■ 第203話:闇の貴族と月夜の獣。……えっ、貧血のお兄さんと大型犬ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『フハハハハハッ! まだだ、まだ私のネタ帳は尽きておらんぞ!!』
激動の神・ドラマスは、血走った目で地球の神様に向かって指を突きつけた。
『日本の妖怪がヒナタの茶菓子に籠絡されたのは、あいつらがどこか愛嬌のある連中だったからだ! だが今度は違うぞ! 西の暗黒大陸から、本場の「西洋妖怪」どもを呼び寄せた!』
ソファでポテチをつまんでいた地球の神様が、眉をひそめてモニターを覗き込む。
『西洋妖怪……? ああ、ドラキュラとか狼男とか、ああいうホラー映画の定番メンバーかい?』
『その通り! 誇り高く冷酷無比な「吸血鬼」の貴公子と、満月の夜にすべてを噛み砕く「人狼」のコンビだ! 奴らに人間の温かい食事など通じん! なぜなら吸血鬼は血しか飲まず、人狼は生肉しか喰らわんからだ! 今度こそ、あのふざけたキャンプ地を恐怖のドン底に叩き落としてやるわァァァッ!!』
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」・夜】
その夜、せせらぎの川辺には美しい満月が昇っていた。
ログハウスの前の焚き火を囲み、ヴァレリアやエイル、ゴズ、そして新しく加わったリッチたちが、食後のまったりとした時間を過ごしている。
そこへ、音もなく冷たい夜風が吹き抜けた。
焚き火の炎が揺らぎ、周囲の闇から二つの影が姿を現す。
「……フッ。ここが噂の勇者のねぐらか。ずいぶんと平和ボケした匂いが漂っているな」
月光を背に立っていたのは、黒地に真紅の裏地がついたマントを羽織り、シルクハットを被った青白い肌の美青年――吸血鬼の貴族、アルカードだった。
そしてその隣には、身長2メートルを超える銀色の毛並みを持った巨大な獣人――人狼のガルムが、鋭い牙を剥き出しにして低く唸っている。
「グルルルル……! 満月の夜だ……! 俺の血が騒ぐぜ、どいつもこいつも噛み千切ってやる……!」
元・国内最強の騎士ヴァレリアがピクリと片目を開け、エイルが眼鏡に手をやる。
しかし、彼らが腰を上げるよりも早く、ログハウスから「あ、いらっしゃいませ~!」と明るい声が響いた。
「わあ、夜にお客さんなんて珍しいですね。初めまして、日向です~」
パーカー姿の勇者ヒナタが、ランタンを片手にニコニコと歩み寄ってきた。
アルカードは冷酷な笑みを浮かべ、鋭い糸切り歯をキラリと光らせる。
「愚かな人間よ。我が名は闇の貴族、アルカード。貴様のその新鮮で温かい血を、一滴残らず……」
「ええっ!? ちょっと待ってください!」
ヒナタはアルカードの顔をランタンで照らすなり、心底心配そうな声を上げた。
「お兄さん、顔色が真っ白じゃないですか! 唇まで冷たそうですし……もしかして、ひどい貧血ですか!?」
「……は?」
アルカードの気障なポーズがピタリと止まる。
「そんな薄着で夜道を歩いてたら、ますます血の巡りが悪くなっちゃいますよ! さあさあ、焚き火の近くへどうぞ!」
ヒナタは呆然とする吸血鬼の手をグイグイと引き、一番温かい特等席の切り株へと座らせると、肩からふわふわの羊毛ブランケットをかけてやった。
「い、いや、私は誇り高き夜の眷属で、人間の施しなど……」
「遠慮しないでください! あ、そうだ。貧血で血が足りない人にぴったりの、特製ドリンクがあるんです!」
ヒナタは小川の冷水で冷やしてあったガラスのピッチャーを取り出し、グラスに真っ赤な液体をトクトクと注いだ。
「はい、どうぞ! 採れたての『完熟ブラッドオレンジとざくろの特製ジュース』です! 鉄分とビタミンがたっぷりで、見た目も真っ赤だから気分が出るでしょう?」
差し出されたグラスからは、柑橘系の爽やかで芳醇な香りがふわりと漂う。
アルカードは「私は血しか飲まんと言っているだろう……」と拒絶しようとしたが、遥か西の大陸から長旅をしてきて、喉はカラカラに乾いていた。
(……ええい、どうせただの果実水だ。一口飲んで、吐き捨ててやればいい)
