■ 第207話:砂漠の呪い王(ミイラ男)。……えっ、最高級シルクの保湿パックですか?
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【場所:天界・管理室】
『くそっ……! 吸血鬼、人狼、デュラハン、人造人間、そして魔女までもが……! 西の大陸から呼び寄せた恐怖の軍団が、全員エプロンや農具を持たされて「優良なスローライフの住人」にされてしまっただとォォォッ!!』
激動の神・ドラマスは、もはや頭を抱える気力すらなく、モニターの前でへたり込んでいた。
その横で、地球の神様はすっかり空になったポテチの袋を丸めてゴミ箱にシュートし、楽しそうに笑っている。
『あーっはっはっは! いやぁ、ヒナタ君の「おもてなし力」、完全に魔界の許容量を超えちゃってるねぇ。これでキャンプ地は、美味しい野菜にお肉に特製カレーまで食べ放題の、異世界最高のリゾート村になっちゃったよ。さあドラマス君、西洋妖怪のラスト1体……まだ出すのかい?』
『だ、出すに決まっておるだろうが!!』
ドラマスは最後の力を振り絞り、這いつくばりながらコンソールのボタンを押した。
『私の最後の切り札は……灼熱の砂漠の地下深くより蘇りし古代の王、「ミイラ男」のラムセスだ!! 奴は己の周囲の水分という水分をすべて奪い去る「極度の乾燥の呪い」を纏っている! カレーの鍋も、せせらぎの小川も、あの忌々しい農園の緑も、奴が歩けば一瞬にして干上がり、死の砂漠へと変わる! 飲み物も食べ物も、喉を通る前にパサパサの砂になるのだァァァッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・食後の夜】
魔女モルガナが作った特製スパイスカレーでお腹を満たし、キャンプ地には極上のリラックスタイムが訪れていた。
「ウオォ……! カレー、オイシカッタ! モルガナ、テンサイ!」
「フン、あんたたちみたいによく食べる連中がいると、作り甲斐があるってもんだよ。さあ、食後のチャイ(スパイスミルクティー)を淹れたからお飲み!」
人造人間のアダムやミノタウロスのゴズが、モルガナの淹れた甘いチャイを美味しそうに飲んでいる。
一方、騎士団長ヴァレリアと賢者エイルは、タオルを片手にログハウスの裏手へと向かっていた。
「うむ、よく働き、よく食べた後は、やはり風呂に限るな」
「ええ。ヒナタ殿たちが造ってくれた『特製・露天風呂』のお湯加減、今日も完璧に沸いていますよ」
その時だった。
カサッ……、カサカサカサ……。
夜の闇の中から、乾ききった不気味な足音が近づいてきた。
周囲の草花が、その足音に合わせて見る見るうちに水分を失い、茶色く枯れ果てていく。
『ワレハ……古代ノ王、ラムセス……。生ケル者ヨ、コノ乾キノ苦シミヲ……共ニ……』
現れたのは、全身にボロボロに黄ばんだ包帯を幾重にも巻き付けた、干からびたミイラ男だった。
彼が指を向けると、モルガナの大鍋に残っていたカレーのルーが、一瞬にしてカピカピの干物へと変わってしまう。
「ひっ! な、なんだいあのカラカラの怪物は! 私のカレーの水分を一瞬で奪いやがった!」
「むっ、あれは砂漠の呪い王マミー! いかん、あの呪いに当てられれば、人間の体内の水分など一瞬で蒸発させられてしまうぞ!」
エイルが青ざめて杖を構え、ヴァレリアが剣を抜こうとした、その瞬間。
「ひゃあああああっ!! 大変ですヴァレリアさん、エイルさん!!」
ログハウスから飛び出してきた勇者ヒナタが、今日一番の悲鳴を上げた。
(天界のドラマスが、『やったか!? ついにヒナタが恐怖に怯えたぞ!!』と身を乗り出す)
しかし、ヒナタはミイラ男の姿を見るなり、涙目になってラムセスのすぐ目の前まで駆け寄った。
「お兄さん、全身にこんなにぐるぐるに包帯を巻いてるなんて、どれほど酷い大怪我をしたんですか!? しかも、何百年も包帯を替えてないからボロボロで、隙間から見えてるお肌がカッサカサの粉吹き状態じゃないですか!!」
『……ハ? オ、オ肌……?』
ラムセスの呪いの詠唱が、ポカンと止まる。
「そんな重度の乾燥肌のまま放っておいたら、ひび割れて痛痒くなっちゃいますよ! ヴァレリアさん、露天風呂のお湯は今ちょうどいい温度ですか!?」
「え? あ、ああ! 今日も私が『ぬるめの美肌湯』に完璧に調整してあるが……」
