■ 第201話:お片付けの後は、みんなで畑仕事です
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:王都地下最深部・死霊術師の部屋】
「ふぅ……。温かいミルクが骨に染み渡るのぅ……」
ピクニックシートの上で、死霊術師リッチは幸せそうにため息をついた。
隣では、漆黒の重装甲を脱いでくつろいだ三体のデスナイトたちが、ゴズと肩を組んで市場土産の揚げパンを分け合っている。
「ブモォ! お前ら、見た目は怖いがいい奴らじゃねぇか! 今度一緒に薪割りしようぜ!」
『カタカタカタ……(うむ、我らの膂力なら一山すぐに終わるであろう)』
すっかり打ち解けた魔族とアンデッドたちを見て、騎士団長ヴァレリアと賢者エイルは、もう何度目かわからない「諦めの境地」でお茶をすすっていた。
「……やれやれ。王都を揺るがした大事件も、終わってみればただの茶話会か」
「ですが団長、戦わずに済んだのは何よりですよ。……私の魔力も、昨日の畑仕事でまだ筋肉痛とともに枯渇していますからね」
平和そのものの空気。
しかし、そこでヒナタが「あ、そうだ」と手を叩いた。
「リッチお爺ちゃん。仲良くなったところ申し訳ないんですが、ひとつだけお願いがあるんです」
ヒナタはニコニコと微笑みながら、部屋の入り口――まだ大量のアンデッドや残骸が散らかっている地下通路の方を指差した。
「散らかしたものは、ちゃんと自分でお片付けしないとダメですよ?」
『……むっ』
リッチが気まずそうに視線を逸らす。
「それと、この下の穴からドワーフさんの工房にゴミが落ちちゃって、向こうの王様がすごく怒ってたんです。ちゃんと『ごめんなさい』しに行きましょうね」
ヒナタの言葉には、一切の威圧感はない。
ただ、小さい子供に「遊んだおもちゃは箱にしまいましょうね」と諭すような、真っ直ぐで純粋な響きだけがあった。
『……う、うむ。そうだな。我輩としたことが、ご近所に迷惑をかけてしまったわい』
リッチは素直に反省して立ち上がると、骨の杖を掲げた。
『者ども、聞いたか! これより地下通路の「大掃除」を開始する! 動けなくなった者たちを回収し、スライムどもの邪魔にならんよう綺麗に整列させるのだ!』
『『『オオオォォォッ!!』』』
デスナイトたちがキビキビと動き出し、通路に積み上がっていたアンデッドたちを手際よく回収していく。リッチの魔力で足の骨を直されたゾンビたちは、今度は「お掃除係」として、散らばった瓦礫やゴミをせっせと片付け始めた。
【場所:王都地下・ドワーフ族の巨大工房】
「で、では……このたびは、我が配下をそちらの炉に落としてしまい、誠に申し訳なかった……」
頭を下げる死霊術師リッチと、その横で一緒にペコリとお辞儀をするヒナタ。
目の前には、カンカンに怒っていたはずのドワーフ王と職人たちが並んでいたのだが――彼らの手には、ヒナタが差し入れた「焼きマシュマロ」と「フレッシュミントのハーブティー」が握られていた。
「……いや、まあ、なんだ。わざわざ謝りに来てくれたんなら、ワシらも鬼じゃねぇ」
ドワーフ王は、口元にマシュマロの白い粉をつけたまま、照れくさそうに髭を撫でた。
「この甘い菓子も絶品じゃし、ミントの茶で炉の熱気による疲れも吹き飛んだわい。……して、その骨のじいさんは『土魔法』の達人なんじゃろ?」
『うむ。大地を操ることに関しては、誰にも引けを取らんが』
「なら、お詫びと言っちゃなんだが、ワシらの新しい坑道の天井をちょいと補強してくれんか? 岩盤が脆くて難儀しとったんじゃ」
すると、ヒナタがパァッと顔を輝かせた。
「わあ、すごい! リッチお爺ちゃんの魔法、そんな風に人の役に立つんですね! かっこいいなぁ!」
『ふ、ふぉっふぉっふぉ! そうか? ならば我輩の腕前、とくと見せてやろうかの!』
ヒナタに褒められてすっかり気を良くしたリッチは、自慢の土魔法を惜しげもなく発動した。
ゴゴゴゴ……と音を立てて脆い岩盤がみるみるうちに強固なアーチ状の天井へと生まれ変わり、さらにはドワーフたちが掘りたがっていた新しい鉱脈への綺麗な階段まで一瞬で開通させてしまった。
「おおおっ!! なんという見事な施工じゃ!!」
「すげぇぞ骨の旦那! あんた、最高の土木職人だ!!」
ドワーフたちから歓声が上がり、リッチは(骨の顔だが)真っ赤になって照れ笑いをする。
