■第200話:地下最深部のティータイム。……えっ、死霊術師には「ホットミルク」ですか?
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
『フハハハハッ!! 勇者一行め、ついに王都地下の最深部まで辿り着いたようだな!』
激動神ドラマスは、モニターを見下ろしながら狂気的な笑い声を上げた。
『スライムによる処理だの何だのと小賢しいことをしてくれたが、ボスの部屋には最強の死霊術師リッチと、近衛たる三体のデスナイトが万全の態勢で待ち構えているぞ! さあ、絶望の最終決戦の始まりだ!!』
その横の別ウィンドウでは、地球神がポテチを齧りながらダルそうにモニターを眺めていた。
『あーあ。ドラマス君、まだ学習してないの? ヒナタ君に「決戦」なんて概念、通じるわけないじゃん』
【場所:人間界・王都地下最深部(死霊術師リッチの部屋)】
『来たな、忌々しい勇者一行め!!』
広大な地下室の最奥。祭壇の前に立つ死霊術師リッチが、憎悪に満ちた声を響かせた。
その両脇には、漆黒の重装甲に身を包み、身の丈を越える大剣を構えた三体のデスナイトが、殺気を放って立ち塞がっている。
扉を蹴破って入ってきたのは、騎士団長ヴァレリア、魔導師エイル、そして荷物持ちの牛魔族ゴズだ。
「……もの凄い殺気だな。さすがは親玉だ」
ヴァレリアが剣の柄に手をかけ、エイルが杖を構える。
『クハハハハ! 貴様らがどれほど小細工を弄そうと、我がデスナイトの刃はすべてを断ち斬る! さあ、勇者はどこだ! 私の前に引きずり出せ!!』
リッチが骨の杖を振り上げた、その時。
前衛の三人の後ろから、リュックを背負ったパーカー姿の青年が、のんびりとした足取りでひょっこりと顔を出した。
「わぁ~、広いお部屋ですねぇ。地下なのにカビ臭くないし、涼しくて快適です~」
緊張感ゼロ。殺気ゼロ。戦闘力2(スライム以下)。
ヒナタは、おどろおどろしい祭壇や、殺気立つデスナイトたちを見ても、全く動じることなくキョロキョロと部屋を見渡した。
『き、貴様が勇者ヒナタか……! 舐めおって、その首を刎ねて……』
「あ、初めまして。日向です~」
ヒナタはニコニコと歩み寄り、デスナイトたちが大剣を振り下ろそうとするのも全く意に介さず、ピクニックシートを部屋のど真ん中に広げ始めた。
『……は?』
リッチの骨の顎が外れそうになる。
「ずっとこんな薄暗い地下で立ちっぱなしなんて、お疲れ様です。足腰冷えますよねぇ」
ヒナタはリュックから、魔法瓶と可愛いマグカップを取り出した。
「お爺ちゃん、骨と皮だけになっちゃって……ちゃんと栄養摂ってますか? カルシウム不足だとイライラしちゃいますよ?」
『お、お爺ちゃん!? 私は死を司る至高の死霊術師……』
「はい、特製のホットミルクです。ハチミツたっぷり入れておきましたから、甘くて温まりますよ」
スッ、と。
殺気を放つ死霊術師の目の前に、湯気を立てる甘い香りのホットミルクが差し出された。
『…………』
リッチは混乱した。
王都を滅ぼそうとした自分に対して、この勇者は「敵意」を全く向けてこない。それどころか、孫が祖父を労わるような純粋な優しさ(おもてなしの心)だけで接してくるのだ。
「あ、そこの黒い鎧の皆さんも、どうぞ」
ヒナタは、大剣を振り上げたまま固まっているデスナイトたちにも、マグカップを配り始めた。
「そんな重そうな鎧着てたら、肩凝りませんか? ゴズさんみたいに、後でマッサージしてあげましょうか?」
「ブモォ!(ヒナタのマッサージは最高だぞ!)」
後ろで荷物持ちのゴズが親指を立てる。
『ば、馬鹿な! 毒か!? 聖水でも混ぜてあるのだろう! 誰がそんな怪しいものを……』
リッチは杖でカップを弾き飛ばそうとした。
しかし、地下の冷え切った空気に漂う、ハチミツと温かいミルクの優しく甘い香りが、干からびた(?)魔力回路を強烈に刺激する。
(ひ、一口だけなら……)
リッチは恐る恐る、骨の指でカップを持ち上げ、すすった。
デスナイトたちも、顔を見合わせてから、兜の隙間からミルクを一口飲んだ。
「…………!!」
トロリとした優しい甘さが、冷え切った骨の髄まで染み渡る。
アンデッドを管理するプレッシャー。終わりのない魔力消費。暗い地下室での孤独。
それらの積年のストレスが、ヒナタの淹れた極上のホットミルクによって、嘘のように浄化されていく。
『……うまい』
気がつけば、リッチは涙腺もないのに目頭を押さえ、デスナイトたちは大剣を床に置いて、ピクニックシートの上に正座してミルクを両手で飲んでいた。
「でしょう? お茶菓子もありますよ。市場のおじさんにもらった『揚げパン』です」
ヒナタがニコニコと紙袋を差し出す。
「ヴァレリアさんたちも座ってください。お湯、まだありますから」
「……やれやれ。まあ、こうなる気はしていたがな」
ヴァレリアがため息をつきながら剣を収め、エイルも呆れた顔でシートに座った。
数分前まで血みどろの最終決戦が起きるはずだった地下最深部は、一瞬にして、勇者と魔王軍幹部が円になって揚げパンをかじる「ほのぼのティータイム会場」へと変貌を遂げたのである。
『……いやぁ、実は最近、末端のゾンビどもが言うことを聞かなくて胃が痛くてのぅ』
「わかりますよ。部下の管理って大変ですよねぇ。たまにはこうして、甘いもの食べて息抜きしないとダメですよ」
『ヒナタ殿の言う通りだ。どうだ、我輩と一緒に王都の郊外で、静かに畑でもやらんか?』
「あ、いいですね! 僕、美味しいトマトの育て方知ってますよ!」
完全に、死霊術師としての野望が「ほのぼの牧場ライフ」へと書き換えられていく。
【場所:天界・管理室】
『うわああああああああああああッ!!』
激動神ドラマスが、頭を掻きむしって絶叫した。
『まただ!! また敵が餌付けされて骨抜きにされたァァァッ!!』
『なんで世界征服を企む死霊術師が、勇者と一緒に「美味しいトマトの育て方」で盛り上がってるんだよォォォッ!!』
モニターの横で、地球神が手を叩いて大爆笑している。
『あーっはっはっは! だから言っただろ、ヒナタ君は「ピースフル市民」だって!』
『彼の前では、どんな強敵もただの「お茶飲み友達」になっちゃうんだよ。ほら、君の用意した絶望のボスが、すっかり農家のお爺ちゃんみたいな顔になってるじゃないか』
ドラマスの胃痛は、もはや限界を突破していた。
こうして。
王都を脅かした死霊術師のインシデントは、勇者の剣でも魔法でもITインフラのロジックでもなく、「一杯のホットミルクと揚げパン」によって、極めて平和的に(そして神様のシナリオを完全に破壊して)解決されたのであった。
(第200話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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