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202/221

■ 第202話:新入りのお爺ちゃんと、常連の魔王様

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


【場所:王都郊外・「せせらぎの川辺」の開拓農園】

アンデッド騒動がすっかり落ち着き、穏やかな日差しが降り注ぐ昼下がり。

新しく農園の「土壌改良&氷作り担当」として仲間入りした死霊術師リッチは、エプロン姿のヒナタと一緒にお茶の準備を手伝っていた。


『ふぉっふぉっふぉ。ヒナタ殿、今日のハーブティーも実に良い香りじゃのぅ』

「ありがとうございます、リッチお爺ちゃん。あ、今日はちょっと多めに淹れておかないといけないんです。そろそろ『常連さんたち』が遊びに来る時間ですから」

『ほう、常連とな? 王都の貴族かなにかかの?』


リッチが首を傾げた、その時だった。

川辺の茂みの奥から、のっそりとした足音とともに、凄まじい魔力の塊が近づいてきた。


「やあ、ヒナタ君! 今日もいい天気だねぇ。差し入れに魔界のリンゴを持ってきたよ!」


現れたのは、漆黒のマントを羽織り、威엄ある二本の角を生やした人物――この世界の闇を統べるはずの最高権力者、『魔王』その人であった。

しかもその肩には、以前の騒動ですっかりヒナタに懐いた日本の小妖怪たちがちょこんと乗っており、後ろからは牛魔族のゴズが「ブモォ!(魔王様、今日もいい薪が割れてるぜ!)」と親しげに手を振っている。


『……ッ!? ま、ま、ま、魔王様ァァァァッ!?』


リッチの骨の目玉が、眼窩からポンッと飛び出しそうになった。

後ろで畑を耕していた三体のデスナイトたちも、ガシャン!とクワを取り落とし、慌てて地面に平伏する。


『な、なぜ魔王様がこのような人間のキャンプ地に!? しかも、あの異界の妖怪どもまで一緒におるではないか!!』


パニックになり、カタカタと全身の骨を鳴らして震えるリッチ。

しかし、当の魔王は「ん?」とリッチを見て、気さくに手を挙げた。


「ああ、君が噂の『王都地下の死霊術師』くんか! いやぁ、連絡が来なくなったと思ったら、やっぱり君もヒナタ君のところに落ち着いていたんだね」

『や、やっぱりとは……!? 魔王様、なぜここで人類討伐の軍議ではなく、リンゴなどを配っておられるのですか!?』


リッチの悲痛な叫びに、木陰で昼寝をしていた騎士団長ヴァレリアと賢者エイルが、クスクスと笑いながら起き上がった。


「おいおい新入り。大声を出すな、せっかくの昼寝が台無しだぞ」

「リッチ殿、驚くのも無理はありませんが……魔王殿はもう何ヶ月も前から、ここの『週3回のティータイム常連客』ですよ」

「わあ、魔王さん、いらっしゃいませ~! 妖怪の皆さんもこんにちは!」


ヒナタはニコニコと駆け寄り、魔王からリンゴの入ったカゴを受け取った。


「ちょうど今、リッチお爺ちゃんが作ってくれた氷で『冷やし飴』を作ってたんです。妖怪の皆さんも、甘いもの好きですよね? 魔王さんには、焼きたてのアップルパイをすぐ用意しますね!」

「おお、アップルパイか! ヒナタ君の焼くパイはサクサクで絶品だからな、今日もそれが楽しみで政務を片付けてきたんだよ」


魔王は上機嫌でマントを脱ぐと、宰相セバスチャンの隣の切り株に腰を下ろし、「やあ宰相殿、最近の腰の調子はどうだい?」「おかげさまで、ヒナタ殿が作った露天風呂のおかげで快調ですぞ」などと、平和すぎる世間話を始めた。


『…………』


死霊術師リッチは、立ち尽くしたまま遠い目をした。

自分が「王都を滅ぼして魔王様に褒めてもらおう!」と地下で必死にアンデッドを動かしていた頃、当の魔王本人は、地上で勇者と一緒にアップルパイを食べて露天風呂に入っていたのである。


