■ 第205話:暴走する人造人間。……えっ、ほつれた縫い目に可愛いお花の刺繍ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『おのれぇぇぇっ! 吸血鬼も、人狼も、果ては飲食すらできぬ首なし騎士までもが、あのキャンプ地の労働力として吸収されてしまったぞォォォッ!!』
天界のモニター室で、激動の神・ドラマスが髪の毛をかきむしりながら絶叫していた。
ソファでくつろぎながらポテチをつまんでいる地球の神様が、呆れたように肩をすくめる。
『だから言ったじゃないか、ヒナタ君は争い事皆無のピースフル市民だって。どんな怪物相手でも、戦う前に「お世話」しちゃうんだよ』
『ええい、黙れ黙れ!! ……だが、なぜ私の刺客どもが次々と懐柔されるのか、その根本的な原因がついに判明したぞ!』
ドラマスは血走った目でコンソールを叩き、次なる召喚ゲートを開いた。
『これまでの刺客はみな、「高い知性」や「言葉」を持っていた! だからこそ、ヒナタの甘い言葉や親切心にコロリと絆されてしまったのだ! ならば、最初から「理性」も「痛覚」も持たぬ、ただ破壊のプログラムだけで動く暴走兵器をぶつければよい!!』
『暴走兵器って……今度は何を呼んだんだい?』
『これを見よ! 狂気の錬金術師が死体を繋ぎ合わせて造り出した、西洋妖怪きっての怪力モンスター……「フランケンシュタインの怪物(人造人間)」のアダムだ!!』
モニターに映し出されたのは、身長3メートルに迫る巨躯を持ち、全身の皮膚が太い黒糸で無骨にツギハギされ、首の両脇に巨大な鉄のボルトが突き刺さった異形の巨人だった。
『奴に会話は通じん! 悩み相談もマッサージも無意味! 目に入るものすべてを物理的に粉砕するだけの殺戮マシーンだ! さあ行けアダム、あの平和ボケしたキャンプ地を今度こそ更地にしてこいィィィッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・昼下がり】
ポカポカとした陽気が降り注ぐ小川のほとりでは、今日も穏やかな時間が流れていた。
「ブモォ! ローランの旦那、その抱っこ紐、本当に便利そうだな!」
「うむ! 自分の頭を左手で支えなくてよいだけで、丸太が一度に二本も運べるぞ! ハッハッハ!」
ミノタウロスのゴズと、昨日仲間入りしたばかりの首なし騎士ローランが、胸元のスリングから生首をひょっこり覗かせながら、息を合わせて新しい薪棚を組み立てている。
木陰では国内最強の騎士「剣聖」ヴァレリアと、天才魔導師「賢者」エイルが、淹れたてのハーブティーを片手にのんびりと日向ぼっこを楽しんでいた。
しかし、その平和な空気を震わせるように――。
ズシン……! ズシン……! ズシン……!!
