■第179話:死霊術師の罠! ……えっ、おびき出す前に「フィッシング詐欺」と「スプーフィング(なりすまし)攻撃」の説教ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:人間界・王都地下墓地(C2メインサーバー室)】
王都の地下深く、冷たい瘴気が立ち込める広大な地下カタコンベ。
そこには、数万のアンデッド(ボットネット)を遠隔操作する巨大な魔力陣が並び、不気味な青い炎を上げて稼働していた。
その中央で、漆黒のローブを纏った死霊術師リッチが、苛立ちに任せて手元の水晶球を床に叩きつけた。
『……忌々しい! 中央銀行、王立天文台、そして王宮! この3つの拠点だけが、我が軍団の波状攻撃(DDoS)を完全に弾き返し、強固な結界に引きこもりおって!』
リッチは、カタカタと顎の骨を鳴らして思案した。
『力押し(ブルートフォース)ではあの分厚い扉(物理ファイアウォール)は破れん。ならば……奴らが自ら扉を開け、外へ飛び出してくるように仕向ければよいのだ。生者の最大の弱点、それは恐怖ではない。「希望」だ』
リッチは、配下の骸骨兵に命じ、王宮の宝物庫から奪い取った「王国公式の広域通信水晶(正規のメールサーバー)」を運び込ませた。
『ククク……。この水晶の魔力波長は、王国民なら誰もが「公式からの発表」だと信じて疑わない。これを使って、偽の救援メッセージを王都中に一斉送信してやる。安全なシェルターに引きこもるネズミどもを、偽の希望で外の地獄へと炙り出すのだ!』
【場所:天界・第1開発会議室】
「おおおっ!! 素晴らしいぞ、リッチよ!!」
神ドラマスは、メインモニターに映るリッチの邪悪な作戦を見て、スタンディングオベーションを送った。
「力押しが通じないと見るや、正規の通信インフラを乗っ取り、送信元を偽装して偽のメッセージを送る……! これはまさに、人間の心理的な隙を突く高度な『ソーシャル・エンジニアリング』であり、完璧な『標的型フィッシング攻撃』だ!」
開発主任の天使も興奮気味に頷く。
「はい! ヒナタがどれだけ完璧なガジェットでシステムを防御しようと、中の人間が騙されて自ら扉を開けてしまえば、セキュリティは完全に崩壊します! これぞAPT攻撃(持続的標的型攻撃)の真骨頂!」
「さあヒナタよ! 絶望の密室に突如舞い込んだ『公式からの救いの糸』! この極悪非道なフィッシング詐欺(罠)を、お前はどう処理するつもりだ!?」
【場所:人間界・王都中央銀行(籠城数週間目)】
『……ガガッ……生存者ニ告グ……我々ハ、北方要塞ヨリ帰還シタ「王国第一騎士団」デアル……!』
突如、銀行の地下金庫室に置かれていた旧式の受信魔導具から、力強い声が響き渡った。
「な、なんだと!?」
アーサーが跳ね起きた。セバスチャンも、信じられないものを見る目で魔導具を見つめている。
『……我々ハ現在、王都ノ東門広場ニ「絶対安全地帯」ヲ確保シタ。十分ナ食糧ト、アンデッドヲ退ケル結界ガアル! 各所ニ潜伏シテイル生存者タチヨ、直チニ東門広場ヘ集結セヨ! 繰リ返ス――』
「おおおおっ!! 第一騎士団が帰還した!! 救援部隊ですぞ!!」
セバスチャンが歓喜の涙を流し、アーサーが拳を強く握りしめた。
「ヒナタ殿!! 救援の軍勢が到着したのだ! 我々もすぐにこの銀行を出て、彼らと合流――」
アーサーが立ち上がり、金庫室の扉に手をかけようとした、その瞬間。
「ちょっと待って!!!」
ヒナタの、巧妙なサイバー詐欺を完全にデバッグする「凄腕セキュリティ・アナリスト(ガチギレ・トーン)」が金庫室に響き渡った。
『……エッ!?』
アーサーは、扉に手をかけたままピタリと固まった。
ヒナタは、四次元リュックから顔を上げ、鬼の形相でアーサーの手元と魔導具をビシッと指差した。
「あなた!! 差出人が『第一騎士団(公式)』を名乗っているからといって、無条件でそのメッセージのリンク(指定された合流地点)にアクセスしようとするなんて、典型的な『フィッシング詐欺』に引っかかる情報弱者の行動ですよ!! メールのヘッダ情報(送信元の真の経路)も確認せずに、ホイホイと物理ファイアウォール(金庫の扉)を開けるなんて、セキュリティ教育が根本から欠落しています!!」
「フィ、フィッシング詐欺……!? なりすましメール……!?」
アーサーは、感動的な救出劇を「ただの悪質なクリック詐欺」としてエンジニアのロジックで一刀両断され、扉からパッと手を離した。
「大体、こんな極限状態のパンデミック下で、突然『安全な場所があるから来い』なんていう美味すぎる話(詐欺サイトへの誘導)があるわけないでしょうが!!」
