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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第3部】 うつろわざる世界

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【3-5-2】

 お母様は最低限の荷物を纏め私の手を引きながらに家を出ます。私は何が何やら分からず仕舞いで、お気に入りの服も置き物も何もかも家の中に置いたままです。本当に最低限だけ。


 私はお母様にお聞きします。どうされたのかと。


「……リーザ。思えば貴方には苦労ばかりを掛けてきましたね」


 その言葉に私はまた頭の中に疑問符が浮かびます。


「これからはゆっくりと過ごしましょう。貴方を縛るものはもう無いのですから」


 ……お母様? 一体何を仰られているのですか?


「まずは何をしましょうか。フクローランとは違う温かな国へ赴いてみましょうか。マグシアには日差しが強く、 海の綺麗な国があるそうでございますよ」


 それは、とても魅力的ですね。いえでも……。


「あるいは亜族の里へ行ってみましょうか。精霊族の里などもとても美しいようですしいいかもしれませんね」


 お母様? 私はお母様が仰っている意味を理解できません……。


 私の問いに対してダリアお母様は回答する事なくただただ前へと進んでいきます。雪に残された二人の足跡が随分と長くなりました。寒かったはずが今は汗ばんでいます。口から白い息が溢れました。


 ちょうど峠ともいうべき所まで来てお母様は一度立ち止まられました。私は後ろを振り返り、小さくなった街々を眺めます。でもお母様は振り返ろうとはしませんでした。


 ……ダリアお母様?


「リーザ。よく聞いてくださいませ」


 その真剣な声に私は身構えてしまいます。何を仰られるのか頭では理解していました。でも、それをしてしまったら私達は……。


「――私達は今日限りでアヌ教を抜けます」


 その言葉はシンと辺りに響きました。私の頭の中ではお母様のその言葉が何度も何度も繰り返されました。


 ……少し、お聞きしても宜しいでしょうか?


 私の言葉にダリアお母様が頷きます。


 何故、そのようなご判断をされたのですか……?


「私が、信じるアヌ教を信じられなくなってしまったからです」


 それはでも、いえ、だって……。


「……貴方には本当に迷惑を掛けています。ごめんなさい」


 謝らないで下さい。でも私は、私は産まれた時からアヌ神を、アヌ教を信仰してきました。それが間違っていたということなのですか?


「それは私にも分かりません。いえ正しい事であったと信じています。でも今のアヌ教はその姿とは違ってしまった。これ以上は共に在れないほどに……」


 しかし、それでは私達は死後に救いは受けられるのでしょうか? アヌ神へ還る事は出来るのでしょうか?


「……リーザ。それは分かりません」


 そんな。それでは今までの私達は一体……。それにこれからは何を信じていけばいいのか……。


「本当にごめんなさい」


 お母様はゆっくりと私を抱きしめます。そして頭を撫でてくれました。私は鼻の奥がツンと痛くなって涙が止まらなくなってしまいます。


 私はどうすればいいのでしょう。今までの私はだってずっとずっとアヌ教の教えに従って生きてきました。これから私は何に従えばいいのですか。


「貴方は、貴方が思うものを信じたらいい。私も私のままに生きることにします」


 そんなの、出来るわけがありません。無理に決まっています。


「そんな事はありません。みんな本当はそうやって生きているのですよ。自分の意思で、己の人生を歩んでいるのです」


 そうなのですか……? 誰しもが神を信仰して従っているわけではないのですか?


「ええ。……いや、この言い方は適切ではないですね」


 お母様はゆっくりと顔を上げて、私を見つめます。


「――貴方は、貴方の神に従って生きればいい。それこそが本当の自由ということなのですから」


 私の、神ですか?


「ええ。貴方が望むもの。望まないもの。在りたい姿。在りたく無い姿。全てを決めるのは、貴方の中の神であり貴方自身。それを貴方の中から探し出して下さい。――その声に、従って下さい」


 私はいまだに理解が追いつきません。……でも意図せず彼女の言葉を思い出します。『――私達がそうでなけらばならないって、誰が決めたの?』とイオリはそう言っていました。彼女もまたお母様が仰っておられるように自分の中の神様に従ったのでしょうか。


「……今はまだ分からないかもしれません。でも大丈夫でございますよ。自分の心に耳を傾けて。貴方は何もしなくていい。ただ、受け止めればそれでいいのですから」


 分かりません分かりませんと、私は頭を振って拒絶します。怖いのです。それを受け入れてしまったら、私の世界は一変してしまいます。


 そしてポツリと私の口から言葉がこぼれ落ちました。

 

 ――何より、イオリは許されなかったではないですか。

 

「それは……」


 お母様は言葉に窮していました。でも、私は堰を切ったように話し続けました。


 彼女が死んでしまったのはアヌ教に背いたからなのではないですか? 外の世界で会おうと言っていたのです。それなのに彼女は……。死んでしまうくらいなら、自分を押し殺しても生きていた方がいいではありませんか!?


「リーザ……」


 私は柄にもなく声を張り上げました。でも思っていた事は本心です。私は、イオリが亡くなった事を今だに受け止める事が出来ていません。何故? どうして? お母様が悪いわけではない事も分かっているのに、その理不尽に怒りが止まりません。


「……違いますよ。あの子達はそれすらも覚悟の上の事でした」


 覚悟の上? それは自分達の命すらもですか?


「勿論。危険を冒してもなお彼女達は選んだのです。自由を求め、己が神に従って」


 そんな……。それはそんなにも素晴らしいものなのでしょうか。自分の全てを投げ出してしまうほどに。


「少なくとも彼女達はそうだったのですよ。……それに、リーザ。よく聞きなさい。イオリはきっと生きています」


 ……え? それは思ってもみない言葉でした。


「置かれていた遺体は二人分でしたでしょう? もう一人分の説明は損壊が酷かったと言っておりましたが、事実は異なっているのだと思います」


 でも確証もないのでしょう? 本当なのかもしれません。


「いえあの子達は追われる可能性も考えていました。最悪の場合も。その時にイオリだけはとアヌ教内外に味方を作っていたのですよ」


 味方ですか? その方がイオリ達が逃げるのを手伝ったと?


「確かに絶対ではありません。でもうまく逃げ仰たのだと信じています。けして私達に賛同する人がいないわけではないのですよ」


 そんな人達がいるなんて私は露にも思いませんでした。でももしかしたらイオリが生きている。その希望が生まれただけでも私にとって有り難かったです。


「ひとまずここから離れましょう。また時間を掛けて話せば貴方も――」


 言葉が止まると同時に、ダリアお母様の肩を氷の矢が貫きました。辺りの白い雪が鮮烈な紅に染まりました。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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