『……我輩が地下で頑張っていた日々は、一体なんじゃったのかのぅ……』

「まあまあ、リッチお爺ちゃんも座ってください。これから魔王さんたちと、トランプ大会するんですよ~」

「そうそう、遠慮するなよリッチ君。ヒナタ君のお茶を飲んだら、世界征服なんて面倒くさいこと、どうでもよくなるからさ!」


魔王にポンと肩を叩かれ、リッチは「……はぁ、左様でございますか……」と力の抜けた返事をしながら、小さく正座した。


こうして、「人間界の重鎮」「魔王と魔族」「日本の妖怪」「西洋のアンデッド」という、あらゆるジャンルのごちゃ混ぜメンバーが切り株を囲み、ポカポカ陽気の中でトランプに興じるという、究極の日常が幕を開けたのだった。


【場所:天界・管理室】

『……ない』


激動神ドラマスは、部屋の真ん中で空っぽのダンボール箱をひっくり返し、虚無の目で呟いていた。


『もう、何もないぞ……!』


魔王軍をぶつけた。→ 魔王ごと餌付けされて常連客になった。

日本の妖怪をぶつけた。→ お茶菓子で手懐けられてやり過ごされた。

地下のアンデッド軍団をぶつけた。→ 農家のお爺ちゃんになって畑を耕している。


『ファンタジーの王道も、和風ホラーも、ダークファンタジーも全部使った!! なのに一ミリもシリアスにならん!! 私の用意した200話分の設定資料(ネタ帳)が、今日をもって完全に白紙(カラ)になったぞォォォォッ!!』


床に突っ伏してしくしくと泣き始めるドラマス。

その横で、地球の神様はソファに寝転がり、特大袋のポテチをポリポリと食べていた。


『あーあ、ついにネタ切れかぁ。お疲れ様、ドラマス君』

『うるさい……! 笑うなら笑え……! もはや私の世界には、ヒナタにぶつける「脅威」など一つも残っておらんわ……!』

『んー? そうかなぁ。別に「敵」をぶつけるから空回りするんじゃない?』


地球神は、モニターの中で楽しそうに「ババ抜き」をしているヒナタと魔王たちを指差した。


『見てごらんよ。魔王も妖怪もアンデッドも、みんなヒナタ君のところに集まっちゃったせいで、今この世界の「悪役」が全員休業しちゃってるんだよ?』

『……む?』

『つまり、今のヒナタ君のキャンプ地は、世界最強の戦力が密集する「最大勢力」になっちゃってるわけだ。……これ、他の国の王様や、君の同僚の「他の神様」が見たら、どう思うかな?』


ドラマスがハッと顔を上げた。


『そ、そうか……! あそこに行けば、魔王も大妖怪もアンデッドも一網打尽……いや、「勇者がすべての闇の勢力を従えて、新しい帝国を築こうとしている」と大誤解されるではないか!!』

『そうそう。それに、ヒナタ君自身はまだ「王都の近所」と「港町」くらいしか散歩してないからね。あの大所帯を引き連れて「ちょっとあっちの雪山へ、天然のかき氷シロップ(樹液)を採りに行きましょうか~」って動き出したら……行く先々の街や国が、勝手にパニックになって大騒ぎになるよ』


地球神はニヤリと笑った。


『敵がいなくなったなら、今度は「魔王やアンデッドを連れたご一行様の、のんびり世界一周ピクニック」の始まりさ。……ほら、ヒナタ君が次の「お散歩コース」を地図で指差してるぞ?』


モニターの中では、ヒナタが広げた世界地図の上に、美味しい特産品のマークをいくつも書き込んでいた。


「皆さん! ここの『竜の渓谷』っていう場所、すごく大きな温泉が湧いてるみたいですよ! 来週はみんなで、温泉旅行に行きませんか~?」

「ブモォォォ!(行くぜぇぇぇ!)」

「おお、温泉旅行か! いいねぇ、魔界のバスロマンを持っていこう!」

『ふぉっふぉっふぉ! 骨の髄まで温まりそうじゃのぅ!』

『やめろォォォォッ!! 魔王と死霊術師と剣聖と賢者が団体で『竜の渓谷』に入ったら、現地のドラゴンどもが「世界最終戦争が始まった」と思って心臓麻痺を起こすわァァァァッ!!』


刺客(ネタ)が尽きた結果、今度は「膨れ上がったヒナタ一行そのものが、行く先々で周囲を勝手に震撼させてしまう」という新たな地獄に気づき、ドラマスは再び頭を抱えて絶叫するのだった。

(第202話・完)


本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!


ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


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