森の奥から、重苦しい地響きが近づいてきた。
バキバキッと大木をへし折りながら茂みを突き破って現れたのは、全身ツギハギだらけの巨漢、人造人間のアダムだった。
「ウオォォォォ……! コワス……! スベテ、コワス……!!」
虚ろな瞳をギョロつかせ、丸太のような両腕を振り上げて突進してくるアダム。
その尋常ではない威圧感に、ヴァレリアが瞬時に片目を開けて剣の柄に手をかけ、エイルが立ち上がって杖を構えた。
「むっ、あれは肉体連結系の人造怪物か! 完全に暴走しているな!」
「言葉が通じる相手ではなさそうです。団長、私が足止めしますから一気に……」
人類最強の二人が迎撃態勢に入った、まさにその瞬間。
「あーーっ!! ストップです!! そんなに乱暴に動いちゃダメですよーーっ!!」
洗い上がったばかりのシーツを抱えていたパーカー姿の勇者ヒナタが、ヴァレリアたちの前を横切り、暴走するアダムの目の前へとパタパタと駆け寄って立ち塞がった。
「ウ、ウガ……!?」
振り上げたアダムの巨大な拳が、ヒナタの鼻先数センチのところでピタリと止まる。
戦闘力2(スライム以下)の青年は、自分の倍以上ある巨漢を見上げながら、恐れるどころか両手を腰に当ててプンプンと頬を膨らませた。
「もう! なんでそんなに無理やり腕を振り回すんですか! 見てください、その右肩と背中の『縫い目』!!」
「……ヌイ、メ……?」
アダムがキョトンとして、自分の巨大な右肩に視線を落とす。
「せっかく繋ぎ合わせたところの糸がほつれて、皮膚が引っ張られて赤くなっちゃってるじゃないですか! しかも、誰ですかこんな雑な並縫いと玉止めをしたのは! 生地(お肌)の伸びる方向をぜんぜん考えてないから、動くたびに突っ張って痛かったでしょう!?」
ヒナタの言葉に、アダムの虚ろだった瞳が大きく見開かれた。
実はこの人造人間アダムが「ウオォォ! コワス!」と暴れ回っていた最大の理由は、凶暴な性格だからではなかった。
彼を造った錬金術師の裁縫スキルが絶望的に下手くそだったせいで、全身の縫い目が常にギュウギュウと引き攣れ、一歩歩くだけでも皮膚が裂けそうな不快感に襲われて、イライラして暴れていただけだったのである。
「そのまま暴れたら、せっかくくっついた腕がビリッて破けちゃいますよ! はい、お兄さん、ちょっとそこの切り株に座って、右腕を出してください!」
「ア……ウ、ウゥ……?」
今まで出会った人間からは悲鳴を上げられて石を投げられるばかりだったのに、目の前の青年は、まるで「服を破いて帰ってきたわんぱく坊主を叱るお母さん」のような真っ直ぐな目で心配してくれている。
その気迫と優しさに押され、3メートルの巨漢は、思わず切り株の前にペタンと小さく体育座りをして、素直に右腕を差し出してしまった。
「よしよし、素直でいい子ですね。今、ちゃんとお直ししてあげますからね~」
ヒナタはウエストポーチから「愛用の裁縫セット」を取り出すと、まず消毒用のハーブ水でアダムの縫い目を綺麗に拭いてあげた。
そして、ほつれて食い込んでいた不格好な黒糸をパチン、パチンとハサミで丁寧に解き、代わりに死霊術師リッチと砂漠のミイラ男から分けてもらった「伸縮性抜群の最高級シルク糸」を針に通した。
「皮膚が突っ張らないように、伸縮性のある『かがり縫い』にしておきますね。ほら、これなら腕を回しても全然引っ張られないでしょう?」
ヒナタが驚くほど器用で素早い手つきで縫い直していくと、アダムの顔から見る見るうちに険しさが消えていった。
「ア……アァ……! ホントダ……! 全然、ツッパらない……! ウデ、カルイ……!」
「よかったぁ! あ、そうだ。ただ縫い直すだけじゃ味気ないから、最後にちょっとしたオシャレもしておきますね」
ヒナタはカラフルな刺繍糸を取り出すと、縫い目の端っこの玉止めの部分に、チクチクと針を動かした。
出来上がったのは、黄色くてふわふわした「タンポポのお花」と、可愛らしい「ニコニコマーク」のワンポイント刺繍だった。
「はい、完成です! 見てください、すごく可愛いでしょう?」
「……カ、カワイイ……? オレノ、コノ不気味ナ腕ガ……?」
アダムは、自分のゴツゴツしたツギハギの腕に咲いた、小さな黄色いタンポポの刺繍をじっと見つめた。
