■ 第208話(真):隠し西洋妖怪メデューサ! ……えっ、石化の前に「爬虫類の脱皮ケア」ですか?
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【場所:天界・管理室】
『吸血鬼、人狼、首なし騎士、人造人間、魔女、ミイラ男……。西洋妖怪のレギュラー陣が全滅した時のために、私は超極悪な「隠し西洋妖怪」を用意していたのだ!!』
ソファでポテチをつまんでいた地球の神様が、面白そうに身を乗り出す。
『へぇ、隠しボスかい? どんなヤツなんだい?』
『これを見よ! 魔の迷宮の最深部に封印されし蛇髪の女怪……【メデューサ(ゴルゴン)】だ!!』
モニターに映し出されたのは、深くフードを被り、頭部に無数の「毒蛇」を生やした恐ろしい女怪の姿だった。
『奴の眼を見た者は、いかなる魔法耐性があろうと問答無用で「石化(即死)」する! ヒナタがどれだけ美味しい料理やケアを用意しようが、会話をするために目を合わせた瞬間にただの石像になるのだ! 今度こそ、あのふざけたリゾート村は「石像の並ぶ無機質な庭園」へと変わるわァァァッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・昼下がり】
その日、のんびりとしたキャンプ地の入り口に、シャーッ、シューッという不気味な「無数の這いずる音」が近づいてきた。
「……む。また妙な気配が来たな。今度はなんだ?」
木陰のハンモックで揺られていた騎士団長ヴァレリアが、怪訝な顔で身を起こす。
現れたのは、深いローブをすっぽりと被った長身の女性だった。そのフードの下からは、絶えずウネウネと蠢く無数の「毒蛇」が顔を覗かせ、威嚇の牙を剥いている。
「フフフ……。ここが噂の勇者のねぐらか……」
メデューサは、広場の中央で立ち止まった。
その背後では、薪割りをしていたゴズや、日傘を差していたアルカードたちが、ただならぬ殺気に手を止めている。
「さあ、愚かな者たちよ。我が眼を見て、永遠の芸術作品となるがいい……!!」
バッ!!
メデューサが勢いよくフードを脱ぎ捨て、恐怖の「石化の魔眼」を見せつけた。
――これを見た者は、一瞬にして石と化す。彼女はそう確信していた。
「あ、いらっしゃいませ~! わあ、すごく珍しいお友達をいっぱい連れてるんですね!」
ログハウスからパタパタと走り出てきた勇者ヒナタが、メデューサの目の前まで駆け寄ってきた。
(天界のドラマスが『見たな! これで勇者は石化だァァァッ!!』とガッツポーズをする)
しかし、ヒナタは石になるどころか、メデューサの「眼」には一切視線を合わせず、彼女の頭の上で蠢いている「無数の毒蛇たち」を、食い入るように見つめていた。
「え……? あ、あれ……?」
石化能力が発動せず、メデューサがポカンと口を開ける。
石化の魔眼は「相手とバッチリ目が合う」ことで発動する。しかしヒナタは、メデューサの顔ではなく、彼女の頭部に完全に視線を奪われていたため、発動条件を満たさなかったのだ。
「お姉さん、このヘビさんたち、みんなすっごくイライラして怒ってますよ! 見てください、ウロコが白っぽくカサカサになってて、古い皮がところどころ残っちゃってます! これ、『脱皮不全』ですよ!!」
「……だ、だっぴ、ふぜん……?」
毒蛇の魔物であるはずのメデューサが、思わず聞き返してしまう。
「爬虫類は湿度が足りないと、古い皮が綺麗に剥けなくて、体に張り付いたままになっちゃうんです! そのせいで痒くて痒くて、ストレスでこんなにシャーシャー威嚇して噛みつき合ってるんですよ!」
「あ、いや、こいつらが暴れているのは、私の中の破壊衝動が……」
「そんなわけないです! ほら、この子なんて目のところに古い皮が残ったままになってて、すごく可哀想です! ずっと痒かったねぇ、今すぐ綺麗にしてあげるからね!」
ヒナタは猛ダッシュでログハウスに戻ると、洗面器に「温かいお湯(ぬるま湯)」を張り、柔らかいタオルと、ミイラ男ラムセスにも使った「特製・超保湿ハーブオイル」を抱えて戻ってきた。
「はい、お姉さん! ちょっとそこに座って、頭を下げてください!」
「え、あ、ちょっと……! 私はお前たちを石に……!」
有無を言わさぬヒナタの勢いに押され、メデューサは切り株にペタンと座り込まされてしまった。
ヒナタは温かいお湯に浸して絞ったタオルを、メデューサの頭(つまりヘビたちの塊)の上へと、優しく、しかし大胆にファサッと被せた。
「シャアアァァッ!? ……シュ……シュルル……(あ、温かい……)」
常に乾燥した外気に晒されて痒みと戦っていたヘビたちが、温かく湿ったタオルの蒸気に包まれ、一瞬にして抗議の声を止めた。
