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■第118話:絶望の予言獣・件(くだん)! ……えっ、予言の前に「咀嚼(そしゃく)機能の不適合」と「デマによる買い占め防止」の説教ですか?

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


【場所:天界・管理室】

「……フゥー。感情日記に今日の反省(牛鬼の重複)を素直に書くと、確かに心がスッキリするな。失敗を認めることはメンタルケアの第一歩だ」


神ドラマスは、新品の日記帳を優しく閉じ、穏やかな表情でモニターを見下ろしていた。

画面の中では、ヒナタたちが王都の郊外にある、のどかな牧場を訪れているところだった。


「ほう! 代わりに出現した次なる怪異は、恐るべき宿命を背負った予言の魔獣、くだんか!」


ドラマスは、日記帳をしまって身を乗り出した。


「牛から生まれ、人間の顔を持ち人語を解す。そして『数日後に大災害や疫病が起きる』という絶対に逃れられない死の予言を残し、自らも短命で死んでいくという絶望の化身! 逃れられぬ未来の恐怖と、自らの死を受け入れている悲劇の存在に、ヒナタの物理ド正論もついに言葉を失うはずだ!!」


【場所:人間界・王都郊外の牧場】

「う〜ん、牧場の朝の空気は美味しいですね! 搾りたての牛乳が楽しみです!」


ヒナタは、牧場の柵に寄りかかって深呼吸をしていた。


「ゆ、勇者殿! 牧場主が青ざめた顔で助けを求めておりますぞ! なんでも、牛舎で世にも恐ろしい化け物が生まれたとか……!」


宰相セバスチャンが、杖を構えながら牛舎を指差した。


『……コホッ。人間どもよ、よく聞くがいい……』


牛舎のワラの上に横たわっていたのは、生まれたばかりの仔牛の体と、青白い「人間の男の顔」を持つ異形の化け物――くだんであった。


「ひぃぃぃッ!! で、出たァァッ!! 噂の件ですぞォォッ!!」


セバスチャンが悲鳴を上げて腰を抜かす。


『我は件……。悲しき予言の獣。……あと3日後、この国に恐ろしい大飢饉と疫病が襲い来るだろう……。逃げ場はない……。そして我もまた、この予言を残して数日後に死にゆく運命さだめなのだ……』


件の悲痛な予言を聞き、集まってきた村人たちが「大飢饉だ!」「食料を買い占めろ!」「もう終わりだ!」とパニックに陥りかけた、その瞬間。


「ちょっと待って!!!」


ヒナタの、牛舎のパニックを完全にフリーズさせる「凄腕システム監査&獣医師ガチギレ・トーン」が響き渡った。


『……エッ?』


件は、悲壮な顔を作ったままピタリと固まった。

ヒナタは、四次元リュックをドンッと置き、鬼の形相で件の「人間の顔(顎)」と「牛の体」を交互にビシッと指差した。


「あなた!! 数日後に死ぬのは悲しき運命でもなんでもない!! 草食動物である牛には、消化のために食べた草を吐き戻してすり潰す『反芻はんすう』が不可欠なのに、人間の小さな顎と平らな歯の構造じゃ、絶対に硬い牧草を噛み砕けないでしょうが!!」

『あ、顎と歯の構造……!? 反芻……!?』


件は、言われてみれば生まれてからずっと、顎がダルくて草が全く喉を通らなかったことを思い出し、人間の目を白黒させた。


「予言のせいじゃなくて、ただの『構造的なバグによる重度の低血糖と餓死』です!! そんな致命的なハードウェアの不適合を放置して『運命』なんてポエムで誤魔化すんじゃない!!」

「大体、その予言の内容!!」


ヒナタは、パニックになっている村人たちと、件の顔を交互に指差した。


「『大飢饉が来る(エラー発生)』という結果だけを大声で報告して、回避策も復旧手順も提示しないなんて、ただ不安を煽って市場の『買い占め(パニックバイ)』を引き起こすだけの最悪のトラブル報告バグチケットです!! 危機を予測できるなら、同時に『BCP(事業継続計画)』と『代替ルート』を提示しなさい! 業務改善の意識が低すぎます!!」