アルカードは優雅な手つきでグラスを受け取り、一口だけ口に含んだ。
「…………ッ!!!」
瞬間、アルカードの赤い瞳が見開かれた。
濃厚でいて雑味のない、太陽の恵みが凝縮されたような甘みと酸味。ドロドロした生臭い血などとは比較にならないほど、気品にあふれた極上の味わいが喉を潤していく。
「な、なんだこの紅い雫は……!? まるで最高年代物のワインのような深みがありながら、渇いた魔力回路にスッと染み渡る……!」
「でしょう? リッチお爺ちゃんが土壌を改良してくれたおかげで、すごく甘く育ったんですよ」
『ふぉっふぉっふぉ。おぬし、なかなかわかる口じゃのぅ』
すっかりブランケットにくるまってジュースを堪能し始めた相棒を見て、人狼のガルムが「おいアルカード! 何やってんだテメェ!」と吠えた。
「俺はそんなジュースなんかじゃ騙されねぇぞ! 満月の夜の俺は、凶暴な獣なんだ! 誰にも止められ……」
「うわあぁぁっ! こっちには、すっごく大きくてモフモフのワンちゃんがいますよ!!」
ヒナタの目が、今日一番の輝きを見せた。
「グルッ……!? わ、ワンちゃんだと!? 俺は誇り高き狼男だ! 犬と一緒にすんじゃ……あ、おい、どこ触って……」
ヒナタは恐れもせずにガルムの懐へ飛び込むと、その銀色の分厚い毛並みに顔をうずめ、慣れた手つきで耳の後ろと顎の下を「わしゃわしゃわしゃ〜」と撫で回し始めた。
「すごい毛並みですねぇ! でも、森を走ってきたから葉っぱがいっぱいついてますよ。ちょっと待っててくださいね」
ヒナタがリュックから取り出したのは、ゴズの毛並みを整えるために愛用している「特製・獣毛用ウッドブラシ」だった。
シャッ、シャッ、と絶妙な力加減で、絡まった背中の毛が梳かされていく。
「ぐ、ぐぬぬ……! や、やめろ……! そこは、俺が一番自分で届かなくて痒かったところだ……!」
「はい、気持ちいいですよね~。あ、しっぽの方もブラッシングしますね」
「アオォォォンッ……♪」
ガルムの凶暴な眼光が、みるみるうちにトロンと蕩け、後ろ足が勝手にペタンと地面に座り込んでしまう。
さらにヒナタは、焚き火の網の上でジュウジュウと焼けていた「特大・骨付きラム肉のハーブ焼き」をトングで掴み、ガルムの鼻先へと差し出した。
「はい、お利口さんにしてたご褒美です! 骨までガッツリいっちゃってください!」
「……ワフッ!!」
ガルムはよだれを垂らして骨付き肉に食らいつき、しっぽをプロペラのようにブンブンと振り回しながら、夢中で肉を頬張り始めた。
「おい、ヴァレリア。……どうやら新しい『番犬』と『ソムリエ』が増えたようだな」
「うむ。あのもふもふの毛並み、冬場の湯たんぽ代わりに最高かもしれんな」
ヴァレリアとエイルが呆れつつも温かい目で見守る中、アルカードは二杯目のブラッドオレンジジュースをおかわりし、ガルムはヒナタに「お手」と「おかわり」を完璧に披露していた。
【場所:天界・管理室】
『なんで人狼が「お手」をしてるんだァァァァッ!!』
激動神ドラマスの絶叫が、天界の天井をビリビリと震わせた。
『満月の夜の恐怖の象徴だぞ!? なんで骨付き肉一本で、お腹を見せてゴロゴロ転がってるんだよォォォッ!!』
『しかも吸血鬼!! お前、なんで「日向ぼっこしたいけど日光に弱いんです」って相談して、ヒナタに「UVカットの特製パラソル」を作ってもらって喜んでるんだァァァッ!!』
床をバンバンと叩いて号泣するドラマスの横で、地球の神様はポテチの袋を抱えてひっくり返って笑っていた。
『あーっはっはっは! いやぁ、西洋妖怪もヒナタ君にかかれば、ただの「夜行性のちょっとデリケートなお客さん」と「人懐っこい大型犬」だねぇ!』
こうして、暗黒大陸から送り込まれた恐るべき西洋妖怪の刺客たちは、到着からわずか15分で「農園の夜間警備係(番犬)」と「赤い果実のジュース絞り係」として、平和なスローライフへと組み込まれたのであった。
(第203話・完)
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