■ 第204話:首なし騎士の憂鬱。……えっ、ずっと片手で頭を持ってたら肩が凝りませんか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『くそっ、吸血鬼と人狼まで餌付けされただと!? なぜ私の送り込む刺客は、どいつもこいつもあんな平和ボケしたキャンプ地に馴染んでしまうのだァァァッ!!』
激動の神・ドラマスは、モニターの前で頭を抱えて絶叫していた。
その横のソファでは、地球の神様が新しいポテチの袋を開けながら、ケラケラと笑っている。
『いやぁ、ブラッドオレンジジュースに骨付き肉かぁ。ヒナタ君のおもてなしスキル、ますます磨きがかかってるねぇ』
『笑うな!! ……だが、これでようやく奴の弱点が完全に割れたぞ!』
ドラマスは血走った目でコンソールを叩き、新たな召喚陣を起動させた。
『ヒナタがこれまで魔族や妖怪を手懐けてきた手口は、すべて「美味しいお茶と料理」による餌付けだ! つまり、最初から「飲食が不可能な肉体」を持つ怪物であれば、奴の懐柔スキルは100%無効化されるということだ!!』
『ん? 飲食が不可能な怪物って?』
『これを見よ! 西の呪われた古戦場から呼び寄せた、西洋妖怪の中核……「首なし騎士」のローランだ!!』
モニターに映し出されたのは、漆黒の重厚な鎧を纏い、自分の「青白い生首」を左脇にしっかりと抱え込んだ、見るからにおどろおどろしい騎士の姿だった。
『デュラハンは首と胴体が完全に分離しておる! 口から何かを飲もうとしても、胃袋へ繋がっておらんのだから、物理的に味わうことすらできん! さあ行けローラン! 食べ物で釣ることができない絶望を、あの散歩人間にたっぷりと思い知らせてやるのだァァァッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・夕暮れ】
ヒュウウウウ……と、どこからともなく冷たく湿った夜風が吹き抜けた。
川辺の畑の向こう側から、カチャリ、カチャリと重々しい金属音を響かせながら、首のない漆黒の騎士がゆっくりと歩いてくる。
「……む。また何か妙な気配が近づいてきたな」
木陰のベンチで湯上がりの髪を乾かしていた「剣聖」ヴァレリアが、片目を開けて呟いた。
隣で読書をしていた「賢者」エイルも、眼鏡の位置を直しながらそちらへ視線を向ける。
「あれは……高位のアンデッド系西洋妖怪、『デュラハン』ですね。手に持っている魔剣の瘴気からして、かなりの手練れですよ」
二人が一応の警戒を見せる中、首なし騎士ローランは焚き火のすぐ手前で立ち止まった。
そして、左脇に抱えられた生首がギョロリと目玉を動かし、低くおぞましい声で口を開いた。
「……フッ。ここが勇者のねぐらか。我が名は死を告げる首なし騎士、ローラン。先発のアルカードとガルムの連絡が途絶えたゆえ、私が直々に貴様らの首を狩りに……む?」
ローラン(の生首)の言葉が、途中でピタリと止まった。
なぜなら、焚き火のすぐ横の切り株で、その「先発隊」であるはずの吸血鬼アルカードがふわふわのブランケットにくるまって赤いジュースを優雅にすすっており、人狼のガルムに至っては、ミノタウロスのゴズと並んで「ワフッ!」「ブモッ!」と息を合わせて楽しそうに丸太の薪割りをしていたからである。
「あ、ローランじゃないか。君もドラマス様に言われて来たのかい?」
「ワフッ!(おーい、こっちのラム肉、もうすぐ焼けるぞー!)」
「き、貴様ら……! 闇の眷属としての誇りはどこへ捨てたァァァァッ!!」
ローランの生首が、信じられないものを見る目で絶叫した。
すると、その賑やかな声を聞きつけて、ログハウスの奥からパタパタと軽い足音が近づいてきた。
「はーい、いらっしゃいませ~! わあ、今夜もまた珍しいお客さんですね!」
エプロン姿の勇者ヒナタが、湯気の立つポットを乗せたトレイを持って、ニコニコと姿を現した。
ローランはハッと我に返り、右手の魔剣をヒナタへと突きつけた。
