■第12話:大嵐が来た! ……わあ、これって「サーフィン日和」ですね!
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【場所:クイーン・セバスチャン号・甲板】
「ふぅ……。お腹いっぱいですね」
ヒナタは、デッキチェアで膨らんだお腹をさすっていた。
先ほどの「リヴァイアサン食べ放題祭り」で、船内の食料事情は向こう数ヶ月分まで潤っていた。
「食後の運動がしたいですねぇ」
ヒナタが海を眺めて呟く。
その言葉を、天界の神ドラマスは聞き逃さなかった。
【場所:天界・管理室】
『運動だと……? いい度胸だ』
神ドラマスは、充血した目でコンソールを叩いた。
『ならば、死ぬほど運動させてやる! 海の藻屑となるダンスを踊れ!』
【天候操作:スーパーセル(超巨大積乱雲)】
【海流操作:ワールド・メールストロム(世界を飲み込む大渦)】
ドラマスは、この海域の難易度を「イージー(観光)」から「ヘル(地獄)」へと一気に引き上げた。
『沈め! 沈んでしまえ!』
『この船旅を、ポセイドン・アドベンチャーに変えてやるのだァァァッ!!』
【場所:海上】
ゴゴゴゴゴゴ……!!
空が漆黒に染まり、海面が荒れ狂う。
先ほどまで穏やかだった海は、数十メートル級の荒波が押し寄せる地獄絵図へと変貌した。
「きゃあああ! 嵐よ! 嵐が来たわ!」
「船が転覆するぞーッ! 全員、船内へ退避しろーッ!」
乗客たちが悲鳴を上げ、セバスチャンも柱にしがみつく。
「ひぃぃぃッ! 神よ! なぜこれほどの試練を……!」
船が大きく傾く。
普通の人間なら、絶望して祈りを捧げる場面だ。
しかし。
ヒナタは、甲板の手すりに身を乗り出し、荒れ狂う大波を見て……目を輝かせた。
「わあ……!! すごい!!」
「ゆ、勇者殿!? 何がすごいの!?」
セバスチャンが叫ぶ。
「見てくださいヴァレリアさん! 『ビッグ・ウェーブ』ですよ!」
ヒナタが興奮して指差す。
「神様、食後の運動のために、こんな立派な『波のプール』を用意してくれたんですね!」
「……なるほど」
ヴァレリアが、揺れる甲板の上で仁王立ちする。
「確かに、これほどの波は千年に一度……。乗りこなせば、さぞ気持ちが良いだろうな」
「エイルさん! 板が必要です!」
「お任せを。さっきのリヴァイアサンの『背びれ』が余っています」
エイルが魔法で背びれを加工し、ヴァレリアが聖剣で削り出す。
数秒後。
そこには、流線型の「特製サーフボード(素材:伝説の海竜)」が完成していた。
「よし! 行きますよ皆さん!」
「おう!」
ヒナタとヴァレリアは、ボードを抱えて、荒れ狂う海へとダイブした。
「ちょ、正気ですかァァァァッ!?」
セバスチャンの絶叫が嵐に消える。
【場所:嵐の海面】
ザパァァァン!!
ビル3階建てほどの高さがある大波。
その頂点に、二つの影が立った。
「イヤッホォォォォウ!!」
ヒナタが波のトンネル(チューブ)をくぐり抜ける。
そのバランス感覚は、神がかっていた(というか、神の加護で絶対に落ちない)。
「ははは! 見ろヒナタ殿! 最高の風だ!」
ヴァレリアは、サーフィンを通り越して、波の上で剣の素振りをしていた。
「この不安定な足場……体幹トレーニングに最適だ!」
二人は、船を飲み込もうとする大波を、次々と華麗なテクニックで乗りこなしていく。
さらに、海中からはエイルとゴズが現れた。
「ブモォォォッ!!(バナナボートだぜぇぇ!)」
ゴズは、流木のような「巨大な海蛇」の首に縄をかけ、無理やり引っ張らせていた。
その背中には、浮き輪に乗ったエイルが優雅に座っている。
「ほう、時速100キロは出てますね。なかなかの疾走感だ」
エイルは眼鏡を押さえながら、水上スキーを楽しんでいた。
『…………』
天界のドラマスは、口を開けたまま固まっていた。
彼が送った「世界を滅ぼす大波」は、彼らにとって「絶好のサーフポイント」でしかなかった。
船上の乗客たちも、最初は悲鳴を上げていたが、次第にその光景に魅了され始めた。
「す、すげぇ……! あの波に乗ってるぞ!」
「勇者様ー! カッコイイーッ!」
「10点! 今のエア・ターンは10点だ!」
いつしか、嵐の海は「エクストリーム・スポーツの観戦会場」へと変わっていた。
【場所:海中・大渦の中心】
「次は『ダイビング』ですね!」
ヒナタはサーフィンに飽きると、今度は巨大な渦潮の中心に目をつけた。
「あの中、お魚がたくさんいそうです!」
「待てヒナタ! 生身では息が続かん!」
「私が『水中呼吸』をかけましょう。ついでに水圧耐性も」
ドボン!
勇者一行は、あろうことか「死の渦潮」の中へと潜っていった。
海中には、ドラマスが配置した凶悪な半魚人たちが待ち構えていた。
『ギョョョ! 人間だ! 引きずり込め!』
しかし、ヒナタは彼らを見て手を振った。
「こんにちは~! 海の中の案内人さんですか?」
『ギョ?』
「わあ、綺麗なサンゴ! 写真撮ってもいいですか?」
ヒナタは半魚人の肩に手を回し、ピースサインをした。
『え、あ、はい……(ピース)』
半魚人は気圧された。殺気がない。純粋な好奇心しかない。
「ヴァレリアさん見てください! 深海魚ですよ! 美味しそう!」
「ふむ、今夜は煮付けか」
「ブモッ!(貝拾ったぞ!)」
海中の魔物たちは戦慄した。
この人間たち、俺たちのホーム(深海)で、完全に「観光」してやがる……!
結局、半魚人たちはヒナタたちに懐柔され、
「あっちに綺麗な沈没船がありますぜ」
「カメの背中に乗りますかい?」
と、完全に「ツアーガイド」としてこき使われることになった。
【場所:天界・管理室】
ドラマスのモニターには、イルカ(魔物)に乗ってジャンプするヒナタと、拍手喝采の乗客たちの笑顔が映し出されていた。
『…………』
ドラマスは、静かに「天候操作」のスイッチを切った。
嵐が去り、美しい夕焼けが広がる。
『……楽しそうで、何よりだ』
神様の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
怒りではない。諦めでもない。
ただひたすらな「敗北感」だった。
『もういい……。海はもういい……』
『早く……早く陸に上がってくれ……』
神様は、そっとモニターを閉じた。
今日はもう、ふて寝するしかなかった。
(第12話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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