『バ、バグチケット……!? BCP……!?』


件は、自分の神聖な死の予言が「対応策ゼロの迷惑なエラー報告と物理的な餓死」として論理的に粉砕され、ポロリと人間の目から涙をこぼした。


「今日から、徹底的な『流動食による栄養管理』と『リスクマネジメントに基づく予言の再構築』を行います!!」


ヒナタは、四次元リュックから、「仔牛用・超高カロリー人工初乳(ペースト状)」「特大の哺乳瓶」「災害時備蓄マニュアル」、そして「リスク分析用のホワイトボード」を取り出した。


「ゴズさん、件さんの頭を優しく支えて! ヴァレリアさん、そのペーストを人肌に温めて哺乳瓶に入れて!!」

「ブモォッ!(おう! 餓死寸前の赤ん坊を放っておけるかよ、しっかり飲ませてやるぜ!)」

「ふむ。流動食なら、人間の歯でも問題なく牛の胃袋へ栄養を送れるというわけか。見事なバグフィックスだ」

『ナ、何ヲ……!? 我ノ死ノ宿命ガ……!』

「【究極の新生児栄養サポート&国家BCP策定プログラム】です!!」


ヒナタたちの手により、件の人間の口に、濃厚で甘い「高カロリー初乳ペースト」がたっぷりと注ぎ込まれた。


『おおっ……!? 噛まなくても喉の奥に栄養が流れ込んでくる! 飢餓感で薄れかけていた意識がハッキリして、牛の胃袋(第4胃)がポカポカと温まっていくぞ……! 死の運命(低血糖)が遠ざかっていく……!』

「体力が戻ったら、次は予言(エラー報告)のやり直しです! 飢饉が来るなら、どこの地域から来るのか? 疫病の感染経路は? 具体的な条件を全て洗い出して、ホワイトボードに書き出しなさい!」


ヒナタがマーカーを差し出すと、件はすっかり元気になった体で、頭の中にある未来のビジョンを詳細なデータとして書き出し始めた。


『ええと……飢饉の原因は南の麦畑での害虫発生、疫病は東の井戸水の水質悪化が原因だ……!』

「素晴らしい詳細報告です! セバスチャンさん、すぐに南の畑に防虫の魔法薬を手配し、東の井戸を使用禁止にして予備の貯水槽を開放してください!」

「は、ははっ! 直ちに手配いたしますぞ!」


数日後。

そこには、死の予言を残して息絶える悲劇の化け物の姿はなかった。


ヒナタ特製の流動食スムージーをチューチューと吸いながら、ツヤツヤの毛並みでホワイトボードの前に立ち、王国の役人たちに向けて「正確な未来予測に基づく、完璧なリスクアセスメントと防災計画(BCP)」を提示する、「王都直属・特任リスクマネジメント・コンサルタント(件先生)」の姿があった。


『皆さん! 3日後の災害は、事前のリソース再配分と徹底したテスト(避難訓練)により、被害をゼロに抑え込むことが可能です! 予言は絶望ではなく、改善のためのシステム・アラートですよ!』


件は、人間の顔でニカッと爽やかに笑い、前足でホワイトボードを叩いた。


「……ゆ、勇者殿。絶望の予言獣が……『餓死のバグを克服し、完璧なエラー報告と対策を提示する超優秀なコンサルタント』になってしまいましたぞ……」


セバスチャンは、件の策定した完璧な防災マニュアルを胸に抱きながら、王国の安全保障がかつてないほど強固になったことに感涙を流していた。


【場所:天界・管理室】

『…………』


神ドラマスは、モニターの前で静かにペンを置いた。


『件が……「人間の顎で牛の反芻はできない(バグ)」と指摘され、高カロリーの流動食で餓死を回避させられた……』

『死の予言は「対策のない最悪のトラブル報告」と怒られ、ホワイトボードで完璧なBCP(事業継続計画)を策定するコンサルタントになった……』


ドラマスは、深く、長く息を吐き出すと、もはや「絶対的な死の運命」すら「ハードウェアの不適合とエラー報告の不備」として完全に論破して解決してしまうヒナタに完全降伏し、通販サイトで「非常用・長期保存の防災備蓄セット」と「リスクマネジメントの専門書」をポチり、自らの神殿のBCP対策を完璧に整備することを固く誓うのだった。

(第118話・完)

本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!


ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


皆様からの応援トラフィックが、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!


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