「よしよし。そのまま数分温めて、古い皮をふやかしますからね~。ゴズさん、爬虫類には日光浴も大事なので、そこの日当たりのいい場所に石を置いて温めてもらえますか?」
「ブモォ!(おう、任せとけ! 特大の平らな石を置いてやるぜ!)」
数分後。
ヒナタがタオルを外すと、ヘビたちのカサカサだった古い皮が、水分を含んで柔らかく浮き上がっていた。
ヒナタはピンセットと綿棒を使い、ヘビたちの体に残った皮を、一枚一枚、ペリペリペリ……と丁寧に、そして極上の手つきで剥いていく。
「シュルルルル……♪(あぁぁ……そこ、そこ……痒かったのが剥ける……♪)」
ヘビたちは、威嚇の牙を完全に引っ込め、うっとりとした顔でヒナタの手に頭を擦り付け始めた。
最後に、保湿用のハーブオイルをウロコに優しく塗り込んであげると、ヘビたちは宝石のようにツヤツヤと輝き出し、「もう一歩も動きたくない……」とばかりに、メデューサの頭の上でだらんととろけて眠りについてしまった。
「ふう、これで全員綺麗に脱皮できましたよ! どうですか、お姉さん?」
「……あ、ああぁぁぁぁ……」
その時、誰よりもとろけた声を出したのは、頭のヘビたちと神経を共有しているメデューサ本人だった。
「こ、こんなに……こんなに頭が軽いのは、何百年ぶりだろうか……!」
メデューサはポロポロと涙を流し始めた。
実は彼女、頭のヘビたちが常に痒みとストレスで暴れ回っていたせいで、物心ついた時から「24時間・365日、頭皮を噛まれ続けるような強烈な偏頭痛」に悩まされ続けていたのだ。
それが今、ヘビたちが全員極上のリラックス状態で熟睡したことで、数百年ぶりの「完全なる無痛状態」が訪れたのである。
「ずっと頭が重くて痛かったんですよね。もう大丈夫ですよ」
「ありがとう……! 勇者よ……! 私は、自分の頭がこんなに静かで平和になる日が来るなんて、思ってもみなかった……!」
メデューサが涙ながらに見上げ、ヒナタとバッチリ「目」が合ってしまった。
(天界のドラマスが『今だ! 目が合ったぞ! 石化しろォォォッ!!』と叫ぶ)
しかし、ヒナタは石にならなかった。
「……あれ? 勇者よ、なぜ石にならないのだ?」
メデューサ自身が驚いて瞬きをする。
「あ、それならエイルさんに教えてもらったんですけど」
ヒナタはニコニコと笑いながら答えた。
「メデューサお姉さんの『石化の魔眼』って、頭のヘビたちの『敵意(魔力)』と連動して発動するシステムらしいんです。だから、ヘビたちがみんなスヤスヤ眠ってリラックスしてる間は、お姉さんの目を見ても絶対安全なんですよ!」
「なんと……! では私はもう、誰かを不本意に石にしてしまうことを恐れず、相手の目を見て会話ができるのか……!!」
メデューサは歓喜に打ち震え、ヒナタの手を両手でギュッと握りしめた。
「あ、でもヘビさんたちが起きちゃうと危ないから、普段はこれをつけててくださいね」
ヒナタが渡したのは、吸血鬼アルカードのために作ったものの予備である、黒くてスタイリッシュな「UVカットの特製サングラス」だった。
それをかけたメデューサは、まるで南国のビーチにいるセレブのような姿になり、すっかりご機嫌で農園の「石の彫刻担当」として、キャンプ地に定住することになったのだった。
【場所:天界・管理室】
『なんで隠しボスのメデューサが、サングラスかけてヘビたちの日光浴を楽しんでるんだァァァァッ!!』
激動神ドラマスは、もはやお決まりとなった号泣とともに床を転げ回った。
『石化の魔眼だぞ!! 最強の初見殺しだったはずだろうが!! なんで「目を合わせる前に頭のヘビの脱皮不全を治療する」なんていう、爬虫類ショップの店員みたいな神業で無力化されてんだよォォォッ!!』
隣では、地球の神様が腹を抱え、笑いすぎて息ができなくなっていた。
『ひぃっ……あーっはっはっは!! だから言っただろ、ヒナタ君の観察眼は常識の外側なんだって! 魔女の調合に続いて、今度は「エキゾチックアニマルの飼育ノウハウ」で隠しボスを撃破しちゃったよ!!』
『やめろォォォォッ!! これで本当に、本当に西洋妖怪のストックがゼロになったわァァァァッ!!』
こうして、ドラマスが「最後の切り札」として投入した恐怖の隠し西洋妖怪も、ヒナタの斜め上の優しさと「爬虫類ケア」によって、平和なスローライフの住人(サングラスの美人彫刻家)へと転職を果たしたのであった。
(第208話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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