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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第3部】 うつろわざる世界

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【3-3-3】

 時間は戻り、私達がプリエール様と共に野盗を倒した時点と移ります。


 あの葬送の日からギィ様のお声を受けて、使徒を初めとしたアヌ教徒の一部は、自分達こそが世界を正すべきとの考えを持つようになりました。アヌ教の教えこそが正。それ以外は悪。そんな機運が高まり、日毎に同調していく方々が増えどんどんと極端な思考へと傾いていきます。


 フクローランの中には、数は少ないですがアヌ教徒でない方もいました。彼らは排斥され住処を追いやられました。アヌ教徒としての席だけがあり信仰に薄い方々もいました。彼らは選択を迫られました。アヌ教への信仰を強めるか、あるいは去るか。殆どの人は信仰を誓ったようです。


 さながら熱に浮かされたようでした。もっと信仰を。もっともっと信仰を。乾きを癒すように。苦痛から逃れるように。誰しもが自ら進んで信仰を強めました。寄付金の額を、祈りの時間の長さを、身体に刻んだアヌ神への想いの強さを、誇らしげに言い合います。自ら使徒になりたいと懇願する人が溢れかえり、日夜アヌ教の教えを広めるための集会が開かれました。


 実は、私とダリアお母様も今まさにその集会に出席していて、お話を聞いている所です。男性が中心に立ちアヌ教の在り方を演説しています。彼は確か使徒のラフィエルさんです。


 何故か分かりませんが、いつも私を睨んでいる気がして少し苦手な人ではあるのですけれど。ラフィエルさん曰くはアヌ教はそもそもがこの世界の導き手であり、今こそ世の中を統べるべきであると。それもギィ様の直接の手足である使徒こそがその礎となるべきと話していました。


 彼はひとしきり話し終えダリアお母様へ意見を求めました。ただお母様はボンヤリと何処かを見つめています。


「ダリア様?」


 ハッとお母様は顔をあげます。ラフィエルさんはその反応に露骨に不快そうな表情を浮かべました。


「……どうやらお疲れの様子ですな。最近お忙しいのでしょう。少し休まれたらどうか?」


 その言葉にお母様は慌てて首を振りました。


「お恥ずかしい所を見せてしまい申し訳ございませんでした。貴方のお考えに対して幾つか質問がございます。一つ目に――」


 お母様はツラツラとラフィエルさんの話されていた内容への質問と感想を述べていきます。それを受けてまたラフィエルさんもご自身の見解を述べられます。お二方ともにアヌ教についての理解が厚くて素直に尊敬してしまいます。私ももっともっと学びに努めなければなりません。


「……最後に宜しいですか?」


 ひとしきりのお話を終えた頃お母様がポツリと言いました。


「何ですかな? そろそろ終会の頃合ですが?」

「無論存じておりますとも。これは貴方にも皆様にも、お聞きしたい事でございます」


 何でしょう? 改まって何を仰られるのでしょうか?


「……私達は、救われると思いますか?」


 救われる? それは一体? 私と同じく周りの人達も戸惑った表情をしています。


「……いえ失言でございましたね。忘れてください」


 それからお母様は口を開く様子もなく、その場も程々に解散となりました。お母様も『リーザ戻りますよ』と私の手を引き、四方から視線を感じつつも足早にその場を後にします。

 

 家へと帰る中私はあの時の発言の意味をお母様に伺ってみました。


 お母様? 少しだけ宜しいですか?


「? はい。勿論問題ありませんよ。あ、今日の夕飯に鬼人族の甘味を頂きましょうか。随分と人気らしいですよ? 確かトフィと言ったでしょうか?」


 え! 甘味ですか? それは楽しみですね! 早く帰らなけれと! ……いやいやそうではなくてですね。


「では何かございましたか?」


 はい。あの時の、救われるか? という発言はどういう意図だったのでしょう?


 私の質問にお母様は少しだけ戸惑った様子をしておられて、ただ私を安心させる為か笑みを浮かべられました。


「……ふと、溢れてしまいまして」


 溢れた、というのは?


「……私達は果たして正しいのかと」


 回答頂いているはずなのに疑問はどんどんと増えていくばかりです。何にそんな疑問を抱かれているのでしょう。


 だって私達はアヌ神の意向に沿っているのですよ? 救いが齎せられないなんてあるわけないじゃないですか。


 そう言うとお母様の笑みが固まりました。


「そう、ですね……。きっと、そうです」


 それからはまたお母様は無言になり、私も家に着くまで何か喋りかけることもありませんでした。……何かおかしな発言だったでしょうか?


 その後何事もなく家に着き床に着きます。お母様はなんだかお疲れだったようで、すぐに寝息が聞こえ始めました。


 私も目を瞑り意識を手放す準備に努めます。今日も一日色々とありましたね。しかし最近はお母様の様子が少し変だった気がしますが、プリメール様かどなたかに相談した方が宜しいでしょうか? 


 うむむむ……と悩んでいると、トントンと扉を叩く音が聞こえました。いやこんな夜分に? 聞き間違えでは? なんて思っていると再度音が聞こえます。どうやら間違えではないようです。


 こんな夜分にどなたでしょう? 私は瞼を擦りながらに玄関へと向かいます。――と、私の手を引いて止めたのはお母様でした。


「リーザ。下がりなさい」


 寝ていた筈のお母様がいつのまにか起きています。ただその緊張したお顔に私は何も言えずにいました。お母様はゆっくりと玄関へと近づき声を掛けました。


「……どちら様でございましょうか?」


 緊張した声。気がつけばお母様は武器を手にしていました。


「――ダリア様。いらっしゃいますでしょうか?」

「……ライラ? ですか?」


 扉を開け声の主を確認すると、それは確かにライラ様でした。彼女もまた使徒でそしてお母様の友人です。私もよく遊んで頂きました。このお家に来て一緒にお食事したことも多いです。


「申し訳ございません。こんな夜分に……」


 彼女は申し訳なさそうにそんなことを言っています。お母様は『そんなこと気にしなくていいんですよ』と彼女に声を掛け家の中へと招きます。ただ私は我慢できずに声を掛けてしまいます。


 ライラ様。あの子は一緒ではないのでしょうか?


「いえおりますよ。ほら、こちらへ来なさい? お友達のリーザ様もおりますよ?」 


 どうやらライラ様の背に隠れていたようです。私は彼女へと声を掛けます。

 

 ――こんばんは。イオリ。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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