そして、太い指先でその刺繍をそっと撫でると、大きな身体をプルプルと震わせ、ボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。
「ウ、ウゥ……! オレ、イツモ『化ケ物』『醜イ』ッテ言ワレテタ……。デモ、コノお花……すごく、カワイイ……! ウレシイ……!!」
「似合ってますよ! あ、それとね、首の横についてるその大きなネジ(ボルト)も、雨に濡れてちょっと錆びちゃってますね。だから魔力の電気がうまく回らなくて、頭がボーッとしてたんですよ」
ヒナタは小瓶からオリーブオイルを取り出してボルトの錆をキュキュッと綺麗に磨き上げると、後ろで見ていたエイルに向かって手を振った。
「エイルさーん! すみませんけど、このお兄さんのボルトに、ごく弱めの『雷魔法』をちょっとだけ流してもらえますか?」
「はあ? 私の高度な雷撃魔法を、そんな充電みたいな用途に使うのですか? ……まあ、出力を最小限に絞れば、心地よい微弱電流くらいにはなりますが」
エイルはやれやれと肩をすくめながら歩み寄ると、杖の先端をアダムの磨かれたボルトへとコツンと当てた。
パチパチパチッ……と、規則正しいリズムの微弱電流(低周波マッサージ)がアダムの首元から全身の神経回路へと流れていく。
「ア……アァァァァァッ……♪」
瞬間、アダムの巨体がビクンと跳ね、そのままトロけきった表情でポカポカの芝生の上へと大の字に倒れ込んだ。
錆びついて滞っていた魔力回路がスッキリと通電し、長年の引き攣れで凝り固まっていた全身の筋肉が、極上の電気マッサージによって一気に解きほぐされていったのである。
「フ、フゥゥゥ……! アタマ、スッキリシタ……! カラダ、ポカポカデ、気持チイイ……!」
「はい、湯上がりの冷たいハチミツレモン水ですよ~。電気を流した後は、水分補給しないとですね」
ヒナタが差し出した特大ジョッキのハチミツレモン水を、アダムはゴクゴクと美味しそうに飲み干し、生まれたての赤ん坊のように無邪気な笑顔を浮かべた。
「ブモォ! おい兄弟、お前すげぇ力持ちそうじゃねぇか! 俺様たちと一緒に、あっちの新しい丸太小屋の組み立てを手伝ってくれよ!」
「ウ、ウオォォ! ヤル! ヒナタガ縫ッテクレタ『お花ノ刺繍』、絶対ニ汚サナイヨウニ、大事ニシテ働クゾー!!」
アダムはヒナタから「刺繍カバー用の白いアームバンド」を着けてもらうと、大喜びで立ち上がり、大人五人がかりでも動かないような巨大な丸太を一人で軽々と4本も担ぎ上げて、ゴズやローランの後についていった。
「……おい、エイル。あの暴走していたはずの巨人が、腕のタンポポの刺繍を自慢しながら丸太を運んでいるぞ」
「ええ。しかも私の雷魔法をすっかり気に入ったようで、『仕事が終わったらまたビリビリをお願いします』と予約されてしまいましたよ……」
ヴァレリアとエイルは顔を見合わせ、平和すぎる光景にまたしても深くため息をつくのだった。
【場所:天界・管理室】
『なんでフランケンシュタインの怪物が、「お花の刺繍」に感動して大工仕事を始めてるんだァァァァッ!!』
激動神ドラマスが、モニターの前で床を転げ回りながら号泣した。
『痛覚も理性もない殺戮マシーンだったはずだろうが!! なんで「縫い目が雑で皮膚が突っ張ってるからイライラしてただけ」なんていう裁縫レベルの理由で解決しちゃうんだよォォォッ!! しかも賢者の雷魔法を「低周波治療器」みたいに使うなァァァッ!!』
隣では、地球の神様が笑いすぎてお腹を抱え、ソファから転げ落ちそうになっていた。
『あーっはっはっは! いやぁ、狂気の錬金術師もまさか自分の作品の「縫い目の雑さ」を勇者にダメ出しされるとは思わなかっただろうねぇ! ほら見てごらんよ、アダム君、休憩時間に小川で自分の腕の刺繍をうっとり眺めてるぞ?』
『やめろォォォォッ!! 3メートルのツギハギ巨人が、乙女みたいな顔でタンポポの刺繍を愛でるなァァァァッ!!』
ドラマスの絶叫も虚しく、せせらぎの川辺には、アダムの圧倒的な怪力によって、わずか半日で立派な「ゲスト用の大型ログハウス」が新築されてしまったのだった。
(第205話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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