、内部崩壊を狙って送り込まれた悪辣なドッペルゲンガーは、ヒナタの「毎日のタスクの異常なまでの重さ」に勝手に絶望し、一杯のハーブティーの優しさに触れて、農園の「住み込みアシスタント(雑用係)」として自主的に就職してしまったのであった。


【場所:天界・管理室】

『なんでドッペルゲンガーがエプロン着けて、ヒナタの横で皿洗いしてるんだァァァァッ!!』


激動神ドラマスは、もはやお約束となった号泣とともに床を転げ回った。


『ドロドロの愛憎劇はどうした!? 仲間割れはどうした!? なんで「勇者の日常業務がブラック企業並みに過酷だったせいで、偽者が過労で自主退職(降参)する」なんていうオチになるんだよォォォッ!!』


ソファでは、地球の神様が腹を抱え、笑いすぎてむせていた。


『ゲホッ、あーっはっはっは!! いやぁ、盲点だったねぇ! 災厄級のモンスターたちを満足させるヒナタ君の「おもてなしスキル」、実は常人(や魔物)じゃ絶対に真似できない超絶高難易度クエストだったってわけだ!』

『やめろォォォォッ!! これで本当に、裏ボスまで含めて私の手札(ネタ)がすべて底をついたわァァァァッ!!』


神の悪意すらも「人手不足の解消(アシスタント採用)」へと鮮やかに変換してしまった勇者ヒナタ。

せせらぎの川辺には、今日も美味しいご飯の匂いと、怪物たちの楽しそうな笑い声が響き渡っているのだった。

(第209話・完)


本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!


ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


皆様からの応援(トラフィック)が、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!


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