【3-4-3】
建物へと進むに連れてだんだんと人影がまばらになっていく。先ほどまでは商店なりが立ち並び生活感のあるものだったが、今は辺りはシンと静まり返っていてどこか厳かな様子に包まれている。
「……こんな人少ないならそのまんま潜入出来ちゃうんじゃないの?」
「今はたまたまじゃよ。フクローラン中の使徒が出払っとるからの」
「あー、それはスーニャの件で?」
「スーニャというよりお前さんのことじゃがの。……世界を隈なく探せと言われてるらしいぞ?」
「はっはー。まさかこんな目と鼻の先にいるとは思わないだろね?」
まったくいい気味だ。せいぜい汗水垂らして頑張ってくれたまえよ。
「……お主のせいで今世界中が迷惑被っておるんじゃからな?」
ドミニクから責めるような視線を受ける。分かってるって。私のせいで世界がぐちゃぐちゃになったことも。それでオルダークさん達みたいな犠牲が出ている事もさ。
「なら私が全部ケリをつけないとね」
「……? なんじゃって?」
ボソリと呟いた声はドミニクには届かなかったようだ。
「いーや何でもない。それよりもさ私今更だけどあんまりアヌ教のこと知らないんだよねー。別に使徒もよく分かんないし」
『だから色々教えてくんない?』と聞くと彼は呆れたような表情を浮かべる。
「……お主正気か?」
「え、いや、そんな?」
そこまで驚かれる? だって知らないものは知らないし。ここまでのんびり聞くタイミングもなかったしさ。いや忘れてたわけじゃないよ?
「それで? 何から知りたいんじゃ?」
「そうだねー。じゃあそもそも、アヌ教って何?」
「……そんな質問するのもこの世界にお主くらいじゃろうの」
「はいはい。でもここまで関わりが深い人から聞くことはないからさ」
私の言葉にドミニクは『まあ何でもよいがの』なんて言っている。そしてコホンと咳払いをし話し始めた。
「アヌ教自体の歴史は相当に古い。この世界の誕生と共にあるといっても過言ではないじゃろう。創始者はギィ=フクローラン。太古の神々の長女にあらせられる。この辺りは知っておるな?」
私は頷き話の続きを促す。
「ギィ様は世界にアヌ神のお考えを広めた。賢人、亜族、人族。言葉を介す生き物全てに対して。それに共感したもの達が集いアヌ教が形成された。ま、殆どは人族と精霊族じゃがな」
なるほど。そういえば今まで会ったアヌ教徒の関係は、基本的に人族や精霊族だった。亜族は種族柄あまりアヌ教の考えには共感し得ないのだろう。それとまだ疑問が残っていた。
「アヌの考えって?」
「掻い摘んでいえば、そうじゃの。……この世界の全てはアヌ神の一部である。互いを愛し敬いなさい。なぜなら我々はアヌ神そのものなのだから、けして損なってはならない。貶めてはいけない。そうならないよう互いを助け支え合いなさい。といった考えかの」
「……それだけ聞くと素晴らしいけどもさ、全然違くない?」
その教えからどうしてあんな暴虐不尽な行いが生まれるというのか。
「何ごとも行き過ぎれば形を変える。今のアヌ教は確かにおかしくなっているんじゃよ」
「ふーん? まあよく分かんないけどさ。あ、ちなみに使徒ってのも教えてよ」
「……使徒は、アヌ教にその身を捧げた事を意味する。髪の先から血の一滴まで、全てをのう」
出家したみたいなイメージなのだろうか? にしては随分と荒々しい印象だが。
「使徒はどれくらいいるの?」
「数百人程度じゃないか? 厳正な審査の上で定められる。なろうと思ってなれるものでもないぞ?」
「……ちなみにリーザやイオリはどうなの?」
リーザは使徒であるとの認識だ。自分から進んでなったという事だろうか?
「両親が使徒の場合は幼少期から教育がなされる。そんな子供達は初めから使徒として扱われる。リーザもイオリも、その類いじゃな」
という事は別になりたくてなっているわけでもない、と。
「そんなの、嫌がる子供だって絶対いるんじゃない?」
普通そんな強制されたら抗うだろうに。どうしてそんな事が罷り通っているのか。
「……お主は例えば、人が産まれていずれ死ぬ事に何か疑問を持つか?」
「は? なにそれ?」
「他でもよい。息を吸う事、話す事、食事をすること、寝る事。全ては当然でありそれに疑いを持つ事もないじゃろう?」
それはそうだ。そんな事当たり前過ぎて疑問に思う余地もない。
「……つまり、あの子達もそうだって言いたいの?」
ドミニクは頷く。その無表情からは感情を読み取る事はできなかった。
「そのような子供らにとっては、世界とはそういうものでそれを疑う事なんてまずない」
あの子達は、世界はそうだと、そうあるべきだと教え込まれていた。周りにいる人たちも同じ姿勢であるなら、確かに疑いようもないのかもしれない。
「……でもイオリは違ったんでしょ?」
「うむ。だから始末されそうになった。他のもの達へ影響が出ると思われたんじゃろうな」
なるほど。それでなんでここまで執拗に追いかけ回すのか合点がいく。
「しっかし、でも私は納得いかないなー。さっきの教えと矛盾してない? 損なっているし助け合ってないじゃん」
むしろ考えの逆を突き進んでいるように思えるのだが。
「彼らの念頭にあるのはあくまでアヌ神を崇め奉ることじゃぞ? その身を捧げると誓ったはずなのに約束を違えた。ならば個人には相応の罰が与えられるべき、とも捉えられる」
「……むむ。むむむ。うーん、そういうもんなのかなぁ」
やっぱり釈然とはならない。自分も立場違えば分かるもんなのだろうか。
「お主じゃって太古の神々への信仰はあるじゃろうに。背いてならないという考えは多少分かるのではないか?」
『それが少々行き過ぎているだけじゃがの』なんて言われてもやっぱ共感は出来ない。そもそも私は信仰してないし。
「じゃあさアダムとかドミニクとかはこれから何を目指してるの? イオリはリーザを助けたいって話しだったけど」
「……わしらはただ今のフクローランを止めたいだけじゃよ。これでも昔はアヌ教の端くれ。今の姿がおかしな事は理解しとる」
「あーそれだ。どう変なのさ?」
「今のフクローランは、まるで戦争を他国に仕掛けているように思える。アヌ教を信奉しないものは悪であるように看做され攻撃する事すら辞さない。尖兵である使徒もどんどんと増やしておるみたいじゃしの」
それは下手したらマグシアへと攻め込むという事だろうか。
「まあ滅多な事はしないだろうが、ただギィ様も扇動しているようにすら思える。スーニャの事は理解できるが何をお考えなのか」
「つまり貴方達はそれを止めたいって?」
「うむ。アヌ教の中にはワシらの考えに共感するものも多い。フクローランの外にものう。だから機会を伺っているというわけだ」
「それでスーニャを待っていたと。でもさそれはそれで問題なんじゃ?」
今のフクローランに賛成はしていなくともスーニャと協力するというのは反感を買わないだろうか。
「ま、そういう手もあるというだけじゃよ。実際ワシらにはあまり打ち手がないからの。……ほれ、そろそろ着くぞ」
ドミニクの声で前を向く。確かに目的地まではもう少しだった。
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