ヒナタは今度、メッセージを垂れ流している古い魔導具を鋭く睨みつけた。
「送信元のドメイン(魔力波長)が公式の王宮のものと一致しているのは、奴らが『正規のメールサーバー(水晶)』を物理的に乗っ取ってスプーフィング(送信元偽装)を行っているからです! リンク先(東門広場)に待ち受けているのは、救援部隊なんかではなく、大量のマルウェア(アンデッド)が敷き詰められた『ハニーポット(罠の隔離領域)』に決まっています!!」
「スプーフィング(送信元偽装)……!? ハニーポットの罠……!?」
セバスチャンは、自らの希望的観測を「ただのフィッシングサイトへのリダイレクト」として全否定され、その場に崩れ落ちた。
「今日から、徹底的な『デジタル署名の検証』と『シン・スパムフィルタリング(偽情報の遮断)プログラム』を行います!!」
ヒナタは、四次元リュックから、「光を反射しない艶消しマットブラック仕上げの、軍用・音声紋アナライザ(生体認証照合機)」と、「エンタープライズ向け・艶消しマットブラックの『iPad Pro(スパム解析用)』」を取り出した。
「ゴズさん! アーサーさんがまた騙されてフィッシングサイト(外)に出ようとしたら、斧の柄で物理的にアクセス拒否して! ヴァレリアさん、その魔導具の音声を、私の iPad Pro のアナライザに神速で入力して!! メッセージの『声紋(生体データ)』と、過去の第一騎士団長の公式な演説ログをディープラーニングで照合させます!!」
「ブモォッ!(おう! ウマイ話に飛びつくバカは、俺が物理的に止めてやるぜ!)」
「ふむ。この漆黒の板(iPad)で、声の主の『真実の顔(偽装の痕跡)』を暴き出す……完璧な真贋判定だな」
「【究極のデジタル・フォレンジック(証拠保全)&シン・スパム判定(詐欺検知)プログラム】です!!」
iPad Pro の画面上で、Apple の圧倒的な処理能力を誇るニューラルエンジンが音声データを一瞬で解析した。
画面には、音声の周波数の僅かな不自然さ(ピッチの歪み)が真っ赤なエラーとして表示された。
「はい、解析完了です! この音声には、人間の声帯には存在しない『骨が擦れ合う特有の高周波ノイズ(アンデッドのノイズ)』が混入しています!! つまりこれは、第一騎士団長の過去の音声を切り貼りして生成された『ディープフェイク音声』です!!」
『な、なんだと……!? では、あの力強い声は……』
アーサーが息を呑む。
「ええ。差出人は第一騎士団ではなく、C2サーバーの管理者(死霊術師リッチ)です! 完全に黒(マルウェアの罠)です!!」
ヒナタは、すぐさまVPNで構築されたセキュアなネットワークを通じて、王宮と天文台の生き残りたちに「緊急のセキュリティ・アラート(警告)」をブロードキャストした。
「【ヒナタCISOからの緊急警告】! 現在、王都全域に送信されている第一騎士団からの救援メッセージは、送信元を偽装した『フィッシング攻撃(罠)』です! デジタル署名の検証(声紋照合)に失敗しました! 絶対に指示されたリンク(東門広場)へはアクセス(移動)せず、引き続きエアギャップ環境(屋内)に留まってください!!」
ヒナタのロジカルかつ迅速なインシデント対応(全ユーザーへの注意喚起)により、王都の生存者たちが罠に引っかかって外へ飛び出す(マルウェアに感染する)最悪の事態は、水際で完全に防がれたのである。
【場所:天界・第1開発会議室】
『…………』
神ドラマスは、手に持っていた「生存者が一網打尽にされる絶望のシナリオ」を、無言でゴミ箱のアイコンにドラッグ&ドロップした。
『公式を騙る偽の救援メッセージが……「スプーフィング(送信元偽装)を用いたフィッシング詐欺」と指摘され、ディープフェイクだと暴かれた……』
『生存者を外へおびき出す巧妙な罠は「ハニーポットへの誘導」と怒られ、緊急セキュリティ・アラートによって王都中の生存者に注意喚起(スパム警告)されてしまった……』
ドラマスは、深く、長く息を吐き出すと、もはや「人間の希望を弄ぶ悪魔のような頭脳戦」すら「典型的なフィッシング詐欺とディープフェイク」として凄腕SEの少年によって完璧にデジタル・フォレンジック(解析)されてしまうことに完全降伏し、通販サイトで「艶消しマットブラックの音声紋解析ソフトウェア」と「企業向け・フィッシング対策トレーニングの教本」を即座にポチり、自らの神殿のハッキング手法を、ヒナタのロジックすら欺く完璧なディープフェイク技術へとアップデートするための、終わらない研究開発を再開するのだった。
(第179話・完)
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