「エイルさんとモルガナさんは、大鍋でお湯を沸かして『超保湿ハーブローション』を作ってください! 僕は急いで新しい包帯を用意します!」
「え、あ、おい、待テ……」と戸惑う古代の王ラムセスは、人狼のガルムと人造人間のアダムに両脇を優しく「ヒョイッ」と抱えられ、あっという間に湯けむり立ち上る「特製・露天風呂」へと運ばれていった。
チャポーン……。
『ア、アァァァ……!? ナンダ、コノ優シイお湯ハ……!?』
何千年も砂漠の乾いた墓所で眠り続け、カラカラに干からびていたラムセスの身体に、ミネラルたっぷりの温かい温泉水がじんわりと染み込んでいく。
極度の「水分不足(呪い)」を抱えていた彼の身体は、スポンジのように温泉のお湯をぐんぐんと吸収し、干からびていた細胞がプルプルと蘇り始めた。
『オォォ……! 潤ウ……! 体中ノ乾キガ、満タサレテイクゾォォォ……!』
「はい、お風呂から上がったら、すぐにこれを塗ってくださいね! 湯上がり3分以内の保湿が命ですから!」
お風呂から上がったラムセスを待ち構えていたのは、モルガナとエイルが特製の配合で作った「アロエとハチミツと精霊水の超保湿ジェル」だった。
それを全身にたっぷりと塗りたくられ、仕上げにヒナタが取り出した「真っ白でふわふわの最高級シルク包帯」へと、丁寧に巻き直される。
『オ、オォォォォ……!! ス、スベスベダ……! 何千年モ乾キ切ッテイタ我が皮膚ガ、タマゴ肌ノヨウニ、モチモチニ潤ッテイルゾ……!! しかもコノ新シイ包帯の、ナント心地ヨイ肌触リ……!!』
ラムセスは、自分の腕に巻かれた純白のシルク包帯にうっとりと頬ずりし、感動のあまりその場にへたり込んでしまった。
慢性的な「極度の乾燥肌」というストレスから解放されたことで、彼が無意識に周囲の水分を奪い取っていた「乾燥の呪い」は、跡形もなく完全に浄化されてしまったのである。
『ふぉっふぉっふぉ。おぬしも古代の王か。どうじゃ、風呂上がりに冷たいフルーツ牛乳でも飲まんか?』
『おお、そちらの骨の御仁も同年代と見える! うむ、この甘い乳飲料、火照った身体に最高であるな!』
気がつけば、古代の王ラムセスは死霊術師リッチとすっかり意気投合し、腰に手を当ててフルーツ牛乳を飲み干したあと、露天風呂の縁で仲良く将棋を指し始めていた。
その横では、吸血鬼アルカードが風呂上がりのラムセスに「君も美肌には気を使っているようだな」と日傘の有用性について熱く語っている。
「……おい、ヴァレリア。また一人、このリゾート村の住人が増えたな」
「うむ。乾燥肌のミイラ男に、最高級シルクの保湿パックとは……ヒナタ殿のおもてなしスキルには、もはや恐ろしさすら感じるぞ」
【場所:天界・管理室】
『…………(プシュウウウウウ)』
激動の神・ドラマスは、頭から真っ白な燃え尽き煙を噴き出しながら、床に大の字になって完全にフリーズしていた。
吸血鬼は、赤いジュースを愛する日傘ソムリエに。
人狼は、ブラッシングでお腹を見せるもふもふ番犬に。
デュラハンは、抱っこ紐に生首を入れて働く石運び係に。
フランケンシュタインは、花の刺繍を愛でるお掃除大工に。
魔女と黒猫は、特製カレーを振る舞う給食のお姉さんに。
そしてミイラ男は、シルクの包帯でツヤツヤの美肌になった温泉仲間に。
『終わったね、ドラマス君。……西洋妖怪オールスターズ、これにて全員「せせらぎの川辺」へ完全移住完了だ』
地球の神様が、空になったポテチの袋を丸めてゴミ箱にポイッと投げ入れた。
『魔王軍に、日本の妖怪に、アンデッドに、西洋のモンスターまで……。ヒナタ君のキャンプ地、もはや世界の闇の勢力が全員集合して、毎日仲良く農作業と温泉とカレーパーティーをする「最強のスローライフ特区」になっちゃったよ。次はどうするんだい?』
ドラマスは、ピクピクと痙攣する指で胃薬の瓶を掴むと、蚊の鳴くような声で呟いた。
『……もう、知らん……! あんな奴ら、勝手に温泉にでも浸かっておれ……!』
こうして、神様が野心満々で投入した「西洋妖怪」の刺客たちも、誰一人として戦闘になることなく、ヒナタの「斜め上の心配とおもてなし」によって、一人残らず平和で健康的なリゾートライフの住人となったのであった。
(第207話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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