■第17話:王都からの緊急入電! ……わあ、急ぐなら「水上スキー」で帰りましょう!
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
本編をお楽しみください
【場所:クイーン・セバスチャン号・甲板】
魔獣艦隊との遭遇から数日。
船はまだ、海の真ん中にいた。
「ナイスショットです、ヴァレリアさん!」
「ふむ。風を計算に入れたアプローチ……悪くない」
彼らは今、甲板を改造した特設コースで「船上パターゴルフ」に興じていた。
ボールは真珠、カップはコップ。
平和だ。あまりに平和すぎて、ここが魔の海域であることを海中の魔物すら忘れている。
その時だった。
ピピピピピピッ!!!!
セバスチャンの懐にある「緊急通信用魔導具」が、かつてない音量で警報音を鳴らした。
赤く明滅するクリスタル。
これは、国家レベルの緊急事態を知らせるシグナルだ。
「ひぃっ!? こ、これは国王陛下からの直通回線!?」
セバスチャンが慌てて通信を開く。
「は、はい! 宰相セバスチャンです! 陛下、ご機嫌麗しゅう……」
『セバスチャァァァァァァンッ!!!!』
クリスタルから、国王の怒号(鼓膜破壊級)が響き渡った。
『今どこにいる!! なぜまだ「海」なのだ!!』
『神託が降りたぞ! 「勇者が動かないせいで、世界(神の精神)が持たない」と神様がお怒りだ!』
『今すぐ! 1秒でも早く! 次の大陸に上陸せよ! さもなくば……』
『国家予算による「おやつ代」の支給を全額凍結する!!!』
「な、なんですとォォォッ!?」
セバスチャンが絶叫する。
そして、その言葉に反応したのは、パターを握っていたヒナタだった。
「えっ……? おやつ代が……なくなる?」
ヒナタの手からパターが落ちた。
世界が滅ぶことには動じない勇者が、初めて動揺を見せた。
「それは困ります! ゴズさんの食費、バカにならないんですよ!?」
「ブモッ!?(俺のせい!?)」
セバスチャンが鬼の形相で迫る。
「勇者殿! 聞こえましたな!? 今すぐ遊びを切り上げて、全速力で陸を目指すのです!」
「船長! エンジン全開だ! 帆を張れ! エイル殿、風魔法でブーストを!」
ついに、尻を叩かれた勇者一行。
優雅なクルーズは終わりを告げ、緊急移動モードへと移行することになった。
【場所:海上】
ゴォォォォォォォッ!!
エイルの風魔法『ストーム・ジェット』を受けた豪華客船は、もはや船というより「暴走する巨大鉄塊」と化していた。
水しぶきを上げ、猛烈なスピードで海を切り裂いていく。
「ははは! 速い速い! これなら明日の朝には着きますぞ!」
セバスチャンが船首で叫ぶ。
「これなら神様も文句はあるまい! どうだ、この『必死さ』は!」
【場所:天界・管理室】
『よし! やっとだ!』
神ドラマスは、モニターの前で拳を握りしめた。
『そのスピードだ! 脇目も振らず進む姿こそ、冒険者に必要なのだ!』
『さあ、船内で退屈そうに地図でも眺めているがいい!』
ドラマスは、船の後方カメラに切り替えた。
船内での「反省会」の様子でも見ようと思ったのだ。
しかし。
そこに映っていたのは――。
『…………は?』
【場所:船の後方・海面】
猛スピードで進む船の船尾から、数本のロープが伸びていた。
その先には、板に乗ったヒナタたちがいた。
「ヒャッホォォォォウ!! 最高スピードですねぇぇッ!!」
ヒナタは、水着姿で「水上スキー」を楽しんでいた。
船が速ければ速いほど、波に乗るスピード感は増す。
「ふははは! この風圧! 修行になるぞ!」
ヴァレリアは、スキー板の上で片足立ちをし、剣の素振りをしている。体幹が強すぎる。
「ブモォォォッ!!(飛ぶぜぇぇぇッ!!)」
ゴズは、巨大な板を使って波のジャンプ台を利用し、空中で一回転を決めた。
「エイルさーん! もっと風送ってくださーい!」
ヒナタが船に向かって叫ぶ。
船上のエイルが、呆れながらも杖を振る。
「やれやれ……。推進力を上げれば上げるほど、彼らのアトラクションが過激になるシステムですか」
「まあ、私も楽しそうだから後で交代してもらおう」
セバスチャンだけが、船尾で絶叫していた。
「勇者殿ォォォッ!! 危ないですぞォォォッ!!」
「もしロープが切れたら置き去りですぞォォォッ!!」
「大丈夫ですよセバスチャンさん! 落ちたら『遠泳』で追いかけますから!」
「そういう問題じゃなーい!!」
船は、白波を立てて爆走する。
その後ろには、アクロバティックな技を決めながら歓声を上げる水上スキー集団。
傍から見れば、「金持ちの道楽パレード」にしか見えなかった。
【場所:天界・管理室】
『ちがう……』
神ドラマスは、モニターを指差して震えていた。
『私が求めたのは「急ぐ姿」だ……』
『なんで「スピードすらも遊び道具にする」んだ……』
『速く進めと言ったら、スポーツを始めやがった……』
神様は、ガクリと膝をついた。
もう何を言っても無駄だ。
彼らはどんな過酷な状況も、瞬時に「ルールのある遊び」に変換してしまう天才なのだ。
『……着け。もう着いてくれ』
『陸だ。乾燥した大地だ。そこならスキーはできまい……』
神の願いを乗せて、船は(水上スキーを牽引しながら)大陸へと到着する。
しかし、神様は忘れていた。
次の舞台が「砂漠」であることを。
そして、ヒナタが船上で「サンドボード」の作り方を本で読んでいたことを。
(第17話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
皆様からの応援が、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!




