表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊物件リフォーム専門店・「九条工務店」〜女子3人で事故物件、お直しいたします〜  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

第6話:(後編)凛の災難・ガテン系合コン?


「……壁の向こうに、誰かおるな?」

 凛の声が低く響き、美咲さんのワンルームに緊張が走った。

 クローゼットの奥、不自然に音が軽い壁の一点。そこから、カサカサと何かが這い回るような、湿った音が漏れ聞こえてくる。


「凛、陽葵、下がってください。……美咲さんも」

 結がメジャーを仕舞い、カバンからレーザー墨出し器を取り出した。

「この部屋の設計図上、クローゼットの裏は隣室との境界壁(戸境壁)のはず。ですが、実測値では三〇センチの『隙間』が存在します。……断熱材を入れるにしても広すぎる」


「結、これ……隣の部屋から繋がっとるんやな?」

 凛がバールを握り直し、鼻をヒクつかせた。

「安物の柔軟剤の匂いが強なった。……おまけに、この壁の裏、隠しカメラの配線がびっしりや。機械が熱持っとる」


「陽葵、声を確認してください」


 陽葵が壁にそっと手を触れる。

「……聞こえますわ。……『僕の美咲ちゃん』、『今日も可愛いね』、『家具の配置、こっちの方が風水的に良いのに』……。あぁ、なんて身勝手で、淀んだ独り言……」


 その瞬間、壁の裏側で『ガタン!』と大きな音がした。

 自分たちの存在がバレたことを察したのか、何者かが逃げようとしている。


「逃がすかぁ! ……【乾の角、坤の境、我が領域に逃げ場なし】!!」

 凛が叫び、玄関のドアノブに素早く清め塩を塗りつけ、結界を張った。

「マンションの廊下には出させへんで! ……結、こじ開けるぞ!」


「許可します。……ただし、美咲さんの財産ですから、最小限の破壊で」


「合点承知! ……おりゃあああ!!」

 凛がバールの一撃を、壁の継ぎ目に叩き込んだ。

 ベリベリと石膏ボードが剥がれ落ち、そこには――人間一人が、ようやく這って歩けるほどの『隠し通路』が露わになった。


 通路の奥には、モニターが数台置かれ、美咲さんの部屋を盗撮する映像が映し出されている。

 そして、そこには青白い顔をした男が、蜘蛛のようにうずくまっていた。


「……な、なんだよお前ら! 僕は、彼女を『守って』あげているだけだ! この部屋のリフォームをしたのは僕なんだぞ!」


 男は、黒曜建設のロゴが入った古い作業着を着ていた。

 結は、男を冷徹な目で見下ろした。


「……やはり。黒曜建設の元社員ですね。……リフォーム時に、独断で設計を変更し、自分専用の覗き見通路を設けた。……建築士としての倫理を、どこに捨ててきたのですか?」


「うるさい! 僕は理想の家を作ったんだ! 彼女が快適に過ごせるように、僕が夜中に家具の位置を直してあげているんだ!」


 男がナイフを取り出し、凛に向かって飛びかかってきた。

 だが、凛は眉一つ動かさない。


「……合コンの男よりは威勢ええけど、フォームがなってへんわ!」

 凛はバールでナイフを弾き飛ばすと、男の襟首を掴んで、そのまま廊下へと放り出した。

 結界の反動で、男は床に叩きつけられ、身動きが取れなくなる。


「陽葵、警察へ連絡を。……不法侵入と、盗撮の現行犯です」


「はい、結ちゃん。……あらあら、この方の心の闇、浄化しても落ちそうにありませんわ。……しっかり反省していただきます」


 ***


 数時間後。

 警察の現場検証が終わり、美咲さんは友人の家へ避難することになった。

 一人残った三人は、無惨に壊されたクローゼットの壁の前に立っていた。


「……結、この通路、どうする? 隣の部屋と繋がったままやで」


「埋めます。……物理的にも、霊的にも」

 結は、事務所から運んできた『特殊な速乾性コンクリート』の袋を開けた。

 それは、陽葵の清めた砂と、凛が配合を考案した、霊障を遮断する超高密度セメントだ。


「二度と、悪意が通り抜けられないように。……凛、攪拌かくはんを。陽葵、封印の祝詞をお願いします」


「了解や! ……セメントの配合なら、任せとき!」

 凛が手際よく攪拌機を回し、ドロドロのコンクリートを通路に流し込んでいく。

 陽葵がその表面に、指先で静かに紋章を描いた。


「【この壁は、決して揺らがぬ鉄壁。悪意の入り込む隙間など、一寸たりとも残さぬ】」


 数十分後、通路は完全に塞がれた。

 そこにはもう、人の気配も、不気味な鼻歌も聞こえない。ただの、頑丈な壁があるだけだ。


 ***


 帰り道の車中。

 凛は、ようやくワンピースを脱ぎ捨て、いつもの作業着に着替えていた。


「……ふぅ。やっぱり、こっちの方が落ち着くわ。……なぁ結。あのストーカー、黒曜の元社員やったけど……これ、偶然やないやろ?」


「ええ。……黒曜建設は、社員の『歪んだ欲望』すらも利用して、物件に細工を施している可能性があります。……美咲さんの部屋も、彼らが意図的に『弄れる余白』を残していた」


 結は窓の外の夜景を見つめ、静かに眼鏡を直した。

「……霊を閉じ込めるだけでは飽き足らず、生きている人間まで、建物の迷宮に閉じ込めようとしている。……彼らの根は、想像以上に深そうです」


「……でも、どんなに深い根っこでも、うちがバールで掘り返したるわ!」

 凛がハンドルを握り、ニヤリと笑う。


「ふふ、頼もしいですわ。……さて、明日は日曜日ですが、どうします? 凛ちゃん、また合コンに行きますか?」


「陽葵……それだけは勘弁してや! うちは一生、現場と添い遂げるわ!」


 三人の笑い声が、都心の夜を駆け抜けていく。

 九条工務店。彼女たちの設計図に、不純な悪意が入り込む余地はない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