被害の押し付けから始まったご近所トラブルは、ヒナタのお茶菓子と褒め言葉によって、あっという間に「ドワーフ族と死霊術師の固い技術提携」へと変わってしまったのだった。
【場所:王都郊外・「せせらぎの川辺」の開拓農園】
そして、数日後。
王都には、かつてないほど穏やかで、少しだけ奇妙な「日常」が戻っていた。
「よいしょ、よいしょ……。リッチお爺ちゃん、そっちの畝もお願いしまーす」
『うむ、任せておけヒナタ殿!【グランド・クリエイト(ふかふか土壌生成)】!!』
王都から徒歩2日ちょっとの小川のほとり。
ヒナタたちが最初にキャンプを張っていたあの場所は今、リッチの土魔法によって「極上の黒土が広がる巨大菜園」へと進化していた。
畑では、麦わら帽子を被ったアンデッドたちが、疲れを知らない身体を活かして、楽しそうに水やりや雑草抜きにいそしんでいる。
力持ちのゴズと三体のデスナイトたちは、森から運んできた丸太を軽々と組み上げ、新しいログハウスの増築工事を行っていた。
「……見事なものだな」
切り株に座り、特製の野菜ポトフを味わいながら、宰相セバスチャンがしみじみと呟いた。
「最初こそ、地上に出てきたアンデッドを見て衛兵たちが卒倒しかけたが……『勇者様がテイムした新しい農作業係です』と説明したら、街の連中も『さすがは底知れない勇者様だ!』と勝手に納得してしまったぞ」
「実際、彼らは優秀ですからね」
エイルが眼鏡を押し上げ、ハーブティーを一口飲む。
「夜通し働いても文句ひとつ言わず、王都の崩れた城壁や道路まであっという間に直してしまいました。今では街の連中から『働き者の骨さん』と呼ばれて、すっかりご近所付き合いが始まっています」
「うむ。おかげで我々の昼寝の時間もさらに増えたというわけだ」
ヴァレリアが木陰で気持ちよさそうに伸びをする。
そこへ、泥のついた手を洗い終えたヒナタとリッチがやってきた。
「皆さん、お待たせしました~。採れたてのトマト、冷えましたよ!」
『いやぁ、日の光を浴びながら土をいじるというのは、地下に引きこもっておるより何百倍も気分が良いのぅ!』
死霊術師の顔からは、かつての禍々しい瘴気は完全に消え失せ、ただの「野菜作りにハマった人の良いお爺ちゃん」のオーラが漂っていた。
「あ、見てくださいヴァレリアさん。トマトの葉っぱに、きれいなテントウムシが止まってますよ」
「ほう、本当だな。……よし、今日はテントウムシの観察をしながら、のんびりお茶にするか」
「賛成です~。あ、デザートに果物のタルトも焼いてあるんですよ」
風が優しく吹き抜け、小川のせせらぎと、みんなが笑い合う声が響く。
世界の危機は去り、仲間(と畑の面積)だけが大幅に増えて、勇者一行の「終わらないピクニック」は、またしても一歩も前に進まないまま、最高に幸せな日常へと戻っていった。
【場所:天界・管理室】
『なんでだよォォォォッ!!』
激動神ドラマスの魂の絶叫が、今日も神界に木霊していた。
『なんで王都を滅ぼすはずの死霊術師が、麦わら帽子を被ってトマトの品評会をしてるんだァァァッ!!』
『デスナイトが街の子供たちに「肩車」して遊んでやってるんじゃないよ!! 私のシリアスなダークファンタジーを返せぇぇぇッ!!』
床を転げ回るドラマスの横で、地球の神様は新しいポテチの袋を開けながら、お腹を抱えて笑っていた。
『あーっはっはっは! いやぁ、見事な「戦後復興」じゃないか!』
『ドワーフとも仲良くなったし、王都のインフラはリッチ君のおかげでピッカピカだし、食料自給率まで上がっちゃったよ。ほら、ヒナタ君が君に向かってトマトを掲げてるぞ?』
モニターの中では、ヒナタが満面の笑みで空を見上げ、真っ赤に熟れたトマトを振っていた。
「神様~! 見てますか~! 新しいお友達が増えたおかげで、毎日お野菜がいっぱい採れて最高ですよ~!」
『…………』
ドラマスは、そっとモニターの電源を切り、胃薬の瓶をラッパ飲みした。
勇者一行が次の目的地へ出発する日は、どうやらまだ何ヶ月も先になりそうであった。
(第201話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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