「控えろ、勇者ヒナタ! 貴様がどれほど巧妙な『美食』や『美酒』で我が同胞を堕落させたのかは知らん! だが、この私にその手は一切通用せんぞ!」
ローランは、左脇に抱えた自分の生首をグッと前に突き出した。
「見ろ! 私は首なし騎士デュラハン! 我が首は胴体と切り離されているため、いかなる飲み物も食べ物も喉を通らんのだ! 貴様の得意な『餌付け』は完全に無意味! さあ、観念してその首を……」
「ええっ!? ちょっと待ってください!!」
ヒナタはトレイを近くの切り株に置くなり、目を丸くしてローランのすぐ目の前まで駆け寄った。
「おじさん、頭が外れてるなんてすごい体質ですね! ……じゃなくて、その頭、ずっと左腕で抱えて歩いてきたんですか!?」
「……は?」
突然の質問に、ローランの生首がポカンと口を開ける。
「だって人間の頭って、ボーリングの玉くらい重たいんですよ!? それをずっと左脇に挟んで、落とさないように力を入れて歩いてきたなんて……ちょっと左肩、触らせてくださいね」
ヒナタは魔剣の切っ先などまるで気にせず、ローランの左肩の装甲の隙間にキュッと指先を差し込んだ。
「うわあぁ……! やっぱり! 左の肩甲骨から二の腕にかけて、石みたいにパンパンに張ってるじゃないですか! しかも、首の断面がむき出しのまま夜風に当たってるから、すっかり冷え切っちゃってますよ!」
ズガァァァン!!
ヒナタの純粋な心配の言葉が、ローランの脳天(生首)に雷撃のような衝撃を与えた。
(な、なぜわかった……!?)
ローランの瞳が激しく揺れる。
実はそれこそが、彼がデュラハンという怪物になって以来、数百年間誰にも打ち明けられずにいた「最大の悩み(職業病)」だったのだ。
「首を脇に抱えて立つ」というポーズは、見た目の威圧感こそ抜群だが、実際には「常に片手が自分の頭で塞がるため、靴紐ひとつ結べない」「落とさないように左腕に力を入れっぱなしなので、慢性的な五十肩と腱鞘炎に悩まされる」「歩くたびに視界が上下に揺れて軽く車酔いする」という、三重苦の肉体労働だったのである。
「誰にも言えなかったんですか? 大変でしたね、辛かったでしょう。さあさあ、剣なんかしまって、早くそこの椅子に座ってください!」
「い、いや、私は貴様を討ちに……」
「いいから座ってください! そのまま放っておいたら、左腕が上がらなくなっちゃいますよ!」
ヒナタは有無を言わさぬ笑顔でローランの胴体の手を引き、焚き火の近くの温かい切り株へと座らせた。
そして、ローランが左脇に抱えていた生首を「ちょっと失礼しますね~」と両手でそっと受け取ると、テーブルの上に用意した「極上羽毛のふかふかベルベットクッション」の上へと、丁重に安置してやった。
「……お、おおお……!?」
ローランの生首から、思わず感嘆の声が漏れた。
「あ、頭が……ふかふかの雲の上に包まれているようだ……! 自分で支えなくていいだけで、これほどまでに楽だとは……! しかも、視界がまったく揺れんぞ……!」
「自分の頭をずっと持ってるの、本当に重労働でしたよねぇ。さあ、次は胴体の方のケアをしますよ!」
ヒナタは、鍋でグツグツと煮出していた「血行促進ハーブの熱々蒸しタオル(温湿布)」を取り出すと、ローランの胴体の首元と、ガチガチに固まった左肩へと優しく当てがった。
そしてその上から、ゴズのマッサージで鍛えた絶妙な指圧で、凝り固まった肩の筋肉をグイッ、グイッと揉みほぐしていく。
「ぐ、ぐおおおおおっ……!? なんだこの温かさは……! 数百年間、自分の頭を支え続けて鉄板のように軋んでいた左肩のコリが、じんわりと溶けていくではないか……!!」
「だいぶ溜まってましたからね~。あ、リッチお爺ちゃん、すみませんけど、いつもの『いい香りのやつ』お願いできますか?」
『ふぉっふぉっふぉ、任せておけヒナタ殿。おぬしのように喉を通らん者には、これが一番じゃからのぅ』
すっかり農園の古株となった死霊術師リッチが、ローランの生首が置かれたクッションの横に、小さな香炉と、湯気を立てるハーブティーのカップを置いた。
「おじさんは飲み込めないって言ってましたから、今日は『飲むお茶』じゃなくて、蒸気と香りを楽しむ『特製ラベンダーとミントのアロマ・スチーム』にしてみました。深く息を吸ってみてください」
「……すぅぅぅ……、はぁぁぁ……ッ!!」
生首のローランが立ち上る湯気を吸い込んだ瞬間、爽やかで甘いハーブの香りが鼻腔から脳内へと直接広がり、長年張り詰めていた神経がふにゃりと解きほぐされていった。
「な、なんという癒やしだ……。口から飲めずとも、香りだけでこれほど心が満たされるとは……!」
「よかったぁ! あ、それと、これから移動する時に片手が塞がらないように、今ちょっとこれを作ってみたんです」
ヒナタがリュックから取り出したのは、丈夫な革と厚手の麻布を縫い合わせて作った「前抱っこ用の特製スリング(赤ちゃん用の抱っこ紐)」だった。
ヒナタはそれをローランの胴体の胸元にカチャリと装着すると、クッションの上の生首を、胸のポケットへとスポッと収めてやった。
「ほら、これなら頭がしっかり固定されて前を向けるし、何より『両手』が完全に自由になりますよ!」
「……ッ!! りょ、両手が……! 何百年ぶりかに、私の両手が同時に使えるぞォォォッ!!」
ローランの胴体が、歓喜に震えながら両方の拳をグーパー、グーパーと握りしめた。
胸元のスリングにすっぽりと収まったローランの生首は、ポロポロと大粒の涙をこぼしながら、ヒナタに向かって深々と(顎だけで)頭を下げた。
「勇者ヒナタ殿……! 私のこの不自由な身体を恐れず、それどころか数百年の苦痛をたった数分で理解し、両手の自由まで取り戻してくれたのは貴様が初めてだ……! この御恩、我が双剣の技をもって一生お返ししようぞ!!」
「えっ、戦わなくていいですからね? あ、でも両手が使えるようになったなら、ゴズさんたちと一緒に、向こうの畑の石運びを手伝ってもらえると嬉しいです~」
「うむ! 任せておけ! 両手が使える喜び、労働にて爆発させてくれるわ!!」
ローランは意気揚々と立ち上がると、胸元の抱っこ紐から生首をひょっこり覗かせたまま、両手で軽々と巨大な漬物石ほどの岩を持ち上げ、楽しそうに畑の開拓へと混ざっていった。
「……おい、エイル。あの首なし騎士、なんだか赤ん坊を抱っこして働く子煩悩な父親に見えてきたぞ」
「ええ。しかも自分の頭を自分で抱っこしていますからね……。まあ、本人があんなに幸せそうなら、良しとしましょうか」
【場所:天界・管理室】
『なんでデュラハンが「抱っこ紐」に自分の生首を入れて、ルンルン気分で畑の石運びをしてるんだァァァァッ!!』
激動神ドラマスの魂の絶叫が、天界のガラス窓をビリビリと震わせた。
『飲食ができないなら餌付けできないはずだろうが!! なんで「片手で頭を持ってると五十肩になるよね」ってマッサージと便利グッズで懐柔されてんだよォォォッ!!』
『あーっはっはっは! いやぁ、目の付け所が違ったねぇ、ドラマス君!』
地球神は涙を拭いながら、ポテチをもう一枚口に放り込んだ。
『ヒナタ君の真骨頂は「相手の立場になって、一番困っていることを解決してあげること」だからね。首なし騎士に抱っこ紐をプレゼントするなんて、世界中の誰も思いつかないよ。ほら、ローラン君、両手が空いたのが嬉しくて、ゴズ君とハイタッチしてるぞ?』
『やめろォォォォッ!! 死を告げる恐怖の騎士が、牛と笑顔で両手ハイタッチするなァァァァッ!!』
こうして、暗黒大陸から送り込まれた第2の刺客・首なし騎士ローランも、戦うことなく「両手が使える喜びを知った働き者の開拓スタッフ」として、せせらぎの川辺へと定住したのであった。
(第204話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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